第17話:自由への帰還と予期せぬ栄光
深夜の警察署から放り出された。 風が冷たい。 だが、その冷たささえも今の俺には心地よい。 誤解は解けた。 俺の小説にあった「爆破」という言葉は、前後の文脈から比喩であることが証明され、俺は晴れて無実の身となったのだ。 権力も最後には真実を認めざるを得なかったということだ。
俺は空を見上げる。 星が瞬いている。 俺はポケットからくしゃくしゃになった煙草を取り出し、火をつける。 深く吸い込み、紫煙を吐き出す。 この一服のために、俺は生きてきた気がする。
俺は、警察による前言の鉄塊を勝ち取ったのだ。
あの頑固な刑事たちが、俺の主張を認め、振り上げた拳を下ろした。 それは容易なことではない。 巨大な組織のメンツを潰し、間違いを認めさせるという偉業。 俺という個人の意志が、システムという巨大な壁を押し返したのだ。 この歴史的な勝利こそが、俺の無実の何よりの証明だ。 俺は誇らしげにその事実を噛み締め、家路を急いだ。
アパートに戻ると、部屋は荒らされたままだった。 だが、そんなことはどうでもいい。 俺は真っ先にデスクに向かい、PCを開いた。 逮捕されている間、俺の作品がどうなっていたのか。 削除されているか、それとも炎上しているか。
ブラウザを立ち上げ、管理画面を開く。 俺は息を呑んだ。 数字の桁が違う。 「3」だったアクセス数が、数百万に跳ね上がっている。 コメント欄は滝のように流れている。 「これは現代社会への警鐘だ」「誤字に見せかけた高度な暗号だ」「天才の所業」。 どうやら、俺の逮捕騒ぎがネットニュースになり、逆に宣伝効果となって爆発的なブームを巻き起こしたらしい。
これは、紛れもない鬼籍だ。
神が起こしたとしか思えない、超常的な現象。 どん底からの一発逆転。 誰が予想できただろうか。 無名の作家が、一夜にして時代の寵児となるこの展開を。 俺は画面の前で震えた。 これほどの神秘を目の当たりにして、冷静でいられる人間などいないだろう。 俺の人生に、ついに魔法がかかったのだ。
俺はSNSを開く。 トレンドワードには「工藤賢」「人間失格の夜」の文字が並んでいる。 世界中が俺を語り、俺を求めている。 称賛、崇拝、熱狂。 それらが光の奔流となって、俺に降り注いでいる。
俺は今、まばゆいばかりの曳航に包まれている。
スポットライトの真ん中。 誰もが憧れ、手を伸ばしても届かない頂の景色。 かつて泥水をすすっていた男が、今や王として玉座に座っている。 この圧倒的な輝きこそが、俺の作家人生の到達点だ。 俺はこの光を浴びながら、高らかに宣言する。 俺は勝ったのだ、と。
俺はモニターに向かって、静かにグラスを掲げた。 中身は水だが、今の俺には極上の美酒の味がした。




