-想いを乗せた弾丸-
荒野砂漠地帯を抜けて彼らは遠目に伯爵の基地を眺めていた。
日没が迫り夕日に染まった光景だった。
「俺ら二人だから、思いのほか早く到着できた。警備も依然と変わりがないか……。
いや、明らかに強化されているな」
「どれどれ、あたしにも見せてよ☆」
緋音は半ば強引にバミューダが持つ【小宇宙銃剣】を奪い取りスコープを覗き込んだ。
「以前の警備体制は分からないが、確かに警備兵が多いな。正面突破は無理だな。
多方面から同時多発に攻めるか。もしくは陽動で……」
愛銃を横取りされて不機嫌気味なバミューダだった。
ただ、緋音のボヤキに対してバミューダも同感ではあった。
「その攻略作戦を立案するのはリーダーや参謀の役割だ。
俺達はしっかりと敵の状況を把握しアジトへ帰還すること。
そして、リーダー達へ正確に伝えることが任務だ」
「そうだな。……! あ、あれは?」
緋音はバミューダに諭されつつも、彼女はお構いなしに彼の愛銃のスコープで辺りを覗き続けて、
何かを発見した様子。
「バミューダ。あれを見てッ!」
「シッ! 子供でももう少し静かにできるぞ。何だってんだ」
半ば緋音に呆れているバミューダだった。
それでも、嫌々愛銃のスコープを覗き込んだ。
スコープを通して、彼は思いがけない光景を目の当たりにした。
「ドジャーのおっさんやルーニー。それに、マルスやリナの親父さんやお袋さん。
みんな、生きてたか。よかった……」
「やっぱり、あの人達はレジスタンスの“仲間”なんだね。
マルスのお父ちゃん達は強制労働を強いられているんだな」
宇宙機械伯爵の基地はプラントとして二十四時間稼働していた。
グランドアースの船員達は早朝から夕方。
レジスタンスの仲間達は夕方から早朝まで労働をさせられている。
そこで馬車馬のように働き無残な運命を辿る者も少なくはない。
「みんな、辛そうだ。マルコ達はいないがアイツらは無事だろうか……。
早く助けてやりたい」
「前回の襲撃時に噂では耳にしていたが酷いな。まるで、奴隷のようだ。
ちきしょう。俺にもっと力さえあれば……」
レジスタンスの仲間は生気が失われ、瞳にも光は宿っていなかった。
過酷な労働によって、肉体も限界を迎えていた。
そんな、矢先中年の男性が膝から崩れ落ちた。
「うっ。し、しまった……。ど、どうにも足が言うことをいかない」
「ナニヲ、さぼっている。にんげん。ここでは、使えないにんげんは伯爵様の餌となる。
さもなければ、うごけ」
バミューダが父親のように慕っていたドジャーはついに限界へ達してしまった。
それは【死】を意味する。
すかさず、監視ロボットが彼の元へと集結した。
監視ロボット達は電流を帯びた鞭を手にし、無情な一打がドジャーを襲う。
「ぐッ。はぁああ。や、やめてくれー」
「だ・ま・れ。はやく、働ケ。このボンクラにんげんが」
一振り一振りと無機質な打撃音は空を裂き、容赦なくドジャーを責めた。
いつしか、彼の悲鳴は小さくなっていき虫の息になった。
それでも、周りにいるレジスタンスの仲間達は一向にドジャーを助ける気配がまるでない。
その間もドジャーは耐え忍んでいるが、今にも気絶してしまいそうで視界が暗転して行く。
「くっ。どうしちまったんだ、みんな! 仲間が目の前で苦しんでいるんだ。
た、助けろ。それが俺達、レジスタンスだろうがッ!」
「バミューダ。みんな、辛いんだ……。あんな状態になっても、ドジャーさんは助けを求めていない。み、みんな平気な訳ないんだ」
緋音の言う通りレジスタンスの仲間は俯いてはいたが、下唇を噛み彼らもこの状況を耐え忍んでいる。ドジャーは誰にも助けを求めることなく、辛抱強く耐えたがついに気絶した。
ただ、監視ロボット達は人間の倫理観にそぐわない行動に出た。
「何をしている。にんげんならば、エネルギー切れや故障はない。今すぐ、動け」
「やめろーッ! それ以上は死んでしまう」
沈黙して地面に横わっているドジャーに対して、感情を失った監視ロボットらは冷酷極まりない追撃を行おとしていたが、マルスの父親は我慢の限界を超えた。
ドジャーと監視ロボットの間に割って入った。
「俺達は人間だ。血の通った生き物だ。お前達の愚行は見過ごせない!」
「おまえはバカだ。大人しく働いていれば、この男のようにならずに済んだものヲ」
姉の盾となり「三銃士ミケル」へ勇敢に立ち向かったマルスの姿が緋音の眼には重なっていた。
親子共に弱き者や困っている人への行動力はしっかり父からの教えだったと気づかされた。
「マルスのお父ちゃんは勇敢だ。でも、このままでは……」
「我慢の限界だ。俺はやるぞ……!」
バミューダは狙撃体勢に入り、目を瞑り荒れる心の鼓動を落ち着かせた。
しかし、隣にいる緋音はバミューダからの僅かに波動が乱れる渦を感知した。
「あたしも逆の立場で自分にできることがあれば行動するよ」
「恩に着るぜ、緋音。ふぅー」
緋音もバミューダの行動に同意し、彼の横に寄り添った。
「な、何だ緋音?」
「バミューダ、お前はいい奴だ。人の為に怒ったり、悲しんだりできる人間だ。
今は……バミューダの波動が乱れ、怒りに支配されている。
狙撃時に射線軸がブレてレジスタンスの仲間に【弾】が命中してしまう恐れがある。
だから、あたしが銃身を支えるよ。少しでもお前の力になりたいんだ」
緋音も呼吸を整えて、静かにバミューダの愛銃、小宇宙銃剣に手を添えた。
そして、彼女も自身の波動をエネルギーを込めた。
「まさか、お前に諭される日が来るとはな。ありがとう、緋音。
お陰で少しだけ心を静めることができた。……行くぞッ! はぁッ!」
「今のタイミングなら大丈夫! 行こう、バミューダ!」
バミューダは引き金を引き、緋音は力を込めて銃身の反動を抑制させた。
その瞬間――薄紫色の弾線が描かれた。
「みんな、伏せろッ! こ、この狙撃はバミューダなのか!?」
目標目がけて稲妻のような速度で弾は発射され、見事監視ロボット兵の眉間を撃ち抜いた。
「使えないにんげんは――」
緋音の波動エネルギーも込められた弾は青い波動とバミューダの赤い波動が融合され、
紫色の波動弾が生成された。
レジスタンスの仲間はその場にいたバミューダの狙撃と認識していたが、どこか確信を持てなかった。
「ッシ。狙撃成功だ。やったぜ、緋音!」
「改めて、凄い弾速と威力だ。ロボット兵は即死だな。とりあえず、助けられたかな?」
バミューダの狙撃によって、基地の警戒レベルは一気に引き上がった。
警報が発令され、結果的にレジスタンスの仲間への暴力行為は中断された。
「一撃で頭部を撃ち貫かれた。射線距離から狙撃ポイントを測定……」
「あ、あいつら仲間がやられても微動だにしないでやがる」
監視ロボット達は仲間のロボットが倒されても感情に起伏はなかった。
ただ、ただ機械的に処理するだけだった。
血が通っていない無機質な群像。一方、レジスタンス達は“生”を噛みしめている。
マルスの父はドジャーに駆け寄り介護していた。
「よかった、ドジャーさん。意識があったんだね。大丈夫か?」
「すまない。ワシがボンクラばかりでお前らに迷惑をかけた。バミューダが助けてくれたか……」
ドジャーは意識が朦朧としていたが、バミューダが助けてくれたとそう”確信”していた。
彼は笑みを浮かべつつ静かに眠りについた。
「ドジャーさんが言うなら、バミューダが救ってくれたんだな。ありがとう」
「解析終了……。七時の方から狙撃された模様。追跡を開始する」
監視ロボットらは分析を終えた。バミューダや緋音が隠れている狙撃ポイントを概ね特定した。
すぐさま、二人を追跡するのだった。
「奴ら俺らの場所を掴んだようだ。長居は無用だな。緋音行くぞッ!」
「そうしよう。なら善は急げだね。そんじゃ――」
二人はしゃがんでいた状態から立ち上がった。
この場から去ろうとした矢先、緋音は物影から視線を感じた。