執念のミカギル
「当時、宰相であったミカギル――現、宇宙機械皇帝はジ・オリジン、エンペリオンをレフィーナ様とサーシャ様から奪取し破壊と再生、互いに反発するエネルギーの超新星エネルギーを全解放させて、
銀河一帯を無に還しその後、一つの完全たる生命体へと進化させる銀河地平融合を発動させました」
「やはり、皇帝もあたしと同じ時代に生きていた人間だったか。
ジ・オリジン、エンペリオンにはそんな力が備わっていたのか……」
宇宙の暗黒――生命に混沌をもたらし、星を喰らう謎の天魔。
ジ・オリジン、エンペリオンは唯一彼らを封じることができた。
レフィーナとサーシャは代々その役目を受け継いできた一族だった。
ただ、一万二千前、彼女らが統治する星へ天魔が迫る中、国はジ・オリジンやエンペリオンを駆使して天魔と戦うレフィーナ達皇帝一派と肉体を捨て、完全たる生物として未来永劫生きる宰相こと、
ミカギル一派とで政策が別れ国民の意見が真っ二つに割れていた。
結果的に皇帝一派は民衆の弱い心に付け込み半ば洗脳へ陥れたミカギル一派が民衆を率いてクーデターを起こし、ジ・オリジン、エンペリオンはミカギルの手に渡ってしまった。
「ミカギルは半ば強引にジ・オリジン、エンペリオンのエネルギーを全解放させ、不完全ながらも、人々の肉体は滅び、やがて一つの生命体へと融合が始まりました。
しかし、銀河地平融合の最中、異変が起こりミカギルの計画にズレが生じました」
「生と死……。相反するエネルギーによる超次元の現象。
他人と肉体と心が混ざり自我が崩壊し一つの生命となっていく……」
星森緋音と剣持飛鳥が初めて機動戦艦ノアの艦内で出会い触れ合った際に、駆け巡った命の鼓動。
奇跡的にあの瞬間、疑似的な銀河地平融合が発動されたかもしれない。
無限にも感じ刹那的な時の流れで、彼らの意識や想いがシンクロしていた。
現世の理から逸脱した超次元を体感していた。
「銀河地平融合は発動してしまいましたが、継承者であるレフィーナ様とサーシャ様は自我を失わずに己の精神と肉体を保持させたまま、ジ・オリジン、エンペリオンの全解放を制止されました。
銀河地平融合は不完全なまま、レフィーナ様とサーシャ様によって、人類は再び自我や肉体を現世に残すことができました。それと同時に、天魔の復活も延命できたかに思えました……。
しかし、ワシらが住んでいた星へと近づいていた天魔が数体、封印から逃れました」
「そんな危機的な状況下にもかかわらず、
継承者――あたしのお母ちゃんは役目を全うできたんだね。
一万二千前、ミカギルの計画は失敗に終わった……」
「はい。ミカギルの計画は阻止できましたが、結果的に天魔の接近を許してしまい当時の国の戦力では天魔を撃退する戦力はありませんでした。本来ならば、エレメンタルスフィアを用いて、天魔の中枢まで突入しジ・オリジン、エンペリオンを解放させて、未来永劫、天魔に封印を施す手筈でした。
ただ、それも叶わず、あの場でレフィーナ様とサーシャ様は残された力を使い残された民を一人でも救うべく、エレメンタルスフィアを依り代に、超次元の扉と言う次元転移を起動させ、エレメンタルスフィアもろ共、数体の降魔は異次元へと誘いました」
「ただし、その代償は大きく付きました。国の繁栄を維持し平和を築き上げるエネルギー機関として役割を担っていたエレメンタルスフィアがなくなり、銀河地平融合は免れましたが、皮肉なことに死に逝く星から脱出することを余儀なくされました。そのため、超次元の扉が開いている僅かな時間でレフィーナ様とサーシャ様はあるご決断を下されました」
――あの時代に生きた星の運命は残酷だった。
ミカギルからの策略を阻止できたが、結果的に破滅へと向かってしまった。
レフィーナとサーシャに安寧は訪れなかった。
星を維持していた『エレメンタルスフィア』を失う代償に民を逃がすことにした。
そして、ジ・オリジン、エンペリオンの継承者として別々の道を生きることを決意した。
「それこそ、エンペリオンの継承者になりえるアン様を未来へ託す手段でした。
時の大臣であったワシや数人も一万二年後へと時を超えて、アン様はグランドアース号に乗せられ、
レフィーナ様もご一緒に転送されました。
しかしながら、運命の悪戯により各々バラバラの場所へと現代に跳躍してしまいました。
まさか、アン様が宇宙海賊を名乗り暮らしていたとは夢にも思いませんでした」
「それが、あたしが過去から未来へ飛ばされた理由だったのか。父ちゃんの仮説は正しかった。
ただ、まさか自分が拾った子が研究の鍵を握る一族の末裔とは夢にも思わなかっただろうね」
緋音が生まれ過去から未来へ意思が紡がれていた。
彼女が現代で生きていることは母、レフィーナが託した希望の姿でもあった。
「人が持つ宿命とは時に神の意思すら、跳ね除けるかも知れません。
今、冷静に思い返すことはできますが、ワシが未来へと旅立つ瞬間でした。
レフィーナ様から例の物を託されておりました。混沌に包まれていた情勢下でレフィーナ様は一つの可能性として、グランドアース号に搭乗する前にワシにペンダントを授けました。
アン様もご存じの通り無事に貴女様へお渡しできました。
サーシャ様は超次元の扉が暴走し、星が超新星爆発してしまうのを回避するために、超次元の扉を閉じる使命を全うしました……」
「このペンダントはお母ちゃんだけでは届くことはなかったんだ。
きっと、サーシャさんも命がけで作ってくれた時間。このペンダントを見ると、
胸が締め付けられるけど、どこか暖かい気持ちにもなる。二人とも強い女性だな」
たとえ、離ればなれになってもレフィーナとサーシャは姉妹として固い絆で繋がっていた。
二人の意思は聖火のように次世代へとバトンが渡っていた。
「お二人の『血』を受け継ぐ者は、あの時代から脈々と受け継がれ、ジ・オリジンは蒼き星の戦士へと……。エンペリオンは未来への可能性として種が撒かれました。
一万二千年の時を経て、運命に導かれるように再びミカギルこと、宇宙機械皇帝は銀河地平融合を発動すべく、機械兵団を作り上げました。本格的にジ・オリジン、エンペリオンを狙い行動を起こしました。
アン様はエンペリオンを正統に受け継ぐ者であり、宇宙機械皇帝の野望を阻止できる逸材なのです。
ですから、ワシらはレジスタンスとして現代で宇宙機械皇帝に抗いその時を待っておりました。」
「それが、エンペリオンとジ・オリジンの役割……。
それを使い宇宙機械皇帝は人類を救おうとはしている。だが、人の『可能性』を諦めて、
人間を食って戦う国家を作り上げている。
参謀、あなたには辛い思いをさせちゃっただけど、
説明をありがとう。だけど、あたしは剣持みたく紅蓮丸で超新星機関を覚醒させていない。あたしは――エンペリオンの継承者の証がない」
緋音は参謀の話を聞いて、改めて彼の活躍を労った。
参謀はその姿を見て、レフィーナとの姿を重ねていた。
目には涙をうっすら浮かべていた。
「おぉ。ジ・オリジンの継承者は【力】を発現させておりますか。
きっと、アン様もこの大いなる戦いを経て、エンペリオンの力を発現させるかと思います。
あなた様はレフィーナ様の血を受け継ぐ者。必ずその時はやってきます」
「まぁ、あたし次第だね。それにしても、”アン・ケンファート・ネルス”。慣れない名だね。
父ちゃんはきっと、あたしを拾った際、消えかかっていた名前から“緋音”と名付けたかもしれない。
とにかく、今まであたしのお母ちゃんの使命を守ってくれてありがとう。
これからもよろしく! 参謀……いや、大臣とリーダー?」
緋音は大いなる“運命”を知った。
銀河――世界を守る担い手として母から使命を受け継ぎ、宇宙機械皇帝に立ち向かうべく、
まずは仲間を救いエンペリオンを見つけ『覚醒』させていくことが、この先の命運を決めるのだった。
「いえ、アン様。この時代において、ワシの事情を知っておるのはレジスタンスのリーダーのみです。それ故にこれまで通りレジスタンスの参謀として活動はしていきます。
もちろん、アン様へお仕えしまずは伯爵を倒して打倒ミカギル――宇宙機械皇帝への反撃の狼煙を上げる準備も進めて参ります」
「なるほど。そしたら、お互いに素性を隠しておこうか。
あたしもアンと言う名前は慣れないし様も柄じゃない。
みんなと同じように『緋音』と呼んでくれっ!」
緋音は諸々、汲み取りレジスタンスを混乱させないためにも、
公然の前ではお互いに真名を呼ばない方針で決定した。
「それが懸命なご判断かと思います。流石はア……ん。いや、緋音さんです!」
「それじゃ、よろしく頼んだわねっ! 今日のところは、疲れたからもう眠る。
寝室を教えてちょうだい」
緋音がそう告げると、教えられた部屋へと向かった。
こうして、彼女はレジスタンスとしての戦いが幕を開けた。
ただし、秘密裏に行われていた会話だったが、物影に隠れ息を殺して盗聴している人影があった。
長い銃身に赤い装飾が施されているライフルを持ち合わせている人影だった。
「緋音は……過去からの人間で宇宙機械皇帝と因縁がある。
それにエンペリオンの継承者の可能性もあるのか……」
褐色の青年はそう自問自答しつつ、静かに『闇』へと消えて行った――。
その頃、緋音は疲れ切った足取りでどうにか、寝室へと到着していた。
部屋に入るやいなそのまま、彼女はベッドへと倒れ込んだ。
「ふぅー。この星に来てから変化が目まぐるしい。自分の生まれを知り、使命を知った。あたしは生きなければいけない。それはお母ちゃんの意思を継ぎ宇宙機械皇帝の野望を打ち砕く。この先、やることは山ほどあるな……。明日にはあすの風が吹く。今日は寝よう。Zzz……」