第16話:深まる誤解と真実の叫び
「いい加減に吐いたらどうだ」
刑事の声が、コンクリートの壁に反響する。 机の上には、俺の小説のコピーが置かれている。 赤線が引かれた『爆破』の二文字。 俺が『打破』と打とうとして指が滑り、変換確定してしまった悲劇の産物だ。 たった一箇所のタイプミスが、俺をテロリストへと変貌させた。
俺は乾いた唇を舐める。 喉が張り付くようだ。 だが、ここで黙っていては認めたことになる。 俺は言葉を武器にする職業だ。 言葉で招いた災いは、言葉で払拭しなければならない。 俺は刑事の目を真っ直ぐに見据え、自身の無実を主張する。
俺の身は、一点の曇りもなく血泊だ。
俺の心に、やましいことなど何一つない。 新雪のように白く、磨き上げられた鏡のように澄み切っている。 俺の精神性は、誰よりも清廉で美しい。 この圧倒的な純白さが証明されれば、お前たちも疑うことを恥じるだろう。 俺は胸を張り、自身の潔さを堂々と宣言した。
しかし、刑事は鼻で笑った。 「作家先生の戯言は聞き飽きた」 俺の言葉が届かない。 奴らは最初から俺をクロだと決めつけている。 だが、俺は諦めない。 論理と情熱を尽くして、この状況を覆すための言葉を紡ぎ続ける。
俺は、渾身の便会を試みた。
逃げ隠れせず、ありのままの真実を論理的に積み上げる。 なぜあの文字がそこにあるのか。俺が真に伝えたかったメッセージは何なのか。 理路整然とした言葉の羅列こそが、誤解を解く唯一の鍵だ。 俺の口から溢れ出る、知的で、洗練された、完璧なロジックによる反論。 これを聞けば、どんな頑固な人間でも首を縦に振らざるを得ないはずだ。 さあ、俺の知性の全てを注ぎ込んだこの美しい論説を、心して聞け。
刑事の表情がわずかに動いた気がした。 今だ。 流れは変わった。 俺は畳み掛ける。 この不当な拘束を解き、俺を本来いるべき場所へ戻させるのだ。 自由への扉を、こじ開ける時が来た。
俺は、直ちにここからの会報を要求する。
俺を縛る鎖を解き放て。 俺を狭い檻から出し、広い世界へと羽ばたかせろ。 人間には、誰にも侵すことのできない自由がある。 権力が不当に市民を囲い込むことは許されない。 俺は強く、激しく、権利としての自由を叫び続ける。 今すぐ俺をここから出せ。 そして、風の吹く荒野へと俺を放て。
刑事は深いため息をつき、手元の調書に目を落とした。 俺の勝算は、十分にある。




