誓い
『ベティ大隊長! バミューダ!』
「よかった。まだ、二人は生存してます。ドジャー分隊長ッ!」
レジスタンスの規則を破りドジャー分隊長が救援に駆けつけていた。
「ドジャー分隊長にみんな! 俺らはここだ」
「ドジャーめ。無茶しやがって。でもありがとう……」
ベティはこうなる算段がなかった。
結果的に両軍の大将たる主要人物が一対一で相対し、ぶつかることになった。
「勇ましいですね。三銃士を連れてくるべきでした。
まさか、これを想定して自らを餌に私を引き付けたのですか?」
「私を過信しすぎだ。だとしたら天才過ぎる。これこそが人の力だ。
みんな、損得なんて、くだらないことを考えず私たちを助けに来たんだ」
分隊長ドジャーが敵陣を突破し、彼らめがけて猪突猛進。
「戦況はよろしくありません。儀式を急ぎましょう。バミューダ。
この光景を目に焼き付けておきない。あなたはいずれ、皇帝陛下へと献上できる逸材へと成長するでしょう。ただ、いまは未熟で”力なき少年”。これを機により一層成長することを切に願いますよ」
伯爵は銃を抜きベティの心臓に銃口を向けた。
「や、やめろッ!!」
バミューダの叫び声が戦場に響き渡った瞬間、渇き切った銃声が響いた。
ベティの心臓は弾丸に貫かれて流血し、静かに地面へ倒れ込んだ。
「……バミューダ。いままで、寂しい想いをさせてごめんね。
だけど、後ろを良く見て。私やお前を命がけで救いに来てくれる家族がいる。
だから、これからは立派なレジスンタスの戦士として、みんなを守って……」
「も、もう喋らなくていい。母さん、俺は強くなるよ。俺がみんなを守るよ」
バミューダは駆け寄り母を胸に抱いていた。
「最後に無理なお願いをしちゃってごめんね。本当に私はあなたの母親になれて幸せだった。
私を母にさせてくれてありが……とう。バミュ……ダ」
「俺はそんな立派な子どもじゃなかった。ガキのまんまさ。
俺もありがとう……。母さん」
愛息に抱かれたままベティは眠りについた。
表情はとてもおだやかだった。
「べ、ベティッ! すまない、すまない……」
分隊長ドジャーは救出に間に合わなかったことを受け入れらえず、
彼はベティの亡骸を前に泣き崩れた。
「お、俺がいながら、お前を死なせてしまった……」
戦場は非常にも刻一刻と変化し、後悔や悲しむ時間を与えることもしなかった。
「どうやら、この事態に気付いた三銃士も戻ってきました。退却しましょう」
「あぁ。ベティはレジスタンスへ連れて帰る。
彼女が命を懸けて守ったバミューダも必ず一緒に帰還するぞ」
ベティが死後、士気が著しく低迷することもなく、むしろ不思議な力?が沸き上がった。
勇気が伝播し絶望しないでいたレジスタンスの戦士達。
どうにか、もう一度敵陣を突破したかに思われたが、進撃が止まった。
「グッ。このドジャー隊の突進力が止まるとは」
「ふっ。三銃士ガイオンを舐めるよ」
体躯を誇る三銃士ガイオンが進撃を制止、ドジャー達は包囲されかけた。
「くっ。正直、ここで三銃士は厳しい。力任せのガイオンか」
「分隊長ッ! ここは我々が殿を務めます。元よりベティ大隊長に救われた命。
いまこそ、その役目を果たす時です。ですから、行って下さいッ!」
――まさに苦肉の策だった。
この場に残れば生き残る可能性は限りなく0。
命令されることなくレジスタンスの戦士は、一人またひとりと殿を名乗り出た。
「ば、馬鹿野郎っ! その役目は分隊長の俺が……」
「分隊長……。誰がレジスタンスへ……。ベティ大隊長とバミューダを送り届けるんだ。
あなたにしかできない。だから、振り向かず突き進め!」
ドジャーは部下の魂の説得に反論できなかった。
各々覚悟を決めて再度、走り出した――。
「バミューダ、あの馬に乗るぞ。操縦はお前に任せる。
いち早くこの場から脱する」
「はい……!」
バミューダは馬に跨りドジャーを乗せ馬に鞭を入れて一目散に戦場から退散した。
彼らの背中は泣いているように見ていた。
「後ろへ振り返るな。あいつらの想いも受け継げ。強い男になるんだ」
休むことなく馬は風のように加速し、一向はレジスタンスのアジトへと帰還した。
事態を察した仲間達はアジトから飛び出して彼らを迎えている。
「……。参謀、リーダーすまない。
命令を無視した上で大隊長ベティを死なせてしまった。
お、俺は……」
「ドジャー分隊長は悪くありません。全ては俺の責任です。お、俺が……」
ベティの訃報は瞬く間にレジスタンスの仲間達へと伝わった。
「大隊長……」
「おぉ、ベティ……。すまんかった。許してくれ……」
参謀も感情を抑え切れず泣き崩れた。
レジスタンスの家族も悲しみにくれた。
しかし、バミューダは違っていた。
「参謀やみんな、聞いてくれ。俺が大隊長――お袋を死なせてしまった。
目の前で伯爵に殺されて悔しい。憎い。俺は無力で足手まといなガキだった。
だから、俺は誓うよ。この手で伯爵を仕留める。この星を解放してみせるッ!」
「バミューダよ。お前が一番辛かったじゃろ。ワシはお前に酷な事をさせてしまった。
ただ、間違いなくベティの意思はお前に。いや、このレジスタンスの戦士達の魂に宿っているはずだ。
今から言うことは、“あるお方”から伝えられた予言じゃ。――そう遠くない未来。
この星へ赤き意思を紡いだ者が現れるはずじゃ。我らはいずれ、
その者と共に戦い伯爵との戦いを終わらせる。
ゆえに今は傷ついた体と心を休め、その来たる戦士が現れる刻まで。
みな、大隊長ベティが愛したこの星を守るぞよ」
バミューダ封印していた苦い思い出を緋音へと、洗いざらい吐露している。
まっすぐだった視線を緋音にやった。
そんな、彼の隠された話を耳にして、緋音は胸が張り裂けそうになった。
「すまねぇ。柄にもなく一方的に話してしまった。……?」
「グスっ。辛かったな、バミューダ。
今のバミューダの姿を見たらお母ちゃん、喜ぶだろうね……」
緋音の瞳からは清らかな涙が零れ落ちて頬を伝わっていた。
バミューダの心の靄も彼女へ告白することで和らいでいた。
「あぁ。そう思ってもらえるように俺は伯爵を倒す。
だから、俺はお前をレジスタンスへと迎い入れた。参謀が言っていた予言の主は緋音なんだ。
きっと、お前のお袋さんも願いを込めて、未来へ希望を託した」
「あたしはみんなが望んでいる器かはわからない。でも、このままでは終われない。
バミューダ。必ず伯爵を倒してクルーやレジスタンスの仲間を救出するぞ!」
緋音は涙を拭き取りバミューダと共に誓いを立てた。
二人の間に気まずい空気もなくなり本当の戦友へとなった瞬間だった。
「あぁ。頼んだぜ、緋音。んじゃ、そろそろ寝るか。
明日、早朝にここを出て俺らの家へ帰還するぞ」
「うん、そうだな。おやすみ、バミューダ……」
二人は静かに眠りについた。
その頃、レジスタンスの本拠地では妙な動きがあった。
早くも宇宙機械伯爵による夜襲だった。
しかし、物騒な機械兵団での襲撃ではなかった。
ニンゲンの深層心理に付け込んだ陰湿な攻撃だった。
夜空に小型機を飛ばし耳障りな声でレジスタンスの空域を飛び回った。
『真紅の緋音と分隊長バミューダの調査任務は失敗しましたよ。
これはハッタリではなく、三銃士が直接お二人を崖から突き落としました。
現にお家へと帰還できていないでしょうに』
「こ、この声は伯爵! 何か嫌なことが起こる予感がする」
あえて、武力を行使せず伯爵はレジスタンスらにもっとも効果的な攻撃を仕掛けた。
早くも情報操作を加え、ネガティブな情報で揺れるレジスンタス。
「リーダー。起きておったか。どうやら、伯爵が動いたな。
アン様――緋音とバミューダは無事じゃろうか……」
この事態にレジスタンスのリーダーと参謀は飛び起きた。
続々と分隊長達も大広場へと集結するのだった。