作戦発動
「皆、よいな? あまり行動を遅らせると伯爵らにこちらの思惑を勘付かれる恐れがある。
ゆえに決戦は明後日、0時の新月に発動させる」
『了解ッ!』
リーダーの号令で締めくくられ、各々は各隊に帰り役目を果たすために修練を重ねた。
いよいよ、レジスタンス、緋音の運命が大きく変わるときまで残り四十時間あまり。
後悔が残らないように全力を尽くす。
そして、明るい未来を掴むために戦士達は体を休めて泥のように眠りについた……。
「うぅ……。久しぶりにゆっくり寝れる。みんな、大丈夫かな。
あたしが必ず助けるから。待っててね……」
寝室で横たわりながら握り拳を天井に掲げた。
決意を胸に彼女の意識は徐々に現実から遠いって行った。
闇夜に包まれ、静寂を取り戻したレジスタンスのアジト。
時は流れ第二次基地攻略決行日を迎えた。
大広場には戦士達が集まり熱気に包まれていた。
「ついに、この日を迎えた。連合大隊長。準備はよいな?」
「おう。俺とマイティーは両翼に分かれて基地を叩く。ガイオンとダダが出現次第、
基地から遠ざける。頃合いを見て参謀らは塔上部から内部へと突入する」
作戦の成功を握る第一段階の襲撃部隊。
クリスとマイティーは最終確認をした。
「あぁ。そしたら合図を出す。空に信号弾を打ち上げる。
無線での連絡はあいつらに傍受される恐れがある。信号弾に関してはこれまでも、
敗走した際に使用はしたことがある。そこまで、違和感がないと思うぜ」
「うぬ。それで問題はないはずじゃ。ワシらはそれまで身を潜める。
頼んじゃぞ!」
戦士達は装備を整え連合大隊長――レジスタンスの総戦力一万を分割し準備を終えた。
「では、参謀。我々は出撃をする。次に会う時は祝杯を上げよう」
「リーダー、頼んだぞ。皆の武運を祈っておる!」
連合大隊長らは出撃した。緋音とバミューダも彼らを見送った。
一瞬の内に大広場はもぬけの殻となった。
先ほどまでの熱気が嘘のように静かだった。
しかし、空気だけが異様に張り詰めている。
『……』
彼らの奮闘を待っている間、緋音とバミューダは沈黙することしかできない。
「緋音にバミューダ。何かいるかい?」
「今は立っていたってしょうがないよ。リラックして?」
落ち着きがない彼らを見かねて、マルスとリナが話しかけた。
「マルスにリナ。気を遣わせてすまねぇ。それじゃ、コーヒーを貰おうか」
「二人ともありがとう。あたしもコーヒーもらおうかな」
はやる気持ちを落ち着かせるため二人はコーヒーを口にした。
しばらくすると、参謀もやってきた。
「アン様にバミューダ。準備はいいですな? そろそろ、我らも出撃の時です」
連合大隊長の出撃から一時間半経過後、緋音一行も基地付近へと向かうフェーズに移行した。
「うん。行こう、二人とも!」
「緋音、バミューダ。頑張ってね」
「参謀も無理せず頑張って!」
マルスとリナからの声援を背にし、緋音一行はレジスタンスのアジトを後にした。
隠密に移動しながら基地周辺へと到着した緋音一行。
「大分、騒がしくなって来た」
「俺達の仲間が交戦している。みんな、頑張れ」
銃撃音や怒号が戦場に響いている。今のところ、作戦は滞りなく進行していた。
「小癪なニンゲンめ。ガイオンはそっちを任せる。私はこちら側を蹂躙する」
「オレに指図するな、ダダ。
人間を木端微塵に破壊するのが、俺の唯一の楽しみだ。お前達行くぞッ」
レジスタンスの奮闘に対して呼応する如く三銃士のガイオン、ダダが出現した。
緋音一行は、ただ見守ることしかできず歯がゆい。
それでも、緋音達は仲間を信じてさらに基地へと歩んだ。
これまでのレジスタンスの攻撃は今一つ物足りない規模だった。
奇襲など真っ向から戦いを挑むことは大隊長ベティ亡き後なかった。
しかし、今回の奇襲を受けて、
戦場での”違和感”にダダは何やらレジスタンスへ不気味さを感じている。
「ふーむ。部隊の編成が大分違う。分隊ではなく大枠でまとめている。
ベテランが前線で士気を高めている。
正直、やっかい。
さらにめったに姿を見せないレジスタンスのリーダーも戦場に出て来た。
本気のようだな……」
表だって感情に出さないが、ダダは一抹の不安を抱えていた。
そのため、戦力を出し惜しみせず増援をかけた。
「マイティー連合大隊長。さらに敵は増援を投入してきました」
「そのようだ。総員、戦線を少しづつ下げていく。このまま、奮闘を頼んだ」
マイティー率いる左翼大隊は誘導を開始した。
一方、右翼はガイオンの突破によりクリスは苦戦を強いられている。
「けっ。相変わらず馬鹿力だけは健在だな、ガイオン」
「御託はいい。俺はニンゲンを破壊したい。
伯爵に献上する生命の贄に興味はない。覚悟しろ」
闘争本能に支配されているガイオンは躊躇うことなく、クリス目がけて突進し防壁を突破していた。
リーダーや参謀の予想を大きく超える武威だった。
「コイツを相手しつつ、戦況を見極めるのは困難だ。
しかし、裏を返せば俺がどうにかガイオンを抑え込めれば、瓦解はしないはず」
「クリス大隊長! 俺らがここを担います。再度、指揮をお願いします」
マイティーが気を利かせて、救援隊を派遣させていた。
クリスとガイオンの間に割って入った。
「流石はマイティーだ。恩にきる。このまま押し切るか」
「それは駄目です。クリス大隊長! 我々が殿を努めます。ですから!」
柔軟に対応しているが、マイティー隊がガイオンをせき止められている時間は僅かしかできない。
作戦を続行するには、クリスが下がりガイオンをさらに誘導するしかない。
「……。すまないお前ら死ぬなよ」
「この戦いは全てを賭けるのに値します。死ぬ気でガイオンを止めてみせます」
後ろ髪引かれる想いでクリスはその場を後にした。
「逃げるか。まぁ、コイツらをぶちのめしてすぐに殺してやる」
「そう簡単にやれると思うなよ?」
命を懸けて生まれた時間――。
この決死の行動により、作戦は次のフェイズへと移行できた。
「リーダーすまない。当初の計画から遅れてしまった」
「クリス無事で何よりだ。多少の遅れは想定内だ。むしろ、ここから正念場を迎える。
敗走と見せかけて三銃士を僻地へ誘導。その後、連合大隊は残存兵力を全て動員させて蓋を締める。
三銃士の動きを封殺する。その後、参謀らに基地突入の報せを出す。いいな?」
静かに頷きクリスは連合大隊を率いて、誘導地点へと姿を消した。
「もう撤退か。思いのほかつまらない。
今後、軍を起させないためにも徹底的にレジスタンスをいたぶるか……」
これまでのように敗走するレジスタンスの背を狙うが、
ダダはこの時、誘導されているとはつゆ知らず。
もうじき、獲物を追う者から立場が逆転する。
「ここが決戦の場だ。みんな、やるぞ。気を抜くな」
「野郎ども、準備はいいな?」
両翼の連合大隊は目的地へと到着した。
三銃士ダダ、ガイオンも追従した。
そして、両軍とも岩壁を背にし相対する形となった。
「わざわざこんな所へ逃げるなんて、つくづく馬鹿だ」
「幕だ。死ぬがよい……」
――絶体絶命の状況下。
逃げ道はない。
しかし、ダダは一向に取り乱さないレジスタンスを目の当たりにしてあることに気付いた。
「なにか、何かいつもと違う。バミューダがいない。
あと星森緋音もいない!」
「どうしたんだ、ダダ?」
連合大隊長ならまだしも末端のレジスタンスの戦士達も絶望しない姿を見て、彼らの闘志みなぎる意思を感じ、ダダの脳裏にある不安が過った。
「ま、まさか。これは囮か……?」
「さぁ~な。俺らもそんなに余裕はねぇんだわ。
そろそろ、この戦いを終わらそうじゃねぇか?」
ダダは悪寒が走り地の利では有利な状況で、
連合大隊長二人に背を向けてこの場から離れようとした際、号令が発令された。
『総員! 陣形を入れかえよ! 予備の後方部隊はただちに蓋を締めろ。
守りを固めよ。クリスはそのままでマイティー隊はさらに隊を分散させて、三銃士をさらに包囲せよ』
レジスタンスのリーダーの号令の元、大軍は動き出した。