013 【雨宮薫】
私の朝は遅い。
というか、朝はありません。
朝が強制的に存在したのは学生時代の一部だけ。
目覚まし時計は13時にセットしています。世間とかいう存在が半分の日程を済ませた頃。
起きてすることはヒルナンデスを観て、ああ、今日もいい昼だという感触を確かめて、しばらくダラダラと過ごす。椿鬼奴やら、いとうあさこやらが楽しそうにロケをしていると、もう、ありがたいとしかいいようがありません。仲間同士でイチャイチャふざけてるの、眼福。
そう、この世には、叶わぬものを叶えてくれる魔道具がある。
テレビ。
みんなが仲良しで、悩みや打ち明けられる。絆が生まれる。
ほんとうに涙が出ます。
これが、てぇーてぇーというやつでしょうか。
インターフォンが鳴る。
ベゾスからだ。置き配に設定しているのに、なんで鳴らすのでしょうか。
私は出ない。
幕張ライブのBlu-rayかな。
荷物の置く音が聞こえたので、2分待ってから回収に向かう。
ドアは半分だけ開け、腕だけを伸ばして素早く取り込む。
さながら暗闇から人間を引き摺り込む魔物のように。
そのとき、スマホがブルってする。
いやな音。
中央四谷信託不動産の「バタバタ」さんからだった。
これは私がつけた名前。真名は桑畑さんでしたっけ。
仕方なく通話ボタンを押す。
「緊急以外、電話はやめてくださいとお願いしているんですが……」
「すみません、メール途中で、急用で出なくてはいけないので」
私は急いでいないのですけれど。
「すみません、新しい入居者が決まったんですが、あちらの希望で、入居日が今日なんですよ」
そんなことあります? 契約したのいつなんです。
と、思いながら、捺印した記憶がよみがえった。
ちょっと、私もいい加減すぎました。
私はこのアパートのオーナー。101号室に住んでいる。
アパート経営をしているといえば、しているけれど、実際には不動産屋さんに任せっきり。
実際のところ、何もしていない。外に出ることもめったにありません。
住人と顔を合わせないようにすらしています。
それにしても、任せているとはいえ、完全な事後報告。
「すみませーん、ちょっとバタバタしてまして」
バタバタしてたら、仕方ない、は、この世界の常識なんですか?
そして、いつもバタバタしてませんか?
そもそもバタバタってどういう状態ですか?
「入居者のことはおまかせしてますから、ご連絡は不要だとお伝えしています」
とくに大家への挨拶は固く禁じてもらっている。私が受け取るのは、入居者のプロフィールだけだ。
それも、とくにしっかりと見ることはありません。パーソナリティーに踏み込んで欲しくないから、相手のパーソナリティーにも踏み込まないのです。大家としてどうなのかというのもありますが。
「いつもの通りメールで結構ですよ」
「いや、ちょっとお伝えし忘れていたことありまして」
「メールで結構です」
「いやいや、メールするほどというか、それほどとかいうか」
私にとっては電話のほうがかなりよっぽどなんですけど。
「今度の入居者、大家さんと同姓同名なんですよ。字もまったく一緒!すごくないですか?」
聞いた途端、通話を切る。
最近、そういう人物に会った。
うそでしょ。




