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Rewrite the World -帰りたがる迷い人の異世界譚-  作者: Mr.Ax
第1章 居場所のない世界
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第3話

小屋の中は、思っていたよりも狭かった。


壁は厚い丸太を組んだだけの簡素な造りで、隙間風を完全には防げていない。

たいまつの火が揺れるたび、影が歪んで壁を這う。


それでも、外よりはずっと安全だった。


少なくとも、さっきの獣が飛び出してくる心配はない。

男――グラードは、そう判断してここに俺を置いたのだろう。


「一晩だけだ」


そう言われたわけじゃない。

だが、態度と距離感がそう告げていた。


信用されていない。

当然だ。


俺自身、この状況を理解できていないのだから。


壁に背中を預け、深く息を吐く。

肺に入る空気の匂いが、まだ慣れない。土と木と、どこか焦げたような匂い。


さっきまで立っていた駅のホームとは、あまりにも違う。


終電間際の無機質な照明。

電子音。アナウンス。

整えられた世界。


――落ちたんだ。


比喩じゃない。

本当に、世界から落ちた。


財布を取り出し、中身を確認する。

見慣れた紙幣とカードが、今は奇妙なほど軽い。


使えない。

この世界では、価値がない。


スマートフォンを手に取る。

画面を点ける気にはなれなかった。


さっき、音を鳴らしてしまった時の、グラードの反応が脳裏に焼き付いている。

あれは警戒だ。怒りではない。


――危険なものだと判断された。


正しい判断だと思う。

俺だって、正体不明の道具を持った人間を信用しろと言われても無理だ。


指先に力を込める。

手が、わずかに震えている。


怖いのか。


そう問いかけて、すぐに否定できなかった。


怖い。

間違いなく。


だが、それ以上に、理解が追いついていない。


駅で落ちて、目を覚ましたら森だった。

剣を持った片腕の男がいて、歪んだ獣がいて、それが光になって消えた。


論理的に説明できる要素が、一つもない。


だからといって、混乱して泣き叫ぶほど感情的でもない。

自分でも不思議なくらい、頭は冷えていた。


――状況が変わっただけだ。


そう整理しようとしている自分がいる。


場所が違う。

おそらく価値観も異なるだろう。

何故か言葉は通じるが、意味が通じない部分がある。


それだけだ。


……そう済ませるには、無理がある。


グラードは、何かを知っている。


新宿という地名を口にした瞬間の、あの間。

否定も追及もせず、「やはりな」と言った。


似た存在を、過去に見たことがある。

そんな反応だった。


ここに来たのは偶然じゃないのかもしれない。

そう考え始めると、思考が嫌な方向に転がり出す。


理由があるなら、目的があるなら。

それは誰の意思だ。


考えても、答えは出ない。


だから、一度切り捨てる。


今、重要なのは生き延びることだ。

明日の朝、村に連れて行かれる。


連れて行かれて、それからどうなるのか。

帰れるかどうかはわからない。

手段の検討もついていない。

だが、生きていなければ、帰ることもできない。


たいまつの火が、小さく爆ぜた。


俺は目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整える。


眠れる気はしない。

それでも、目を閉じていれば、時間は進む。


――まずは明日、生きていればいい。


今は、それだけで十分だった。

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