―時を超えた再会―
「ふぅ~。やっと一息つけた。喉もカラカラだぜ」
「ご苦労だった。バミューダよ。して、あの者は?」
奥から初老の男性が静かにやってきて、バミューダと相席し水を差し出した。
その初老の問いかけによって、バミューダはふと我に返った。
「お、そうだった。すまない。みんな、紹介しよう。こっちだ、緋音!」
「あ、あぁ……」
普段豪快な緋音とは裏腹に潮らしく緊張した表情のまま、彼女はバミューダの隣に立ちつくした。
「みなさん、初めまして星森緋音です。よろしくお願いします……」
「柄にもなく、緊張してやがるのか? ここはそんなお堅い場所じゃないぜ」
声量も小さく仕草もおしとやかだった。
いつもと違い可愛らしい女の子。
ただ、バミューダのデリカシーの無さに彼女の『ギア』が上がった。
「柄にもなくとはナニさぁ!? あたしだって、大勢の前だったら少しは緊張するわっ!」
「よかった。お姉ちゃん、元気だね。流石、三銃士のミケルを追い詰めたことはあるね」
緋音の声を聞きつけてマルスもやってきた。
聴衆も「ミケル」というワードに聞き耳を立てた。
「あ、あの三銃士ミケルと互角に戦えるとは? 凄い逸材だな。今までどこにいたんだ?」
「そう。あと一歩って、ところで私達のせいで緋音はミケルを倒せなかったが、
颯爽と現れたバミューダの狙撃でミケルを倒したわっ!」
リナも目を輝かせ、まるで自分ごとにように緋音の活躍を語った。
「こんな、お嬢ちゃんが……。恐れ入った」
「こりゃ凄い。なぁ、バミューダ? お前の母ちゃんを思い出すな?」
緋音はみんなから褒め称えられ、満更でもなかった。
しかし、隣に座っているバミューダの表情が“一瞬だけ”暗くなったことが気がかりだった。
「あぁ、そうだな……。そんな訳で俺達は彼女と手を組んで、三銃士の一角を倒した!
参謀、リーダー。緋音を俺たちのレジスタンスへと迎えようと思う。いいだろうか?」
「バミューダ、よくわかった。これは、我々レジスタンスにとって、嬉しい戦力だ。よろしく頼むよ、緋音」
「だが、その前に少しだけ確認したいことがある。いいかね、緋音?」
緋音は晴れて『レジスタンス』へ加入できた。
しかし、参謀やリーダーは周囲の反応とは違い雰囲気が暗かった。
まだ、彼女に対して『疑心暗鬼』になっているかもしれない。
真相は不明だが緋音加入によって、場が盛り上がる中、彼女一人を呼び付けリーダーの部屋へと三人は消えて行った。
「それで用件とは……? まさか、レジスタンスへ加わるために入団テストをさせる気?」
「そういう訳ではないが……」
緋音を部屋に呼びつけた割にはリーダーと参謀はどこか余所余所しい。
歯切れが悪かった。
たまらず、彼女がこの場を繋げた。
「それにしても、子供が多いわね。バミューダが言っていたように大人は機械伯爵たちによって、連れて行かれちゃったの?」
「あぁ、そうだ……。レジスタンスとは名乗っているが、大半は戦闘経験がない者達だ。“アイツら”がここに来るまでは、緑豊かで静かに農業を営んでいた。それでも、屈せず武器を手に取り懸命に戦っている」
黄金騎士――静寂のザードを遣いエリスを唆し『銀河帝国メルディアス』の民を【宇宙機械皇帝】へと献上したことにより、メルディアスは民を宇宙機械獣へと変貌させた。
しかし、宇宙機械獣は莫大な『エネルギー』を必要とし肉体的にも精神的にも強靭な者しか変貌できなかった。
その適正から外れた者達は機械兵たちの“生命エネルギー”として喰われる贄となっていた。
宇宙機械皇帝とその息子、シオンを除き機械兵達は人間――生命エネルギーを喰わなければ、
永遠の生命を維持できない。
そのため、宇宙機械伯爵はこの地を生命プラント工場として侵略し開拓していた。
「これまで、多くの犠牲を払いつつも抗って、我々は必死に生きてきた。
だが、宇宙機械伯爵の魔の手を払っても、人類の危機は拭えない!」
参謀の言葉は重く自然と語気も強くなっていた。
どうやら、レジスタンスの最終目標は“伯爵”を倒すことではないらしい。
「ここの人達は悲観しちゃいない。目は死んでいなかった。
あの姉弟のように、自分以外を犠牲にしてもでも守りたいモノがあるはずだ。
あたしもかけがえないモノを取り戻すべくここに来た。人類の危機? いきなり壮大な話だな?」
「あなたの意思の『強さ』は一目見て分かっております。そこに何の疑いもありません。前置きが少し長くなりましたが、我々レジスタンスの最終目的は【宇宙機械皇帝】を倒すことです。
伯爵はその過程に過ぎません」
レジスタンスの最終目標は、未だ多くが謎に包まれている宇宙機械兵らを束ねるその皇帝。
――ようやく、彼女の真の狙いが今、明かされる。
「あたしは訳あって、銀河を駆け巡っている。何度かその名は耳にしている。
直接、会ったことはない。あのプライドが高い伯爵らが、そいつに心底惚れていて、忠誠心を持っているように思えた。
あいつらを束ねて、銀河帝国メルディアスと地球との戦いを裏で手引きしていた恐ろしい存在だと認識している」
「……流石は宇宙海賊ですね。あなたが追い求めているのは超新星機関を搭載した機動機甲兵器。
原初の超新星機関!」
リーダーが緋音の身の上を口にし、宇宙海賊――父から託された思いを見透かされた瞬間、
彼女に緊張が走った。
「ここに来て、宇宙海賊とは名乗ったが、あたしが宇宙を駆け巡っている理由は誰にも話していない。それに”ジ・オリジン”とは何だ?」
「驚かせてしまい大変申し訳ございません……。アン様。よくぞ、ご無事で!
少しばかり昔話をさせていただきます」
警戒する緋音を見かねて、参謀はある名前を出した。
口調も先ほどと変わり敬語になっていた。
明らかに空気感が変わった。彼女も変容ぶりに動揺している。
「アン様? 誰だそりゃ? もう、もったいぶらずにあたしを呼んだ訳を話してよ!」
「無理もございません。最後にお会いしたのはあなた様が赤子だった頃です。
それは一万二千年前、銀河地平融合が起こった数日後の事でした」
意を決した参謀は静かに緋音へ語りかけていた。
目は優しく万感の思いを馳せている。
緋音は彼の言葉に耳を傾けた。
「……! 随分とあたしのパーソナルな部分まで調べてやがるな。
確かにあたしは生まれてすぐに“未来”へと飛ばされた。
グランドアース号の船員達と一緒に宇宙を彷徨っている中、育ての親である父ちゃんに救われた。
あたしは星森勉の娘で真紅の緋音こと【星森緋音】だ。アンという名前は知らない。
あまり勝手な事は言わないでくれっ」
「さぞ、苦しい想いをされたでしょうに……。お許し下さい。
それでも、アン様をお救いになり、ここまで立派に育ててくれたお方には感謝してもし切れません。
これまでの我々の話は、老人の妄想やよた話に思うでしょう。
あなた様の母君、『レフィーナ』様からこちらを預かっておりました。
レフィーナ様やサーシャ様は不思議な力をお持ちでした。きっと、こうなると“未来”が見えていたのかも知れません。どうか、お受け取り下さい」
参謀はおもむろに懐から、ペンダントを手に取り緋音へ差し出した。
緋音は両手でしっかりと受け取り目を参謀にやった。
「ペンダントの中身をご確認下さい。アン様。
そうすれば、ワシの話を信じていだけると思います。レフィーナ様。お約束を果せました……」
「あぁ……。こ、これはッ!」
彼女は細心の注意を払いつつペンダントの中身を確認した。
すると、ある一家の写真が入っていた――。
「アン様とご両親との家族写真です。お生まれになった際に撮られた一枚です。
改めてアン様は母君のレフィーナ様と瓜二つです。うぅ……」
「こ、これが……。あたしのお母ちゃんなのか……」
緋音は衝撃のあまり体が小刻みに震えていた。
先ほどの参謀の言葉なんかよりも、視覚から得た情報により頭では瞬時に理解できないでいる。
しかし、肉体は追いついていた。
彼女の体内を廻っている血液。
DNAは紛れもない【母親】だと認識していた。
「こんな形ではありますが、お母様と再会できてよかったです。
当時、レフィーナ様はサーシャ様と一緒にジ・オリジン、エンペリオンの継承者として、お互いに力を合わせて銀河地平融合を未然に防ぎました」
「参謀、リーダー。あんた達の話は信用しよう。
伯爵らが言うジ・オリジン、エンペリオンは一体何だと言うんだ。あと、銀河地平融合も何なんだ?」
緋音の運命の歯車が大きく動き出す瞬間だった。
「順を追って、ご説明をさせていただきます。まず、ジ・オリジン、エンペリオンは現代で言うところの超新星機関の元となった超次元なエネルギー機関です。ただし、真の役割は破壊と再生を司り来る降魔の義に備えて、“彼ら”を封印することにありました」
「ジ・オリジンやエンペリオンは機動機甲兵器の元となったエネルギー機関だったのか……。
あいつらがそこまでして狙う目的は何だ?」
長きに渡り宇宙機械皇帝はジ・オリジン、エンペリオンを追い求めていた。
それは過去に彼女が行ったことへ繋がる。