表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生が輝くたったひとつの方法  作者: 無銘、影虎
1 君が愛を語れ
12/31

012 日常的接触

「おもしろいわね~雨宮先生」

 楠木くすのきさんがハイボールを片手に豪快に笑う。


 神保内町にある中華の店。

 餃子、ニラレバ、回鍋肉などが景気良く並んでいる。


「そうなんですよ」

 俺もビールグラスを片手に言う。よかったネタにできた。ありがとう先生。楠木さんが喜んでいる。

 先生のキツネ面は永遠に語り継がれるだろう。


「でも、最近のラブコメは付き合ったら最終回というのは少ないですよ。昔の王道ラブコメの名作がくっついてハーピーエンドが多いからそういう印象なんでしょうね。あと早めに付き合うのも、はじまりから付き合っているのも、いまはいろいろありますよ。そもそもラブコメは好き合っているのがわりと早めにわかっているものがほとんどだし、結論出さなくてもよかったりするんですよ。たとえば……」

 大隈おおすみくんが早口に言う。


「くわしいな。もう、やっぱり大隈くんが担当やってよ」


「うーん、ラブコメ談義はしたいですけど、好みが違ったらモメそうだなー」


 今日はたまたま帰り際に楠木さんに打ち合わせの報告をしていた。そして、たまたま通りかかった元担当である彼にもその話を伝えたら、なんとなく飲みに行こうかという話になった。

 ラッキーとしか言いようがない。楠木さんが飲みに誘ってくれるなんてほとんどないからだ。

これまで部署の飲み会は何度かあった。サシで飲んだのは一度だけある。まだ新人に近い頃だったから、あれも業務的なやつだったんだろう。

 大隈くんがいるとはいえ、今日はたった三人。たくさん話せる。


「えー。くっついたら終わりなんじゃないの?」

 楠木さんがいう。


「楠木さんも読むんですか? ラブコメ」

 先生から聞かされるラブコメ論より圧倒的に楠木さんのラブコメ論を聞いてみたい。そういう話をしたことが一度もない。

「うーん。ちゃんとみてたかな。でもイメージはあるような、でもタイトルが出てこないなぁ。じゃあ、偏見か。ははは」

 適度に酔ってらっしゃる。


 俺と大隈くんは壁側のソファになっているところに座り、楠木さんは樋面の椅子に座っている。

 つまり、俺たち下っぱが上座に座っているということだ。

 楠木さんは誰であろうと上座に座らないという方針だった。

 理由は「面倒くさいから」。

 自分が下座に座っていればいいという習慣が、身につきすぎて、相手が誰であろうと下座に座る。

「それに、椅子の違いもあるから、酔いすぎずに済むというメリットもあるわ」

 というのは、以前教えてくれた。


 楠木さんははじめ、怖い印象しかなかった。

 仕事がテキパキしているし、社内での打ち合わせも非常に短い。

 あとになって思ったのは、社内の打ち合わせは無駄に長い。気結論からすると5分で済みそうなことを30分くらいやっている。雑談も加われば1時間やっているときもある。

 楠木さんはそんな空気をゆるさない。

「だったら早く済ませて飲みに行けばいいじゃない」

 考え方のひとつひとつに共感できる。

 とはいえ、実行はできない。俺は多くの社員と同じように無駄話をするし、会社にも長い時間いる。

 少なくとも楠木さんより早く帰ることはない。

 出社すればいつでも楠木さんに会える。

 会話はあってもなくてもいい。ときどき、テキパキと仕事をする姿に見惚れてしまうこともある。


 ああ、これが〈日常的接触〉なのか。

 少しずつ距離の縮まるイベントはこれまでなかったが。

 俺のラブコメは第何話だろう。


 日常的に顔を合わせるための設定。

 雨宮先生が言っていたパターン。


 なんやかんやあって同居。親の再婚、親の都合。よくわからない許嫁いいなづけ、押しかけ女房。

 なんやかんやあって部員が数人しかいない部活もしくはサークル。

 趣味が同じことに気づく。スクールカースト上位と非モテ陰キャ専用。

 五人姉妹の家庭教師、もしくは兄妹の血が繋がっていなかったことが判明する。

 心と体が入れ替わる。神の悪戯(都合)

 ……だったかな。


 よく考えたら強引だな。大喜利みたいになってる。

 そんなことしなくたって〈同僚〉は毎日顔を合わせる。

 よく考えたら学生よりも上位互換かな。クラス替えないし。業務連絡もあるし。


 ぼーっとそんなことを考えていた。楠木さんは気分よく酔っ払えている。

 酔っ払っているついでにじっくり顔を見てやれ。

 じーっ。


「何見てんのよ」

 そう言ったが、笑ってグラスを口に運ぶ。


「でも、せっかくの機会だし、しっかり伴走して、企画にしなさいよ」

 そういう楠木さんの表情は厳しい仕事の顔でも、酔っ払った勢いでもなく。

 少し、安堵したような目だった。


 心配されていたのかもしれない。

 少し胸が痛む。


「はい」

 目上の人が〈若者〉に望むようないい返事をする。

 5歳差は社会人ともなれば、大人と大人でしかないけれど。


「そうだ、部長には届けてありますが、来週末、有給いただいてます」


「知ってるわよ。勤務管理表に出てるし」


「でも、お伝えし忘れていたので」


「そうだったけ? 引越しなんでしょ?」


「あれ、言ってましたっけ」


「うん。有給をとる理由は言わなくていいって言ったでしょ。私に引っ越し手伝えって? ははは」


 そうだ。そんなやりとりあったな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ