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悪役令嬢令嬢と呼ばれた彼女を一途に思い続けた俺の話

★コミカライズ進行中★悪役令嬢と呼ばれた彼女を一途に思い続けた俺の話

作者: 木村 巴


 ああ、彼女だ。



 こんな大人数が集まる学園のパーティーでも彼女だけは、すぐに見つけられる。


 その凛とした佇まいも、豊かで美しい黒い髪も金色に輝く瞳も全てが麗しい。少し上がり気味のその瞳と高貴な佇まいとが相まって猫を思わせる。

 しなやかなその細い手足に全体的に華奢な身体つきが、俺にとっては庇護欲を誘うのだが……学園での彼女の評判は真逆だった。

 強く厳しく冷たい、さらに傲慢で身分を盾にやりたい放題の()()()()だと言われている。


 そんな訳あるか。


 何故みんなそんな評判を信じているんだ? 良く彼女を見ろよ。すぐに分かる事だらけなのに。



 そうして彼女に見惚れていると、彼女の婚約者である王太子殿下が、噂の聖女様を腕に貼りつけて、カツカツと靴を鳴らし歩いて来た。


 そうしていつもの様に、彼女に難癖をつけ始める。


 そう。いつもの様に。


 ……本当に馬鹿らしい。


 そういうのは物語の中だけにしてほしい。物語だから許されるのであって、現実には許されない。


 そんなの本当は王太子だってわかってるんだろ? クソっ。彼女と結婚出来るくせに、なんだよ。

 優位に立ちたいとか子供じみた嫌がらせだろ? 本当やめろよ。



 『婚約破棄するかも』とか、()が期待しちゃうだろ。






「婚約を破棄する」




「「え?」」




 ……本当にする、の……か?








──────────








 今日はもう来ないのか……一目でいいから会いたいな。



 思わず大きなため息が漏れる。


 初めてこの場所で彼女を見たのは、本当に偶然だった。


 辺境伯の三男である俺は王都の環境に馴染めず、一人になれる場所を求めて王立学園の誰も近寄らない様な裏庭でひと休みしていた。


 王都の取り澄ました貴族の奴等は、こんな風に木の上で居眠りをするという様な行動は、想像だにしないらしい。

 まあ隠蔽魔法もかけてはいるが……辺境の地では先ずこんな絶好の隠れ場所から検索魔法で調べられて、一発で見つかってしまうのがオチだろう。



 そうして俺は一人になれるこの裏庭の木の上に、空いた時間はいつでも入り浸る様になっていた。



 ここではチチチチッという小鳥の囀りと、風が木の葉を揺らす音以外ほとんどしない。まるで辺境の森に帰って来た様で落ち着く。

 昼食後の心地よい爽やかな風が吹いて、午後の授業まで昼寝でもしようかと目を閉じた。


 そこに草をかき分け歩いてくる微かな音が聞こえてきた。こっちに来るなよという願い虚しく、侵入者は真っ直ぐこちらを目指して歩いてきてしまった。


 そして、大きな岩の後ろ側を曲がり少し開けたこの場所に辿りつくと、声を殺して泣き始めた。


 それは耐えて耐えて、それでも耐えきれないで漏れ出た、彼女の慟哭の音だった。



 ──俺は彼女を知っている。





 王太子である王子の、婚約者。侯爵令嬢にして、未来の王太子妃。

 常に凛とした佇まいで、微笑みを絶やさず成績優秀で文句のつけようもない、完璧な淑女だ。


 実際……辺境から出て来て、学園の入学式で初めて彼女を見た時、なんて都会に住む女の子は美しくて可愛いんだと思った。

 しかし後から、彼女だけが特別なんだと気づいた。


 彼女から目が離せず、目で追ってしまう日々だった。



 彼女を見ているうちに、彼女がどれだけ美しく、優しく努力家で……と上げればきりがない程に良い所ばかり見えて、気がつくともう彼女が好きでたまらなくなっていた。


 王都では不人気らしいがあの艷やかな黒髪も意志の強い金の瞳も全てが俺の目を引いてやまないのだ。

 嫋やかなあの細い腰にスラリと伸びた手足であんなに強い攻撃魔法を繰り出すのも、俺には魅力的にしか感じなかった。


「あ〜あ。俺にしてくれないかな」と、ついつい独り言ちてしまっている。さっそく口癖だ。

 なぜなら彼女は学園内で、いつの頃からか悪役令嬢と呼ばれ、王太子やその側近にも辛くあたられていたからだった。



 ……俺なら大切にするのにな。


 いや、辺境伯の三男で、ちょっとばかし叙爵されたくらいの自分じゃ逆立ちしても無理だろうな。なんてったって相手は王太子だもんな。


「はぁ……会いたいな」


 もう、早速これが口癖だった。話した事もないけど。





 そんな俺の所(避難場所)に!

 彼女が!

 駆け込んで来るなんて。(裏庭に来ただけ)



 それでも俺は努めて冷静に、完璧な淑女である彼女がこんな所で人知れず泣いているのは誰にも見られたくないからだと分析した。


 本当は、慰めてあげたい。

 声をかけたい。

 出来れば抱きしめたい。



 いや、慰めるために、だ。


 ただ触りたいだけじゃない。触れたいとか、匂いを嗅ぎたいとかそういうんじゃ…………ない。


 そんな俺の葛藤中に彼女は一人、大きく深呼吸してからまた元の道無き道を戻って行ってしまった。




 それから、たまに彼女はここに来て一人で過ごしていく。少し深呼吸して戻る時もあれば、読書する時もある。



 彼女もここが気にいったんだな。気が合うな。とか、たくさん話したい事があったけど、下手に話しかけてもう二度と会えなくなるのが嫌で……ここで素顔の彼女を見る事さえ叶わなくなくなるのが嫌で、こうしていつでもここで彼女が来るのを期待して待っていた。



 いつでも彼女に会いたいと思ってしまう。


 元々思っていたのに、更に思いは募る。あの岩の影から、草をかき分けたあの道無き道からまた彼女の姿が現れないかな。と毎日そちらの方を意識している。



 なんなら、上級生とかに彼女が追いかけられてたりしたら、助けてあげて話したり出来るんじゃないか?

 イヤ……彼女、めちゃくちゃ強いからそれはないか。上級生も側近共も未来の王太子妃を追いかけないか。だよな。


 むしろ、魔物のがありか? 辺境で魔物退治にはなれてるし、さすがの彼女も魔物にびっくりして油断しているうちに連れさられて……そんで助けたりなんかしたら、話せるんじゃないか?

 イヤ……王都に魔物出ねぇな。


 ダメかぁ。じゃ〜話しかける切っ掛けすらないじゃん。

 そうだよな。しがない辺境伯の三男だしな。

 でも、あんなクズ王太子より俺のが大切にするから良いと思うけどなぁ。



 いや、彼女にはもっと優しくて金があって(ウチ)の兄貴みたいにゴリゴリに逞しくて、爽やかな年上の頼れる男が似合うな。

 俺には兄貴達みたいなカッコいい筋肉無いからなぁ……鍛えてるけどつかないというか、つき方が違うんだよなぁ。



 でも王太子も同じナヨナヨ筋肉だから、そしたら俺でも良くないか?

 よくないか。


 はぁ〜それ考えるとへこむなぁ。


 さっそくお手上げだ。とか考えたりもするが、そもそも彼女は王太子の婚約者だもんな。

 話せた所で、どうしようも無いし、どうにも出来ない。


 いや、無いんだけど、話してみたいだろ! だって、彼女が結婚しちゃったり、俺が辺境に帰ったら絶対に話すチャンスなんて無いんだから。



 あ~一度でいいから、話してみたいな。

 よく彼女がいる図書館でさ、なんか魔法について難しい顔して調べ物とかしてるから(本当に真面目で偉いよな)俺、魔法に関してだけは出来るからさ、ちょっとアドバイスとかしてあげたりして、そんで一緒に魔法の講義受けたりして、実戦のペアなんか組んだりしてさ。

 そしたらちょっとだけ仲良くなって、放課後に一緒にお茶とか…………なんて妄想してると悲しくなってくる。


 だって、俺だって好きな子とイチャイチャとかしてみたいんだよ! いいだろ、妄想するくらい!


 他にもめちゃくちゃあるんだぞ。孤児院に慰問に行ってる所に()()()()通りかかって、一緒に子供達の世話したら、自分達の子供の事を想像してドキドキしちゃったりとかさー!


 生徒会の溜まってる仕事を彼女が一手に引き受けちゃってるから、()()目にしたから手伝って夜遅くなったから、家の馬車で送って行くとかなって、馬車で一緒に帰るとかさぁ! さあ!!



 いいだろう! そんくらい想像したって!!


 妄想は自由だろっ!



 王太子だってあの聖女とかいう、うるせえ女と毎日イチャイチャしてるし。


 あんな女のどこがいいんだろうな。他の側近どもにもベタベタしてるし、俺にもなんか訳知り顔で話しかけてくるしよ。気持ち悪いとしか思えなかったけど。


 なんだよ『お兄さん達と比べる事は無いんですよ』って。兄貴は尊敬に値する立派な()達だろ。


 なんだっていうんだ?


 俺は魔術師だから全然比べる土俵が違うっていうのが分からないのか? アホなのか? そうか。アホなのか。まぁいいや。



 ああ〜今日も会いたいな。来るかなぁ。


 俺は乙女か。いや、家の母曰くヘタレってヤツかぁ。いや、これどうしようも出来ないヤツだろ?


 頑張りたいけど、無理に頑張ると俺だけじゃなくて、家にも彼女にも彼女の家にも被害が及ぶんだぞ。冷静に考えて、俺の好きだって気持ちだけで……動いちゃいけない案件だって、そんなの貴族なら子供だってわかってるだろ。


 ……でも好きなんだよな。



 王太子があんなんじゃなければ、俺だって少し話したり出来たかもだけど……今話すと彼女の瑕疵になったりするんじゃないかと思うと話す事も出来ない。

 話す事が出来ていたら、もしかしたらこの報われない思いも諦める事が出来たかもしれないだろ。


 ああ、俺には脈無いなって、むしろ諦めさせてほしい。それさえも出来なくて……諦めがつかない。




 本当にままならないなぁ。










 そうして、ただ見守る(?)だけの一年が過ぎて今年度の終わりを告げる夜会になってしまった。


 この夜会が終われば、長期休みに入ってまた来年度の高等第二学年に入る。いわば一年の集大成の様な……大人への練習を兼ねた夜会だ。


 それでも基本的には婚約者にエスコートされて入場する。しかしまだ学生なので友人同士でも、気になる相手でもこの学園の生徒ならば許されるという緩いものだ。


 かく言う俺も、どうも美しい母に似た為かたくさんの令嬢にお誘いを頂いたが、友人と参加すると断った。

 どちらがエスコート役になるか友人と揉めたが、力技でねじ伏せてやった。まあ結局、彼女の前で他の人をエスコートする事は例え同性の友人でも嫌だなと思い直し、二人で肩を組んで入る事で落ち着いた。


 俺と友人の名前が呼ばれ肩を組んで入場すると、意外にも黄色い歓声が上がる。何故だ? 不思議に思って横を見ると、友人は嬉しそうに手を振っている。意味が分からない。


 その時、急に鋭い視線を感じた為そちらを見るとマナー講師のエリザベス女史が物凄く鋭い眼で睨んでいる。こわっ!

 事前に兄貴に聞いていたエリザベス女史対策として、女史に向けてウィンクを送る。それでも怒られそうな時は、投げキスも有効だと(兄貴情報)聞いていたが……女史は顔を赤く染めふらつき隣の講師に支えられていた。フム。これで良かったのか?


 そうして無事(?)入場も終え残りの高位貴族も入場してくる。最後に王太子の入場となったが……彼女の姿は見えない。王太子は聖女をエスコートして入場してきたのだ。ありえない。ザワザワと周囲にも動揺が走るが、王太子は構わず開会を宣言し、聖女とダンスを踊り始めた。


「王太子殿下は何を考えているんだろうな。まぁ、まだ学生の間は恋人を優先したいとか、気持ちはわからなくもないけどさ……あの人の立場じゃ、どうかと思うよな」


 一緒に入場した友人で侯爵家の嫡男であるアランはため息交じりに言う。


「本当、お前の恋も、もしかしたら報われるんじゃないか」

「なっ……お前! 知ってっ」

「いや、俺以外は知らないと思うぜ。だってお前、殆ど誰とも絡まないじゃん。みんな()の英雄様と話したいのにさ。彼女の名誉のために、話しかけたいのを我慢して、我慢出来なくなるから姿消してるのも気づいてたよ」


 どうもしてやれなくてゴメンなと謝る友人に、ありがたいのと恥ずかしいのとで言葉に詰まる。無理やり出した言葉も気持ちの十分の一も伝えられない。


「…………悪い」

「はは。素直になれよ! 婚約破棄でもなったら、すぐにお前立候補するんだぞ~どうせグズグズして言えなくなるのがオチだ。その場で直ぐに俺と婚約してくださいって言えよな〜」

「いや、ねぇだろ」

「まぁ……無いだろうけどさ……万が一だよ万が一! 英雄様ならワンチャンいけるかもよ? ってお前、どうせ言えないだろ? 心構え……いや、幸せな妄想だけしとけよー」



 妄想なら、怒られないぞーと笑うアランは、これでも俺を慰めてくれているんだろう。確かにな、と一緒に笑いながらまた二人で近くのワインをとって飲み始めた。

 パーティーは、開始から少し過ぎたあたりだろうか。遠巻きにチラチラとこちらを伺う男女の視線も気にせず、二人で飲みあかす。付き合ってくれるアランに感謝だ。こいつ目当ての奴等も多いだろうに。

 そんな事を考えながらも、視界の端に彼女を捉える。




 ああ、彼女だ。


 こんな大人数が集まる学園のパーティーでも彼女だけは、すぐに見つけられる。




 目が惹き寄せられ、彼女から目が離せない。横でアランが何か言っているが、何も聞こえない。

 頭の中は彼女の事で一杯で……珍しく俺は酔っているのか? 辺境の地の者は酒に強いからそんなに酔っている感覚はなかったが……とにかく彼女から目が離すことが出来ない。


 そうして彼女に見惚れていると、彼女の婚約者である王太子殿下が、噂の聖女様を腕に貼りつけて、カツカツと靴を鳴らし歩いて来た。


 そうしていつもの様に、彼女に難癖をつけ始める。そんな様子に辟易していると…………。




「婚約を破棄する」


「「え?」」


 もちろん驚いたのは彼女で、もう一つの声をあげてしまったのは俺だ。


 ……本当にする、の……か? と思ったのと同時に俺の身体は勝手に動きだす。




「では、私の婚約者になってください! おねがいします!」



 サッと右手を挙げて前に進み出て、そのまま右手を出した状態で腰から直角に上体を倒す。


 水を打ったような沈黙が流れた。


 さっきのシミュレーションがイキナリ生かされた。と、なんだかワクワクしている。

 身体はピシっと動くのに頭と気持ちがフワフワして、なんでも出来そうだ。


 これは夢かな。それならいい。


 夢の中でもいいから、一度くらいちゃんと想いを伝えてみたい。だって、こんなにいい気分だ。



「一度も話した事が無いので、候補として一番に考えてくださるだけで結構です! 爵位もあります。仕事もたくさんお誘い受けていますので、将来困る事はありません。どれだけ贅沢してくださっても大丈夫な様に稼げます」


 とりあえず、アピールポイントを並べてみた。そう。魔物討伐や戦争で敵を倒しまくって英雄と呼ばれる様になってから、仕事もこの国以外からもたくさん申し込みがある。彼女を甘やかして贅沢させてあげる事だってできる。



「どうか私を選んでくださいませんか?」


 何の音もしない不思議な空間にいる気がして、やっぱり夢なんだなと思う。


 夢ならと……せめて彼女の顔を見たくて顔をあげると、真っ赤な顔でこちらを見る彼女が見えた。


 ああ、良かった。彼女が居た。


 音がしないから、誰もいないのかと思ってしまった。そう、こんな可愛い彼女が見たかった。俺の言葉に反応を示して欲しかった。だから、つい…………。


「いい夢だなぁ……」

「……夢?」


 彼女から返事まできた。俺は調子にのって話し始めた。


「そう。俺、今まで貴方にずっと話しかけたかった。でも、王太子の婚約者である貴方に話しかけて迷惑をかけたくなくて……話しかけられなかったんですよね。いつも、一人で頑張る姿を見ていたんです。一人で頑張って、一人で泣く貴方はいつでも高潔で綺麗で……そして可愛いかった」


 周りは未だに無音で不思議だ。


 いいな、たくさん人が居るのに俺と彼女だけの世界みたいだ。二人だけの世界なら言っていいよな。



「好きです。ずっとお慕いしていました。殿下と婚約破棄したなら、私にチャンスをください」

「…………はい。あの……嬉しいです」







「……は?」

「え?」



 びっくりして、お互い固まったままだ。え? いいの? うわっ! 夢でも嬉しい!!



 彼女が「え? からかわれたの……」とか言い出したので、慌てて絶対違う。本当に好きだと連呼した。あんまり言うので、終いには彼女が俯いたまま「わかりましたから……もう止めて」というまで好きだと告げた。




「はっ! じゃあ侯爵様にご挨拶をしに行こう!」


「……あ、あの……それよりも、少し魔力の放出を抑えて頂けませんか?」


 うん? 魔力?


「私は対象から外して頂いているようなのですが、皆様は魔力に当てられて動けませんわ」


 確かに言われてみれば、無意識に魔力が溢れ出して室内の全員を拘束するように魔力を放出していた。慌てて拘束を解除し、魔力の放出を抑える。


 なんだ。それで静かだったのか。



 拘束から解かれた殆どの生徒はバタバタと床に崩れ落ち、残った優秀な魔力持ちは辛うじて立って居られるといった体だ。王都育ちには厳しい圧だったか? まあ、警備の大人達でも現状辛うじて動けるか、くらいなのでしょうがないかもしれない。



「おい、お前……はぁ、無意識に拘束するの、やめろよ。本当、お前が戦争の英雄だって解らされたよ」

「いや、勝手に気持ちとともに漏れてた。悪いな」


 無意識かよ、怖ぇなと呟くアランの言葉に被せて、やっと動き出した殿下がブルブル震えながら、騒ぎ出した。



「……お前……不敬だぞ……ゴホッ」


 震えながら不敬だと騒ぐ姿はなかなかカッコ悪いな。



「殿下、学生のパーティーでの酔って起こした魔力漏れですよ?」

 いち早く回復したアランがニッコリ笑って言う。


「魔力暴走した訳でもなく、魔力が漏れただけなので誰でもある事ですよね? それが何か? 規則に則れば反省文ですよね?」

 そうは言っても、魔力漏れくらいで反省文を出す事も無いでしょうが……とアランは続ける。


 まあ、今回は俺の魔力が多すぎて被害が出ているから、反省文は書く事になるかもしれないなぁ。


「それよりも、フランシスは侯爵家にご挨拶行くんじゃないのか? ここはこのまま突っ走れよ! …………ずっと、好きだったんだろ?」


「そうだな。アランありがとう! せっかく(いい夢)なんだから、最後まで頑張るぞ。では殿下、御前失礼致します」



 そのまま彼女の方へ向かいそっと手を出すと、彼女は戸惑いがちに手を乗せてくれた。


 手を……彼女が俺の手を……感激でうち震える。


 彼女が俺の手をとってくれるのを何度も夢にみた。何度もだ。俺の手をとって欲しいと、思いながらも何も出来なかった不甲斐ない俺の月日が、全て報われたような気になる。



 俺の心の中は別として、流れる様にエスコート出来て浮かれてしまう。

 ニヤついていないか? 嬉しさが溢れそうだ。


 腕に乗せられた彼女の美しい指先と触れられる距離にある彼女の存在に全神経が集中してしまう。


 だから、会場で死屍累々とした景色が広がっていた事も、殿下が何やら呻きながら叫んでいた事も全く気がついていなかったのは……致し方ない。


 会場を出てから、彼女は馬車が無い事に気がついた様子で慌てている。そう、まだパーティーは始まったばかりだったので、殆どの馬車は自宅に戻してしまっていた。




「では、レディ」



 馬車がなく困った表情の彼女を見て、安心させる様に微笑む。



 『我が友よ』


 そして、両手を広げ自身の召喚獣である友を喚ぶ。もちろん、いつも共に戦う大型竜の神獣ではなく、まだ子供の竜の方だ。幼竜は白くフワフワとした体毛に覆われているので、きっと彼女も怖がらずに乗れるだろう。



 後ろから大きな月が神獣を照らし、真っ白な体毛がキラキラと輝いている。大きな身体の横に立ちひと撫ですると、友は嬉しそうに喉を鳴らした。



「さあ、お手をどうぞ」

「この方は……次代の神獣様では……」

「そう。そして、私の友だ。このまま家まで行きましょう」




 戸惑う彼女をそっと抱きあげて、ふんわりとした竜の背中におろす。そして一気に舞い上がり彼女の家まで飛行する。


 竜で行けば彼女の家まであっという間だ。広い噴水前に神獣と供に降り立てば、家令やメイド達だけではなく、侯爵夫婦も大騒ぎで迎えてくれた。






 パーティーでの話しを説明している間にやっと、侯爵家の手の者からも情報が入る。侯爵家も他の家も大分混乱している様子らしい。


 そして侯爵夫婦に勧められるまま侯爵家に泊まる事になったのだが……まさか酔っ払った俺が、一晩中侯爵夫婦と本人にどれだけ彼女が好きか、学園で二人で何がしたいなどと、散々話し続けた挙句ソファーで寝落ちするという失態を犯し。


 目覚めた時に全て夢ではなく、色々やらかした現実に暫し呆然とするが……酔った時の話しを真剣に聞いてくれた侯爵夫婦が、すぐに彼女との婚約を結んでくれる様に動いてくれた事も知らず、酔っ払った時以上に真っ赤な顔で、真っ白になった器用な男は………………俺だ。








悪役令嬢と愛が重いヒーローが大好きです( *´艸`)ん


以前書いた悪役令嬢モノのストーリーのB面(ヒーローSide)を清書したものを今回の企画に合わせて焼き直しました♡

あ~ヘタレでスパダリを兼ねるヒーロー大好きです♡

ストーカーって呼ばないで( *´艸`)ウフフ


でもなぜか、A面(本編だったやつ)の悪役令嬢バージョンが見つかりません(´;ω;`)どこに行ったの?

どこー?(゜Д゜≡゜Д゜)?

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― 新着の感想 ―
はじめまして〜♪ ヤンデレ?ストーカー?なのに明るい主人公(๑>◡<๑) 酒に強い筈なのに、酔っ払って思いの丈を相手の両親に伝えて、それを真摯に受け止める両親。凄くほっこりしちゃいました〜♪ ファ…
俺様ヒーローや強引ヒーロー、腹黒ヒーローや無く重いけど純愛なヒーロー良いですね。 重い割にはヘタレなので普通の嫌味無いヒーローでスッキリ読めました。
ヒーロー目線でこんなフワフワ可愛らしい話は珍しくて面白かったですw 転生お母さんのフラグをへし折る子育て話があったら読みたいですね。
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