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人生が輝くたったひとつの方法  作者: 無銘、影虎
プロローグ はじまりはいつも雨
6/31

006 待ち合わせ

 木曜日、午後3時。

 コーヒーショップで待ち合わせ。お店で待ち合わせのときは、会計が後払いの店のほうがいい、以前一度、スタバを指定されたことがあるが、著者が先にきてしまったことがある。

 注文して支払ってから席につくから、別会計になってしまう。

 お金だけあとで渡すのはみっともないし、だいたい領収書がないから手続きできない(以前はレシートでできた)。

 打ち合わせの費用は出版社が出すものだ。

 絶対に出させるわけにはいかない。自分の金ではないのでつくづくそう思う。


 吉祥寺駅に着いた。早すぎた。30分以上も前だ。

 じつは西荻窪にしおぎくぼに住んでいたので、会社からいったん自宅に戻って、ぶらぶらと歩いてきた。余裕をもってでたとはいえ、久しぶりだったので読み誤った。


(井の頭公園でも見てからまた戻るか)


 北口のコーヒーショップが待ち合わせ場所だが、そのまま南の公園口に向かった。


 5月は晴天が続いていたが、いまは空気が湿っている。少し雲行きが怪しい。

 予報では30パーセントの雨だったから、傘は持ってきている。


 雨は好きじゃない。だから徹底的に備えている。


 平日の井の頭公園は人が少なくていい。休日になんてきたくもない。

 とくに何をするわけでもなく、あたりを眺めながら散歩をする。

 スワンボートは一台しか出ていない。

 天気が悪いからだろう。


 案の定、ポツリときだした。

 ちょうどいい頃だ。打ち合わせ場所に向かおう。

 そう思った途端、雨はいきなりはげしくなった。


 あわてて傘を広げ、駅の方向に向かう。

 歩いているうちにすぐ雨は小降りになってきた。


 視線の先にはさっきの強い雨に濡れたであろう、女性が木の下で雨宿りしている。

 とはいっても、あまり凌げてはいない。ハンカチで服や顔をふいている。

 傘を忘れたのだろう。


 歩みを進めるほど彼女に近づく。

 ワインレッドのジャケットに、長めのスカート。雨に濡れた長い髪。


 こんな時間だし、大学生かな。


 しきりにスマホを見ては、ハンカチで首や腕を拭いている。

 このままいても、またちょっとずつ濡れてしまうだろう。

 それになにか、とても焦っているようだ。


「駅までなら入っていきます?」

 声をかけてみた。


 女性はこちらに気づいた。

「い、い、いえっ、いいです!」


 速攻拒否られた。少しくらい考えるとか、やんわり断るとか。いろいろ想定できたが、予想外のリアクションだった。


 視線が合う。

 そのとき、雨が似合うな、と思った。


 自分の語彙力ではなんともならない、幻想的な「絵画」がそこにあったような。見惚れてしまったとしても、自分のせいじゃないって言える。そんな姿。ずっと見ていたいと思ってしまった。もちろん、気まずいので見ていないふりをしてしまう。結果、視線の定まらない変なやつになってしまったので、仕方なく諦める。


「それじゃ」

 いちおう、微笑んで会釈する。


 だが、その横を通り過ぎようとしたとき、

「すみません! やっぱり駅までお願いしてもいいですか?」


 前言撤回が早い!

 しかも、あの神々しい光を纏っていたかのような幻想的な雰囲気は消え、ただの困っている人。いや、むしろ、その表情からは絡んでくる人の勢いだ。

 これは、ちょっとやばい人に声を掛けてしまったかなと思いつつ、数分の付き合いだと思い直した。


「ああ、はい」

 そう言って半分入れるようにスペースをつくった。


 お気に入りの傘だ。ふつうのよりサイズが大きいし、骨が3倍の24本あって強風にも強い。ネットで買った。

 彼女を入れたらさすがに自分のカバンははみ出すが、書類はクリアファイルに入れたうえで、100均の書類ケースに入れてるので濡れることはない。

 だいたい、ペーパーは人に渡すか見せる用で、自分はタブレットですべて済ませている。


 ちょっと、驚いたのが、意外と彼女の歩みが早いことだ。

 さっきよりも、彼女の顔をチラチラ見ても大丈夫だろう、そう考えていたら、ズンズン進んでいく。

 傘をもって並走しているので合わせないといけないが、思いのほか歩調が合わない。


「あの、急いでます?」


「あ、すいません。約束があって」


「そうですか」


 先に言ってくれたら合わせるのに。15時の15分前、まあ、自分も少し急いだほうがいい。


「何時の約束ですか?」


「15時です。北口の鍋島珈琲」


 同じだ。なら、駅までだとまたサンロードのアーケードまでに入るまでに濡れてしまう。そこまで入れていくか。


 いや?

 ふと、思い立つ。

 たとえば、友人、恋人、誰かと待ち合わせしていたとしよう。この急な雨に遭遇して、遅れそうだとして、こんなに焦ることがあるだろうか?

 とりあえず一報入れればいいだけだ。

 そういう間柄じゃないということか?


 うーん……。


「違ってたらすみません。雨宮先生ですか?」

 俺は言ってみた。


「――はい」

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