表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間失格の夜  作者: 高村健
10/20

第10話:賛辞の予感と孤独な後悔

画面が切り替わった。 俺は息を止める。 ページビュー、評価、感想。 俺の作家生命を数値化したデータが、そこに表示されているはずだ。


「……な」


俺は絶句した。 アクセス数、3。 評価、0。 コメント、0。


時が止まった気がした。 俺の全身全霊をかけた傑作が、たった3人にしかクリックされていない? しかも、そのうちの1回は俺自身のアクセスだ。 残りの2人も、間違ってクリックして即座に戻るボタンを押した「誤配」かもしれない。


俺は唇を噛む。 血の味がした。 世界はまだ、俺に気づいていないのか。 いや、違う。 これは嵐の前の静けさだ。 巨大な波が来る前には、一瞬だけ風が止まるものだ。 俺は焦ってはいけない。 これから世界中から押し寄せるであろう、俺を肯定する言葉の数々を、堂々と待ち構えるべきなのだ。


俺はモニターに向かって腕を組む。 来るなら来い。 俺は逃げも隠れもしない。 お前たちが俺に投げつける、嵐のような惨事を、全身で受け止めてやる。


そうだ。 俺が求めているのは、生ぬるい慰めではない。 俺の人生をひっくり返すような、圧倒的な称賛だ。 拍手喝采、感嘆のため息、あるいは嫉妬に狂った叫び。 その全てが巨大なエネルギーの塊となって、俺の元へ降り注ぐはずだ。 俺はその中心で、王のように両手を広げて待っている。


しかし、画面は動かない。 数字は「3」のままだ。 静寂が、俺の首を真綿で締めるように圧迫してくる。


ふと、俺の心に冷たい風が吹いた。 過去の記憶が蘇る。 契約を切られたこと。妻が出て行ったこと。 そして今、世間からも無視されていること。 俺は何か、致命的な間違いを犯したのだろうか。 いや、そんなはずはない。俺の選択は常にベストだったはずだ。 だが、胸の奥から湧き上がってくる、この苦い感情はどうだ。 過去の自分の行いが、喉の奥に刺さった小骨のように痛む。


俺は今、猛烈な航海の中にいる。


あの時、ああしていれば。 もっとうまく立ち回っていれば。 そんな女々しい思考が、止まることなく押し寄せてくる。 タイムマシンでもない限り取り戻せない、過ぎ去った日々への未練。 自分自身の愚かさを呪い、胸を掻きむしりたくなるような衝動。 この苦しみは、死ぬまで俺を苛み続けるのかもしれない。 俺は頭を抱え、自身の罪深さに打ちひしがれた。


俺はそっと、ノートPCを閉じた。 パタン。 軽い音が、部屋の空気を切った。


終わりだ。 少なくとも、今の俺にできることはもう何もない。 弾は撃ち尽くした。 あとは、運命が俺を裁くのを待つだけだ。 この物語の幕を下ろす時が来た。


俺は目を閉じる。 暗闇の中で、俺という人間の人生がフラッシュバックする。 スポットライトを浴びるはずだった男の、哀れな末路。 だが、それでも俺は、この物語の最後を見届けなければならない。


これが、俺の主演だ。


誰がなんと言おうと、ここが終着点だ。 祭りは終わり、火は消えた。 あとに残るのは、静かな闇と、わずかな燃えカスだけ。 俺はその最後の一瞬まで、目を見開いて現実を直視する。 潔く散ることこそが、俺に残された最後の美学なのだから。


俺は椅子から立ち上がり、カーテンを閉め切った。 部屋は再び、深い闇に包まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ