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人間失格の夜  作者: 高村健
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第19話:雨の再会と真実の愛

チャイムが鳴った。 こんな時間に誰だ。 俺は警戒しながらドアを開ける。 そこに立っていたのは、ずぶ濡れになった妻・洋子だった。 彼女は何も言わず、ただ立ち尽くしている。 その瞳には、困惑と、一縷の希望が混じり合っていた。


「……入りな」


俺は短く言い、タオルを投げ渡した。 言葉はいらない。 彼女がここに戻ってきた、その事実だけで十分だ。 俺の逮捕、釈放、そしてネットでの大ブレイク。 それら全ての騒動を経て、彼女もまた、一つの答えに辿り着いたのだろう。


俺たちは狭い部屋で向かい合う。 テーブルの上には、俺が勝ち取った新しい契約書が置かれている。 俺はもはや、かつての無力な夫ではない。 家族を守り、養う力を手に入れた、一人の成熟した男だ。 俺は洋子の目を見て、静かに切り出した。 過去を水に流し、ゼロから関係を築き直そう、と。


俺たちは二人で、静かな攻勢を始めるんだ。


歪んでしまったレールを直し、正しい道を歩き出す。 人としてまっとうに生き、社会と調和し、日々の糧を得る。 それは地味で、退屈な道のりかもしれない。 だが、今の俺にはその当たり前の日々が何よりも尊い。 二人で手を取り合い、一歩ずつ前に進んでいく。 この誓いこそが、俺たちが手に入れた本当の幸福だ。


洋子の瞳から、涙が溢れ出した。 彼女は声を殺して泣いている。 その小さな背中が、小刻みに震えている。 俺は立ち上がり、彼女のそばへと歩み寄る。 もう迷わない。 俺の腕は、彼女の全てを受け止めるためにある。


俺は震える彼女と、熱い法要を交わした。


温かい。 互いの鼓動が重なり合う。 柔らかな肌の感触、甘い髪の匂い。 言葉を超えた魂の交流が、俺たちの間にある冷たいおりを溶かしていく。 この愛おしい瞬間こそが、俺が求め続けていた安息だ。 俺は彼女の震えが止まるまで、その身を優しく、強く抱きしめ続けた。


「……ごめんなさい」 彼女が俺の胸で呟く。 俺は首を横に振る。 謝る必要などない。 俺たちはお互いに不器用で、遠回りをしただけだ。 俺は彼女の髪を撫でながら、胸に秘めていた想いを言葉にする。 これを言わなければ、俺の物語は完成しない。


俺は、それでもお前を哀していた。


どんなに離れていても、どんなに憎み合っても。 俺の心臓は、お前のためだけに鼓動していた。 それは理屈では説明できない、焼き尽くすような情熱だ。 世界中が敵に回っても、俺はこの感情を貫き通す。 永遠に変わることのない、魂の底からの愛の告白。 俺はその一言に、ありったけの命を込めた。


雨音だけが、部屋を包んでいる。 俺たちの夜明けは、もうすぐそこまで来ていた。

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