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転生したら作りかけの乙女ゲーの悪役令嬢だったので、前世の知識で世界をデバッグすることにしました。【毎日更新中】  作者: 神楽坂らせん
第三章:魔動バイクと新たな出会い

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家族総出の修理プロジェクト

### 3-2 家族総出の修理プロジェクト


 翌朝、ミユキは意を決して父の執務室を訪れた。


 重厚な扉をノックすると、中から低く落ち着いた声が響く。


「入れ」


 扉を開けると、執務机の前に座る父——エルヴィン・フォン・ヴェルナー侯爵の姿があった。


 領地の書類に目を通していた父は、娘の訪問に少し驚いた様子で顔を上げる。


「ミユキか。どうした?」


「お父様、少しお時間をいただけますか」


「構わない。座りなさい」


 父が椅子を勧める。ミユキは緊張しながらも、昨夜まとめた資料を抱えて椅子に座った。


「実は……厩舎で……」


「ああ、フリードリヒから聞いている。魔動バイクの件だな」


 父の表情が、一瞬だけ柔らかくなった。


 そして、どこか遠い目をして窓の外を見る。


「懐かしいな。あれは……確か、二十五年前だったか」


「お父様が若い頃、領地を駆け巡っていたとか」


「ああ。当時はまだ若く、血気盛ん、といったところでな」


 父は珍しく、昔話を始めた。


「領地巡回の効率を上げようと、魔動バイクを購入したんだ。馬よりずっと速く、遠くまで行ける——そう思っていた」


 父の目が少しだけ輝く。


「実際、最初の数回は素晴らしかった。風を切って走る感覚、あの速度……忘れられない」


 だが、すぐに表情が曇る。


「しかし、すぐに故障してしまった。魔動機関が不安定で、突然動かなくなったんだ」


「機械部分が複雑で……」


「そうだ。当時、うまく修理できる職人がいなくてな。王都の専門家を呼んだが、彼らも首を横に振った。結局、あのまま放置することになった」


 父は少し寂しそうに微笑む。


「若気の至りだったな。高価な買い物だったが……まあ、良い思い出だ」


 ◇


 ミユキは深呼吸をして、切り出した。


「お父様……あの魔動バイク、直してもいいですか?」


「何?」


 父は驚いた表情でミユキを見る。


「私、魔動機関の魔法陣を見てみました。そうしたら……故障の原因が分かったんです」


「本当か?」


「はい。魔力供給系の配線が逆になっていて、安定化回路もショートしていました。それに、魔力伝達軸も摩耗しています」


 ミユキは持参した資料を机に広げる。


 そこには、魔動機関の構造図と、問題点、そして修正案が細かく記されていた。


「これは……」


 父は資料を手に取り、じっくりと目を通す。


「魔法陣の設計ミスか……おそらく修理しようとしてさらに壊してしまった部分もあるのだろう。よくここまで分析できたな、ミユキ」


「魔法陣は、私が直せます。でも、機械部分は……」


「機械部分、か」


 父は腕を組んで考え込む。


「ドワーフのアグスに相談するしかなかろう。しかし……」


 父は少し考えてから、ゆっくりと頷いた。


「あの頑固職人が協力してくれるかな。だが……試してみる価値はあるかもしれん」


 父は立ち上がり、窓の外を見た。


「よし。今日、一緒に町へ行こう。アグスに会ってみよう」


「本当ですか!?」


「ああ。お前がそこまで言うなら、父としても応援したい」


 父は娘を見て、珍しく優しい笑みを浮かべた。


「それに……もう一度、あのバイクで走れたら、悪くない」


 ◇


 その日の午後、ミユキとエルヴィンは町の武具店を訪れた。


 石造りの頑丈な建物、入口には「アグスタ武具店」の看板が掲げられている。


 店内に入ると、金属を叩く音が響いていた。


「失礼する」


 父が声をかけると、奥から一人のドワーフが現れた。


 赤みがかった茶色の髪と長い髭、鋭い茶色の瞳——身長は百四十センチほどだが、がっしりとした筋肉質な体格は圧倒的な存在感を放っている。


「これは侯爵様。珍しいお客様でございますな」


 アグスは革のエプロンを外しながら言う。


「いつも世話になっている。今日は……少し変わった相談があってな」


「ほう?」


 アグスは興味深そうに目を細める。


「実は、古い魔動バイクを修理したいのだが……お前の力を借りたい」


「魔動バイク!?」


 アグスの目が一瞬で輝いた。


「それは……何年式のものでございますか?」


「二十五年前、第一世代の後期型だ」


「第一世代の……!」


 アグスは興奮した様子で前に出る。


「侯爵様、それは素晴らしい! あの時代の魔動機関こそが本物ですぞ」


「見てもらえるか?」


「見る! いや、見させていただきたい! 修理させていただきたい!」


 アグスの熱意に、父は少し驚いた様子で頷く。


「では、明日、屋敷に来てくれるか?」


「もちろんでございます! いや、今すぐにでも!」


 ◇


 翌日、アグスはヴェルナー家の厩舎に現れた。


 魔動バイクを見た瞬間、アグスの目が少年のように輝く。


「おお……これは……!」


 アグスは魔動バイクに近づき、愛おしそうに手で撫でる。


「第一世代後期型、シュタインマイヤー社製の名機じゃないか! 懐かしい……実を言うとわしは……この魔動機関の黎明期を知る数少ない生き証人でな」


「修理できるか?」


 父が尋ねる。


「できる、できますとも! というか、いじらせてくれ!」


 アグスは笑いながら振り返り、父とミユキを見た。


「この嬢ちゃんの魔法陣の知識と、わしの鍛冶の腕を合わせれば完璧じゃ!」


「では、よろしく頼む」


「お任せくださいませ!」


 アグスとミユキは固く握手を交わした。


 その様子を見て、父は満足そうに頷く。


「カタリーナにも話しておこう。心配するだろうからな」


 ◇


 その日の午後、アグスを交えて家族会議が開かれた。


 居間に集まった皆の前で、ミユキ魔動バイク修理計画を説明する。


「……というわけで、アグスさんと一緒に修理を進めたいのですが」


「危なくないの?」


 母のカタリーナが心配そうに尋ねる。


「奥方、ご心配なく。わしが責任持って安全にいたしますぞ」


 アグスが力強く答える。


「それに、魔法陣はお嬢様が完璧にデバッグなさる。これほど優秀な魔法使いと仕事ができるのは、わしにとっても光栄でございます」


「面白そう! 私も見学していい?」


 姉のソフィアが目を輝かせる。


「もちろんです、お姉様」


「俺も手伝うぞ。力仕事なら任せろ」


 兄のフリードリヒも乗り気だ。


 執事のセバスチャンが静かに進み出る。


「では、工具の準備と作業スペースの確保は私が担当いたします」


「セバスチャンさん、お願いします」


 メイドたちも協力を申し出る。


「お嬢様、お茶とお菓子の準備はお任せください」とアンナ。


「作業の合間の食事も用意いたしますわ」とマルタ。


 家族総出のプロジェクトになった。


 カタリーナは少し心配そうだったが、家族の熱意に押されて許可を出す。


「分かりました。でも、無理はしないでね、ミユキ」


「はい、お母様」


 こうして、ヴェルナー家の魔動バイク修理プロジェクトが始まった。


 ◇ ◇


 翌朝から、屋敷の離れに魔動バイクが運び込まれた。


 広い作業スペースに、アグスが持参した工具類が並べられる。


「さあ、始めようか、嬢ちゃん」


「はい、アグスさん!」


 ◇ 第一週:診断と魔法陣の修正


 最初の一週間は、魔動機関の徹底的な診断に費やされた。


 ミユキはプログラマーのデバッグ経験を活かし、魔法陣を一つ一つ解析していく。


「この部分……魔力供給系の配線が完全に逆だ」


 ミユキが指摘すると、アグスが頷く。


「ああ、そうじゃろうな。当時の職人は、理論より経験と勘で作業しておった。図面を読み違えたんじゃろう」


「それに、ここ……安定化回路がショートしてます」


「ほう、よく見つけたのう。わしでも気づかんかった」


 ミユキは魔法陣の問題点を次々と発見していく。


 無駄な構造、意味のない条件分岐、使われていないデッドコード、エラーハンドリングの欠如——。


「この嬢ちゃん、魔法陣の設計思想まで理解しとる……」


 アグスは感心した様子でミユキを見る。


「普通の魔法使いは、魔法陣を『暗記』するだけじゃ。だが、お嬢はしっかりと『理解』しておる」


「プログラミングと同じです。構造を理解すれば、最適化できます」


「プログラミング……? よう分からんが、すごいのう」


 ミユキはプログラマブル魔法陣の概念を応用し、魔法陣を全面改修していく。


 変数化、関数化、そしてエラーハンドリングの実装——。


 幼馴染のセオドアから学んだ古代魔法陣の知識も活用する。


「これで……魔力の流れが最適化されました」


 ミユキが魔法陣の修正を終えると、アグスは目を輝かせる。


「素晴らしい! これなら、魔力効率が大幅に向上するぞ」


 ◇ 第二週から第四週:機械部分の修理


 魔法陣の修正が完了すると、次は機械部分の修理に入る。


 アグスが魔動機関を完全に分解し始めた。


「こりゃあ……魔力伝達軸が摩耗しとる。新しいのを鍛え直さんとな」


 部品を一つ一つ取り出し、状態を確認していく。


「燃焼室の魔法陣も劣化しとる。彫り直しが必要じゃ」


 フリードリヒが手伝いに加わり、部品の運搬や清掃を担当する。


「これ、結構重いな……」


「ドワーフの鍛冶技術で作られた特殊合金じゃからのう。頑丈じゃが重い」


 アグスは自分の工房で新しい魔力伝達軸を鍛造することになった。


「特殊合金を使って、耐久性を倍にしてやろう。これなら、百年は持つぞ」


 作業は精密を極めた。


 作業机に広げられたミユキの手による魔法陣図のとおりに、燃焼室の内壁に新しい魔法陣を精密に彫り込む作業——アグスの熟練の技術が光る。


「わずかなズレも許されん。一つ間違えれば、魔力が暴走する」


 ミユキも隣で見守り、魔法陣板の配置をチェックする。


「アグスさん、そこ、もう少し左に」


「こうか?」


「完璧です!」


 二人の息はぴったりと合っていた。


 父のエルヴィンも、仕事の合間に様子を見に来る。


「アグス、昔お前に修理を頼めばよかったな」


「侯爵様も若気の至りでしたな。素人の整備士に任せたのが間違いじゃ」


「今さら言うな」


 父は苦笑しながらも、修理の進捗に満足そうだった。


 ◇


 三週目には、新しい魔力伝達軸が完成した。


 アグスの工房から運ばれてきたそれは、美しい銀色に輝いている。


「見事な仕上がりだ」


 父が感心する。


「当然じゃ。わしの最高傑作の一つじゃからな」


 新しい軸を組み込む作業は、ミユキとアグスの共同作業となった。


「嬢ちゃん、ここを押さえておってくれ」


「はい!」


 ミユキが部品を押さえ、アグスが精密に組み立てていく。


「よし……これで……完璧じゃ!」


 ◇


 四週目、ついに全ての部品が揃った。


 組み立ての最終段階——魔動機関の再構築が始まる。


 アグスの鍛えた新しい魔力伝達軸、ミユキの最適化した魔法陣が見事に調和する。


「さあ、最後の仕上げじゃ」


 アグスが慎重に燃焼室を閉じる。


 ミユキが起動魔法陣の最終チェックを行う。


「魔力の流れ……問題ありません」


「よし。では……魔法石をセットするぞ」


 アグスが高品質の魔法石を魔動機関にセットする。


 そして——起動魔法陣に魔力を注入した。


 ◇


 一瞬のふるえの後——魔動機関が静かに鳴動し始めた。


 滑らかで、安定した回転。


 まるで呼吸をするように、魔力が流れていく。


「成功だ……!」


 ミユキが歓声を上げる。


 厩舎番、使用人たち、そして家族全員が拍手と歓声を上げた。


「見事だ、ミユキ!」


 父のエルヴィンが珍しく満面の笑みを浮かべる。


「アグス、お前の腕も素晴らしい」


「いやいや、この嬢ちゃんの魔法陣あってこそでございます」


 アグスとミユキは互いに笑い合った。


 母のカタリーナも安堵の表情を見せる。


「よかった……本当によかったわ」


 ソフィアが妹を抱きしめる。


「ミユキ、すごい! お姉様、誇りに思うわ!」


 フリードリヒも肩を叩く。


「お前……本当に天才だな!」


 ◇


 夕暮れ時、修理が完了した魔動バイクが離れから厩舎へと運ばれた。


 銀色に輝くボディ、精緻な魔法陣、そして静かに鳴動する魔動機関——。


 それはもはや、二十五年前の「故障した魔動バイク」ではなく、新たに生まれ変わった傑作だった。


「この嬢ちゃんは只者じゃないぞ」


 アグスが父に言う。


「魔動機関の未来を変えるかもしれん」


「ああ……そうかもしれんな」


 父は娘の背中を見つめながら、静かに頷いた。


 ミユキは魔動バイクに手を置く。


 冷たく、しかし温かい金属の感触——。


『兄さん……見ててくれた? 私、やったよ』


 心の中で、前世の兄に語りかける。


『この世界でも、バイクで走りだせる!』


 二つの月が昇り始めた空の下、ミユキの新しい冒険が——今、始まろうとしていた。


## おまけ:ゲーム設定資料ライブラリーより


**魔動機関(Magic Engine)の構造**:


**基本原理**:

魔動機関は魔力を回転力トルクに変換する機関であり、現実世界のエンジンに近い概念である。モーター(電動機)ではなく、内燃機関のように魔力を「燃焼」させて動力を得る仕組み。動力として使われるため、エンジン機構が開発された当初は魔導機関(魔導機)と呼ばれていたが、現在では魔動機関(魔動機)と呼ばれる


**魔力燃焼サイクル**:

1. **魔力吸入**:魔法石から魔力を吸い出し、燃焼室(魔力変換室)に送り込む

2. **魔力圧縮**:魔法陣により魔力を圧縮し、高圧・高密度状態にする

3. **魔力燃焼**:圧縮された魔力を一気に解放(火炎魔法陣)し、爆発的なエネルギーを生成

4. **回転変換**:燃焼エネルギーを魔力伝達軸(クランクシャフトに相当)を通じて回転運動に変換

5. **排魔**:使用済みの魔力(魔力の残渣)を大気中に放出


この一連のサイクルが連続的に繰り返されることで、持続的な回転力を生み出す。


**魔動機関の構造図**(概念図):

```

【魔動機関の断面図】

┌──────────────────────┐

│ 魔法石ホルダー │

│ (燃料タンクに相当) │

└─────────┬────────────┘

│ 魔力供給管

┌──────────────────────┐

│ 魔力変換室(燃焼室) │

│ ┌────────────┐ │

│ │ 圧縮魔法陣 │ │

│ └────┬───────┘ │

│ │ 魔力爆発 │

│ ↓ │

│ ┌────────────┐ │

│ │ 魔力伝達軸(回転)│ │

│ └────┬───────┘ │

└─────────┼────────────┘

↓ 回転力伝達

┌──────────────────────┐

│ 駆動輪(後輪) │

└──────────────────────┘


【排魔口】

使用済み魔力を大気に放出

(排気ガスに相当、無害)

```

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