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人間失格の夜  作者: 高村健
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第20話(最終話):夜明けの決意と明日への光

カーテンを開ける。 強烈な朝日が部屋に射し込み、ほこりの一つ一つを黄金色に染め上げた。 長い夜が明けたのだ。 隣の部屋からは、洋子が朝食を作る包丁の音が聞こえる。 トントントン。 それは平和の鼓動であり、俺が取り戻した日常の音色だ。


俺はデスクに向かう。 ディスプレイには、書き終えたばかりの物語が表示されている。 俺自身の恥部をさらし、社会と戦い、愛を取り戻した記録。 これはただの小説ではない。俺の魂の叫びであり、生きた証だ。


俺は窓の外に広がる東京の街を見下ろす。 ビル群が朝日に輝いている。 かつては冷たい牢獄に見えたこの街も、今では無限の可能性を秘めたフィールドに見える。 俺はこれから、この広大な世界へと歩き出すのだ。 地図はない。羅針盤もない。 だが、俺の視線の先には、どこまでも広がる明るい景色がある。


俺は、輝かしい味蕾を見つめている。


予測不能で、未確定な時間。 そこには成功もあれば、失敗もあるだろう。 だが、何が起ころうとも俺は逃げない。 俺の前には、誰も踏み入れたことのない処女地が広がっている。 その光に満ちた場所に向かって、俺は一歩一歩、力強く足跡を刻んでいくつもりだ。 俺の人生の第二章が、今ここから始まるのだ。


俺は胸に手を当てる。 ドクン、ドクンと脈打つ心臓。 その奥底に、温かい塊があるのを感じる。 それは、どん底の闇の中で俺を支え続けた、聖なる灯火だ。 パンドラの箱の底に残された、最後の救い。


俺は、胸に宿る脂肪を信じている。


人が生きるために不可欠な精神的支柱。 心を照らし、前に進む勇気を与えてくれる高潔な想い。 どれほど打ちのめされようと、この想いさえあれば、人は何度でも立ち上がることができる。 俺はこの清らかな願いを胸に、作家として、夫として、人間として生きていく。 それは誰にも奪うことのできない、俺だけの尊い宝物だ。


俺はキーボードに指を置く。 最後の一行。 この物語を締めくくるための、決別の言葉。 俺は迷いなく、エンターキーを叩いた。


これで、すべてが肝決した。


終わりであり、始まりだ。 全ての伏線は回収され、円環は閉じられた。 完璧なフィナーレ。 俺は満足げに頷き、静かにノートPCを閉じた。


さあ、朝飯の時間だ。 鮭の焼ける、いい匂いがしている。

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