突入
すぐさま、陣形を組み直し隊列も整えた。
「ほう。見事だ。正直、侮っていた。まんまと策にハマったようだ」
「そう軽口を叩けないようにしてやる。トコトン付き合ってもらうぜ。
リーダー! 位置に着いたぜ」
「よし。信号弾を放てッ!」
真夜中の空に赤い信号弾が打ち上がった。
新月に照らされていた地表は一瞬だけ朱色に染まった。
このメッセージを待ち侘びていた者の瞳に映し込ませている。
「来た。いよいよ、突入だ! 二人とも行くよ!」
参謀、バミューダは頷き素早く基地の頭部へと移動した。
基地頭部は整備されていなく梯子などは設置させていない。
警備ロボットの姿はなかった。
緋音一行はロープをつたって降下するしかなった。
「どうやら、あのロボットのメモは本当のようだな。
警備レベルが明らかに低い。外部がバタついている状況ではあるが手薄だ。
まずは俺が先に降りよう。万が一敵と遭遇しても制圧してみせる。その次は緋音だ。
戦力を補強しつつ順次降下させていく」
「うぬ。それがよさそうじゃな。バミューダ、頼んじゃぞ」
バミューダは慣れた手つきで降下口にロープを巻きつけた釘を打ち込んだ。
強度を確かめて降下を始めた。
念のため参謀は釘を打ち込んだロープで待機している。
緋音は次の降下に備えて、バミューダの動きを見て盗んでいた。
彼女はこの星にやってきてから”初体験”だらけだった。
滝壺へ飛び込んだり、百メートル以上からロープで降下する経験はそんな簡単に積める訳ではない。
「バミューダ、大丈夫か? 暗いから気を付けろよ」
「こんなのは朝飯前だ。っと!」
余裕癪尺なバミューダだった。
緋音の声掛けに対して手を振るほどだった。
ただし、彼が余裕見せると、悪いことが発生する前触れかもしれない。
「中間地点だな。一息ついて行くぜ。おっと。オワッ!」
「ば、バミューダ大丈夫か?」
バミューダを繋いでいるロープは突如、負荷が掛かりロープは一気に張り詰めた。
どうやら、バミューダは降下中に着地後、足を踏み外してしまった。
参謀はバミューダの様子を見られないため、事態を把握できずいる。
たまらず彼は緋音へと状況を伺った。
「あ、アン様! 何事です? まさか敵襲でしょうか?」
「いや、バミューダが着地時に足を踏み外したんだ。
もう少しだけ踏ん張って参謀。あたしがどうにかするよ」
冷静な緋音はロープを少し手繰り寄せ、バミューダの安全を確保した。
「これでどうだ、バミューダ?」
「おう。ありがとうよ、緋音。足場を確保した。大丈夫だ」
安置を確保したバミューダ。
命綱がなければ今頃、地面へ落下し即死していただろう。
気が抜けない。
「はは。これでいい教訓になったな。緋音も気を付けるんだな」
「アン様に向かって何を言うのじゃ、バミューダ。早いとこ、降りて作戦を続行せよ」
二人に挟まれた緋音は苦笑するしかなかった。
とは言え、このアクシデント以降、特に何もなくバミューダは基地へと足を着けた。
次なる一手の足がかりができた。
次は緋音が降下を始める。
「敵影はなしだな。緋音! 降りて来て大丈夫だ」
「わかった、バミューダ! それじゃ、参謀。行ってくるよ☆」
笑顔でバミューダに返答し、彼女はそのまま降下を開始した。
「アン様。お気をつけて……!」
バミューダが降下する様子を凝視していたこともあって、
緋音は彼よりも早く降下できて地面へと足を着けた。
「ふぅ~。思いのほか楽勝だったわね。
先の人がヘマしてくれたおかげで予習ができた♪ スムーズに降下できた」
いつになく誇らしげな緋音だった。
初めてにしては上出来。したり顔でバミューダの顔を見ていた。
「……。参謀ッ! 降下を始めてくれ」
「あちゃ! そりゃ、真っ直ぐしか見れないか……」
今までのバミューダなら緋音に喰らい付き反撃していただろう。
彼も大人になりスルースキルを会得した。
失敗していないテイで緋音を流していた。
右から左へと受け流すぅぅう~。
「それじゃ、行くぞよ」
「参謀、無理しないでね!」
いささか中年体型の参謀は自他ともに不安だった。
緋音も気が気ではない。
若者二人と比較して圧倒的に降下が遅かった。
「はぁはぁ……。老体に鞭とはこのことじゃ……」
「参謀、大丈夫? あんまり無理しないでよ」
自重を支えつつ降下するのは、思いのほか体力と集中力を必要とした。
体力が低下しているかつ贅肉がついたお腹では難しい。
「こうしちゃいられねぇ。夜が明けちまう。俺がサポートに行ってくる。
緋音はここから指示を頼んだ」
「あ、うん」
お面返上を兼ねてバミューダは颯爽と参謀がいる地点へと移動した。
比較的スラットしているバミューダであっても、
参謀と一緒にロープに吊らされると体重が超過して、二人一緒に地面へと落下してお陀仏。
「ここまでくれば、ロープを伝って降りるだけだ参謀。頑張れ!」
「へぇへぇ。おっとと。し、しまった」
バミューダの姿を見て、安堵した参謀は気が抜けてしまいロープの握りが緩んでしまった。
たちまち自由落下が始まってしまった。
「おい! たぬきジジイ! こりゃ、やばいぜ」
「参謀、落ち着いて! もう一度ロープを掴むんだ」
万事休す――。
若干、パニックに陥った参謀だったが、緋音の声を耳にすることでどうか落下を阻止できた。
しかし、足場がない。完全に宙ぶらり。
「世話が焼けるぜ、参謀。これを機に少しは運動でもして痩せるんだな」
「ば、バミューダ。恩にきるぞよ」
安全に素早く。
そして、正確に参謀が宙釣りになっているところまでバミューダが駆けつけた。
さらっと、彼はロープを手で繰り寄せて参謀を安置へと移動させた。
バミューダのサポートもあって、参謀も基地へと足を着けた。
「アン様。お待たせして申し訳ありません。バミューダも助かった。礼を言うぞ」
「よかった。一時はどうなるかと心配したよ。バミューダ、ありがとう!」
一次関門であった降下は無事どうにか成功した。
ついに緋音は基地へと戻った。
緋音一行は次なる作戦へと移行した。
「よろこんでいる場合ではない。行くぞ! 気を抜くなよ?」
「あぁ、そうだな!」
緋音一行は息つく間もなく走り出した。
しばらくすると、二手に分かれている通路へと出た。
「分かれ道だな。良くも悪くも計画通りだ。俺は左に行こうと思う」
「そうだね。あたしと参謀は右の道を行くよ。船員を優先して解放する」
緋音を支援していたロボットから貰ったメモは基地の全体図を俯瞰した物だった。
基地内部が詳細に記載されている訳ではなかった。
作戦上、彼らは二手に分かれて効率よくレジスタンスや船員を解放する算段だった。
ただ、一点不安材料は存在する。
一時的に戦力が分散してしまう。
そのため、早急に仲間を解放した後、緋音とバミューダは合流し、
伯爵を討つ最終段階へ移行する必要がある。
「バミューダよ、頼んじゃぞ。アン様、行きますぞ!」
「バミューダ。別れの言葉は言わないよ! また☆」
バミューダは静かに頷き、去り際に緋音へ拳を突き出した。
「当たり前だ。お前も死ぬんじゃねぇぞ!」
二人は拳を突き合わせ別れた。
短い間に【死線】をくぐり抜けてきた彼らに長ったらしい「言葉」は不要だった。
「……はぁはぁ。思いほのか長い道だ。
以前、この基地から抜け出した日を思い出すよ……」
「アン様、お早いです……。ふぅふぅ……。
もしかしたら、基地の構造上、似ているかも知れません。
もうじき、お仲間がいる場所へと出られるかもです。
ここは敵の本陣です。敵との交戦も備えて下さい」
基地から抜け出した日を緋音の頭の中は逡巡している。
――あの日から、激動の数週間。
彼女は新たな仲間を得て、再び伯爵へと戦いを挑めるようになった。
その頃、頼もしい相方であるバミューダは拓けた空間へと出ていた。
「今の所、敵と出くわさない。こういう時に限って、伯爵野郎と遭遇する可能性だってある。
冷静になれ、バミューダ。あっちの方に行ってみるか」
彼は高まる気持ちを抑えていた。
ようやく、過去の自分と決別できる刻を迎えようとしている。
母親の敵討ちをし星の解放。
今や彼には自分の”復讐”だけではなく、レジスタンスの仲間の意思も宿っている。
「こ、これは!?」
左方向へと進んで行くと階段があった。バミューダは直感を信じて、階段を降った。
降っていくごとに、明るさはなくなり地下に到着した。
明かりはほとんどなく、薄暗くジメっとしている。
異臭に包まれている。
「ゴホっ。不気味だぜ。おっと……。うん!?」
恐る恐る彼は歩を進めて行った。
すると、何かの気配を感じ取った。
「うわっ! 人か! となりゃ」
「新入りか……。若けぇのに……」
バミューダの足元で横たわっている中年男性と目が合った。
全身汚れていて、髪や髭もボサボサで目に生気は宿っていない。
「……俺は違う。いや、俺達は皆を助けに来たレジスタンスの分隊長バミューダだ!」
『……!?』
バミューダが素性を明かし、目的を説明した瞬間、
後方からしがれた声で彼の名を呼ぶ声が聞こえた。




