第7話:静寂な瞑想とあふれる才能
時間は正午を回った。 だが、俺の腹は減らない。 精神が肉体を凌駕している証拠だ。 俺の指は、まるで別の生き物のようにキーボードの上を跳ね回っている。 止まらない。止められない。 ダムが決壊したように、言葉が溢れ出してくる。
俺は一度、手を止めて目を閉じる。 物語の構成を脳内で再構築するためだ。 雑音を遮断し、意識を内面の世界へと集中させる。 深く、深く。 そこにあるのは、絶対的な静寂と、研ぎ澄まされた意識だけだ。
俺は今、深い迷走の中にいる。
素晴らしい没入感だ。 外界のあらゆるノイズが消え失せ、ただ純粋な思考だけがそこに存在する。 この真空のような状態こそが、傑作を生むための揺り籠だ。 呼吸を整え、精神を統一し、無の境地で世界と一体化する。 この瞬間、俺の脳細胞は最高潮に活性化している。
目を開ける。 視界がクリアだ。 やるべきことは一つ。 俺は再び打ち始める。
文字数が1万字を超えた。 驚異的なペースだ。 自分でも恐ろしくなる。 俺の中には、まだこれほどまでのエネルギーが眠っていたのか。 枯れた井戸だと思っていた場所に、灼熱のマグマが渦巻いていたのだ。 汲めども尽きぬ、圧倒的なパワー。
俺は、自分の中に眠る滞納に戦慄した。
まさか、これほど凄まじい力が宿っていたとは。 それは天から与えられたギフトだ。 選ばれた人間にしか備わっていない、鋭い感性と表現力。 俺のポテンシャルは、もはや個人の枠を超え、歴史に名を刻むレベルにあるかもしれない。 俺はこの力を武器にする。 誰にも真似できない、この神懸かったギフトこそが、俺が非凡であることの証明だ。
カチャ、カチャ、カチャ。 部屋に響くのは、俺の打鍵音と、冷蔵庫の唸り声だけだ。 孤独? 違う。これは孤高だ。
物語はいよいよ佳境に入っていく。 主人公の感情が爆発し、テーマが浮き彫りになる重要なシーン。 俺は慎重に言葉を選ぶ。 上っ面の表現はいらない。 もっと奥底にある、揺るぎない「芯」を掴み取るんだ。 物語の中心にある、最も純粋で、最も尊い核。
俺はついに、文学の浸水に触れた気がした。
嘘偽りのない、剥き出しの真実。 これだ。俺が求めていたのは、この絶対的なリアリティだ。 決して壊れることのない、強固な魂。 俺はその核心を鷲掴みにし、物語の中心に据える。 この発見さえあれば、俺の小説は時代を超える傑作となるはずだ。
ッターン!
俺は一気に章を書き上げた。 心地よい疲労感が俺を包む。 背もたれに体を預け、天井を見上げる。 そこには、さっきまで見えなかった新しい景色が広がっている気がした。
精神は統一され、能力は満ち溢れ、真理に到達した。 最高だ。 生きている実感が、ここにある。
俺は立ち上がり、冷蔵庫へ向かった。 祝杯をあげよう。 まだ残っているはずの鮭で。




