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銀河機動旋風~真紅の緋音~  作者: 恥骨又造Mark.2
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大隊長ベティ

「この星――マーダスは元々、緑豊かで綺麗な水があった。

動物も沢山いて、人間とも共存し静かに暮らしていた。決して裕福とは言えないが、

みんなで助け合い平和だった。ただ、その生活もアイツらが降り立って、生活が地獄へと一変した。

それはまだ俺がガキの頃だった」


今日に至るまでバミューダを含めてレジスタンスの戦士達は命を燃やし、

先祖代々の土地や星の文明を守るため、宇宙機械伯爵らと徹底抗戦をしていた。


「俺の家は早くに親父が病気で死んじまった。母親、一人に育てられた。

厳しくもあり心には強い芯があった。とても、優しい人だった……。レジスタンスでは大隊長だった。

戦場を指揮しコイツを使いながら、獅子奮迅のごとく戦果を上げていた。

みんなからも慕われ、俺の憧れでもあった」


誇らしい顔をしつつも、どこか悲しげに見えるバミューダの横顔。

緋音は彼の愛銃である小宇宙銃剣コスモガンソードをそっと撫でた。


「バミューダのお母さんはとっても強い人だったんだね。お名前は?」

「あぁ……。そりゃ、自慢のお袋さぁ。ベティ。久しぶりにその名を口にしたよ」


少し照れくさそうにバミューダは右手の人差し指で鼻を啜っている。

だが、バミューダが愛していた母、ベティとの生活はそう長くは続かなった。


「もし、あの時俺に”力”があれば、今もお袋と一緒に毎日を楽しく笑って過ごせていたと思う……」


彼の記憶の中で最も忌むべき出来事。

バミューダは無意識に手を強く握っている。

母、ベティとの最後の追憶。


「……緋音。女性が戦場に出てくることを拒んでいるのは俺のエゴだ。

お袋以外にも覚悟を決めて、男よりも高い志を持つ人もいる。俺はそれを踏みにじっている。

てめーでまいたトラウマをみんなへ押し付けている。

緋音、お前も母親から大いなる使命を受け継ぎ過去から未来へとやってきた。

そんな、お前を俺なんかが軽がしく否定する通りはないんだ……」


「エゴ……。あたしはバミューダのお母さんのように立派な志はないさ。

訳も分からず、ただ目の前のことをこなしてきた。そうした中でお父ちゃんの意思を継いで宇宙海賊をやりながら、超新星機関――ジ・オリジンの継承者と出会った。

あたしも運命に導かるようにこの地へと降り立った」


緋音のここまでの旅路も生半可ではなかった。

バミューダは共に任務や共闘することで、彼女に宿る決意が母、ベティの姿と重なっていた。


そのため、初対面時に思わず、女性が戦場にいることへ葛藤を抱いていた。


「緋音にそう言ってもらえて心が救われるぜっ。

だが、このエゴしかりトラウマを俺に植え付けたのは自分なんだ。

俺が好きだったお袋は俺のせいで死んだんだ。

それは俺がレジスタンスの戦士になった初陣だった……」


――宇宙機械伯爵がこの星に住み着いて以降、

男児は齢十三を迎えるとレジスタンスへと入隊する決まりだった。


バミューダは憧れでもあった母、ベティと共に戦えることを心待ちにしていた。

対してベティは複雑な思いだった。


大隊長として、戦いを終わらせて息子へ平和な世界を届けようと必死に戦い抜いていたが、

その願いも叶わずに愛息がレジスタンスに入隊した。母親としては避けたい“未来”だった。

それでも、立場上、バミューダを従え指揮することへ葛藤を抱いていた。


これが最終的に悲劇を生むと見ず知らずに。


「お、お母さ……。いえ、大隊長。よろしくお願いします!」

「バミューダ、よろしく。頼りにしているよ」


入隊初日、ミューダは得意げに不慣れな敬礼をしてみせた。

訝しい表情だった母親も自然と笑顔になっていた。

ベティも息子の成長した姿に亡き夫のような雄姿をうっすらと感じることができた。


「大隊長っ! 有望な戦士が入りましたな。坊主、頑張れよ~」

「はい。ドジャー分隊長!」


負傷しレジスタンスから勇退する前のドジャーの姿があった。

レジスタンスの戦士として、ベティを支えていた歴戦の猛者であった。


「あの時の俺は、お袋に勇ましい所を見せたいと息巻いてたさ。

そんなガキを見て、当時のドジャーのおっさんは楽しげに茶々入れやがった」


「っと、話が逸れちまった。

そんで俺はお袋やドジャーのおっさんらと一緒にレジスタンスの初陣へ出ることになった。

あくまでも、俺は見習いとして偵察の任務にあたっていた。

しかし、マヌケで未熟な俺はニンゲン狩りに来ていた。伯爵に捕まってしまった」


緋音だけではなく、バミューダも宇宙機械伯爵と因縁があることが明かされた。

神出鬼没な伯爵。


用心深いと思いきや、時に大胆なことをしでかす。

並の人間では伯爵の行動は読めない。


「あいつは俺を依り代に生命プラント化を進めず、何故だか人質交換という古典的な手法を使った。

あの時、俺は覚悟を決めていた。ただ、子供ながら妙に落ち着いて、

臆することなく奴へ敵意を剥き出しにする、俺を見て何かを察したかもしれない。

お袋――大隊長はそんな交渉に乗らないと思っていたが……」


「俺の見立ては外れた。まんまと伯爵の術中にハメられた。

大隊長でありながら、参謀やリーダーの反対を押し切って、お袋は交渉の場に現れた」


こんな馬鹿げた交渉に応じる訳がないと、バミューダは腹を括っていた。

しかし、大隊長という立場を捨て去りレジスタンスから強引に抜け出し

愛息、バミューダの身を心配する母親の姿となったベティだった。


「約束通り来てやった。伯爵。早くその子を解放しろ」

「大隊長ッ! なぜここに!?」


バミューダは母の姿を見て、自然と涙が零れていた。

それでも、剛情な彼は母親への感謝の言葉を口にせずいる。


「いやはや。まさか、ほんと~うに“大隊長のベティさん”が現れるとは。

あれ、おかしいですね。いつもの取り巻きがいないですね~」

「アンタじゃ、あるまいし。私は堂々と一人で来た。その方が好都合だろ?」


伯爵は独りで佇んでいるベティを見て嘲笑した。

悪意に満ちた表情で手を額に当て、辺りを見渡すフリをした。


「こんな、安い挑発には乗りませんね~。でも、おかしいですね。

こんな子供一人に血相かいて、らしくないですよ? ほらっ!」

「グッ!!」


極限の緊張下でバミューダは警戒心が緩んでいた。

そんな状況での伯爵からの容赦のない不意打ち。

バミューダは伯爵のサーベルで左目を切られた。


「な、何を!? や、辞めろ。やめて……」

「おふ……。大隊長大丈夫です」


驚異的な身体能力によって、バミューダは致命傷を逃れた。

しかし、涙と血が混ざり視界が薄れていた。


「おやおや。ここまで来ると、私の良心も痛みます。

もう終わりにしましょう。あなたの子供と人質交換です。よいですね?」

「隠すつもりは毛頭ない。ハナっからそのつもりだ」


「ま、待ってくれ。お袋、それじゃ……」


伯爵の作戦勝ちだった。

何度か彼女と交戦する中で興味を持ち伯爵の中で数少ない人間として覚えられていた。

ベティと同じ瞳を持つバミューダを捉えた際に確信を得て作戦を実行した。


見事なまでに伯爵の思惑通りになった。


大隊長としての威厳や覇気は失われ、

一母親となったベティ。

「私も鬼ではありません、さぁ、交代ですよ。

バミューダ?」


解放されたバミューダは母の元へと駆け込んだ。

ベティはそっと息子を抱擁した。


「母さん、すまない……。

俺は馬鹿でドジで、どうしようもない……」

「いいんだ、そんなことは。

お前が無事でさえいてくれれば」


ベティは優しくバミューダの眼の傷に触れて血を拭った。これが愛息バミューダと最後に触れ合った瞬間だった。


「このまま、一緒に逃げよう……」

「それは無理さ、バミューダ。

私は約束を守りに来た。これがお前を救える唯一の手段なんだ……」


ベティは気丈に笑って見せて、バミューダの元を離れた。


「さぁ、伯爵。私は来てやった。逃げも隠れもしない」

「ほほぅ。土壇場でいつもの威勢が戻りましたね。

流石です」


覚悟を決めたベティの瞳はまっすぐ伯爵を捉えていた。恐怖心や迷いなど、負のネガティブな感情から解放された状態。


「これだから、ニンゲンは面白い。

油断できません。では、その物騒な物を捨てて下さい」

「あぁ。人間は悪いもんじゃない。

きっと、この先――私の【意思】はあの子が受け継いでくれる。今は小さい火だが、やがて大炎となりお前の野望を打ち砕くだろう」


ベティは悟りつつも未来への希望は絶やさない気持ちを抱いていた。


すると、バミューダ親子の背後から、歓声や呻きのような音が響き徐々に彼らに接近していた。

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