エピソード2 25歳会社員、鬱と診断されまして。
「空井さん、5番診察室へどうぞ。」
私の人生初の心療内科受診が始まった。中に入ると、おじいちゃん先生といっていい優しそうな先生がそこにいた。
「よろしくお願いします。」
とだけ、わたしは言って、そのおじいちゃん先生こと「草刈先生」の次の言葉を待った。
「空井さん、今日は以前書いてもらった紙をもとに色々質問していって、空井さんについて知りたいんだ。緊張しなくていいから、率直に答えてくれるかな。」
そういわれた。なんだ、私のことを知るって。それで、診断できるのか。半ばうたがいながらも、先生の質問に答えていった。質問内容は、体調面だけでなく、家族のこと、社会人になるまでのことなど多岐にわたった。だいたいの質問が終わったころ、草刈先生は、腕を組んでこういったのだった。
「空井さん、あなたは鬱状態にありますね。つまり鬱病の一歩手前です。昔からの色々なことと今回の会社での出来事とが、一気に空井さんの体を蝕んでいます。一度、仕事を休んでみたら?」と。
「え、ちょっと待ってください。今、仕事を休んでしまうと、家庭が…。」
そう、これは次でお話しようと思っているが、つい最近母子家庭になり、母と私の二輪三脚で生活しているのだ。なのに、私が休んでしまっては…。そう考えている時だった。看護師さんが優しくこういったのだった。
「空井さん、休んだからって、この会社は、お給料が0になるわけじゃない。きちんと基本給はでます。もちろん残業代とかはつかないから、普通に働いている時よりも手取りが減ってしまうけど。だから、そんなに心配しないで、まずは、草刈先生のおっしゃっていた通りにしてみてもいいんじゃないかな。」
「空井さん、今、休むことで症状が重症化する前に予防できるんだ。だから、休んでみてください。あなたは、まだ若い。ここで休んだからって、人生が終わるわけではないんだ。」
草刈先生からもそういわれ、私は、休職を受け入れることにした。
「じゃあ、今日から休職ね。お薬もだします。最初は慣れないから、眠気とかが出ると思うから、慣れるまでは無理しない事。会社との連絡はなるべくしないように。じゃ、また2週間後。」
診察室を出て、薬をもらい、まずは、母に連絡した。
【お母さんごめん。私、鬱なんだって。で、お仕事休職することになった。でもお給料はちゃんと出るって。早く治すからね。ほんとごめん。】
罪悪感と自分の不甲斐なさで心がいっぱいだった。正直、家庭のこともあって、一般職から総合職になるべく早く転換したいと思っていたし、組織で働く以上目指せるのなら上を目指して働きたい、そんな思いで、働いてきた。たが、一般的には一度でも休職してしまうと、出世コースからは外れることになる。わたしは、なんのために頑張っていたんだろう。そんな思いが頭の中をぐるぐるめぐっていた。
帰りの電車の中、そんな暗い気持ちを抱えていたところ、お母さんから返信があった。
【みーちゃん、少し甘いのでも食べて帰ろうか。】
最近、忙しくて母と帰り待ち合わせする機会も減っていた私は、「グっ!」のスタンプを送って、待ち合わせることにした。
先に駅についていた私は、いつもの待ち合わせ場所で私の行きつけ「スターバックス」でお母さんを待っていた。10分ほど待っていたころ、「みーちゃん、お待たせ。」とやってきた。
母と私は、スターバックスラテとチーズケーキを注文し、席に着いた。
「お母さん、ラインでも送ったんだけど、今日から休職することになっちゃった。ほんとにごめんなさい。早く、復帰できるように治療頑張るから。」
そういうと
「実はね、お母さんも昔、鬱ではなかったんだけど、会社が毎日忙しすぎて、体壊して退職したことがあるの。次の会社にも努めてたけど、また体壊して。だから、大丈夫。みーちゃんは、そうなる前にやすむことができたんだから、ちょっとはやい夏休みだと思って、のんびりやすみな。」
その温かい言葉に少し救われたような気がした。
つづく。