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「分かりました。考えておきます」

「ありがとうございます! 光栄です」


晴れやかな表情で、ではまたと離れて行くケインを見送る。


「何故、偏った性癖の持ち主が集まってくるのかしら」


それに何故だかご主人探しに総じて積極的なのだ。実に不思議である。


「やぁ少し話さないか?」


突然、声を掛けられ見てみればナヨッとした男がいた。


「何か、ご用ですか?」

「用が無かったら話しちゃ駄目か?」

「時間の無駄なので」


とても良いと小さく呟き、もやし男が一歩近付いた。反射的に一歩下がって距離を取る。


「何の用なの?」

「お前、結婚相手を探しているのだろう? 俺がなってやっても良いと思ってな」


見た目と話し方にギャップがある。キュンとはしない、むしろ鳥肌が立つ程に気持ち悪い。これが生理的に受け付けないというやつだろうか。


「結構よ」

「田舎から、はるばるやって来たのだろう? 遠慮する事はない。俺は優しいぞ」

「目の前から消えて下さる?」


更に笑みを深めて嬉しそうだ。コイツも、困った性癖の持ち主なのだろう。


「あぁ気が強い女を従わせるのが好きなんだ。意地を張らなくて良い。困っているのだろう?」


さぁおいでと腕を広げる、もやし男。誰が行くか気色悪い。ケインの方が、よっぽどマシである。


「人の話は、ちゃんと聞きましょうって小さな子でも知っているわよ? 貴方は、そんな事も出来ないのかしら。人として残念ね」


そんな人とは話もしたくありませんと背中を向けて歩き出す。突如、背後から抱き締められブワリと鳥肌が立つ。気持ち悪過ぎて堪らず肘鉄を喰らわした。


「うっ」


呻いて直ぐに離れた所で振り返る。

ナナリーは踞っている男の髪を掴んで上を向かせた。


「許可もなく触ってくるなんて余程、躾がなっていないのね?」


痛みに呻くだけで何も言い返す事も出来ない。


「あら、まぁ無視? 性根が腐ってるのね、叩き直してあげましょうか?」


何発かビンタをお見舞いする。


「手が! 手が汚れてしまいますよ」


ケインが走り寄ってきた。手にはハンカチが握られている。


「それは汚いです。1度離しましょう」

「そうね、離す事にするわ」


何て羨ましいとボソッとした呟きは聞かなかった事にしてハンカチを受け取ると濡れていた。気を利かせてくれたのだろう。有り難く手を拭く。


「ありがとう、洗って返すわね」

「いけません! 返して下さい!」


バッと取り上げられ大事そうに内ポケットに仕舞われる。濡れているのに大丈夫なのだろうか。


「ねぇ、貴方? それ濡れてたわよね? そこに仕舞って大丈夫なのかしら」

「一向に構いません。ご褒美です。それから、どうかケインとお呼び下さい、レディ?」


好みの顔に柔らかく微笑まれドキリとする。


「あ、えぇ良いわ。ケイン?」

「はい」


とても嬉しそうに目を細め頬は薔薇色に染まった。名前を呼ばれただけで、この反応である。

今日が初めて会った日だというのに、もはや心酔していると言っても過言では無さそうだ。


そしてドストライクの顔の男の可愛い反応をもろに喰らったナナリーは不覚にも胸をときめかせていた。


「...こんな男に」

「何ですか?」

「あ、いえ。何でも無いわ」


自身の気持ちの動きに一抹の不安を抱き、とりあえず距離を取る事にする。いくら有能で好みの外見だからと言って変態さんを婿に取るつもりは無い。


「レディ! 何処に行かれるので?」

「少し喉が渇いて」


パッと直ぐにグラスを差し出された。早い、なんて素早い動き。


「貴方」

「ケインと」

「失礼。ケイン? もしかして武術の心得があるのかしら」


照れた表情になる。


「実は少し、嗜む程度ですが。大した実力でも無いので、お恥ずかしい」

「そうなの? 身のこなしが...まぁ良いわ。これ、ありがとう」


貰ったグラスに口をつける、お酒かと思ったのだがジュースだった。甘過ぎず爽やかで美味しい。


「おい! 俺に、こんな事しておいてただで済むと思うなよ」


もやし男だ、回復したらしい。立ち上がり乱れた髪をかきあげて此方を睨んでくる。頬をパンパンに腫らしているし全く怖くない。


「ジョン殿、見苦しいですよ。かよわいレディに負ける程ご自分が軟弱者だと吹聴するのですか?」


もやし男との間にスッと入りナナリーを後ろにして立つケイン。何て紳士的なのかしらと、またも胸をときめかせるナナリー。

しかし、相手は変態である。これではいけないと気を引き締めた。


「何だ、俺が負けた? あれは不意打ちだったからだ。まぐれだよ。でなきゃ俺が女の攻撃を受ける訳がない」


フンと鼻で笑うとケインの隣に移動して、もやし男を見つめる。


「この私と正々堂々と勝負しましょうか?」

「殴り合いでも、しようってのか」

「えぇ、そのつもりよ」


武器を用いる事より肉弾戦が得意なのである。


「魔法も有なら受けてやろう。女の癖に俺に勝てると思うなよ」

「あら、良いの? 私、攻撃魔法も得意なのよ」


ニコリと微笑んで承諾する。


「レディ、大丈夫ですか? あんな男、相手にするだけ無駄ですよ」

「ちょうど身体を動かしたかったのよ」


主催者に許可を取り庭に移動した。話を聞いた者達も移動してきて見物客も居る中、戦いの火蓋は切って落とされた。


「あー久しぶりだわ」


手に炎を纏わせて、もやし男に殴りかかる。


「うわ!」


逃げ足だけは早いらしい。ちょこまかと動き周り何とか直撃は避けている。


「あらあら、逃げてばっかりじゃどうにもならないわよー」


手を上にかざして逃げた先に雷を落とす。それでも逃げる事に徹する、もやし男。

地面に手を置き辺り一帯凍らせた。もやし男が足を滑らせて尻餅をついた所で、また手に炎を纏わせて殴りかかる。


気付けば、もはやナナリーの技披露の場とかしていた。

戦闘の神と崇められている父の娘である。攻撃魔法は派手だし見てる分には、とても楽しい。魔法が放たれる度に歓声が上がり、それに手を振って答えていた。


「アハハハ、ほらどうしたの? 頑張りなさいな」


実に生き生きとしているナナリー。目はキラキラと輝き魔法を放つ様は美しかった。

あんな風に苛められたいと人知れず悶えるケイン。恐ろしい子。



もやし男の髪は所々焦げてチリチリである。着ていた服も汚れていたり穴が空いていたりとボロボロだ。完膚なきまでに打ちのめされ項垂れている。


「それで? 貴方、女の私の攻撃を何度も受けていたわね?」


半笑いで問い掛けられるも何も言い返せずにいる、もやし男。


「レディ」


ケインが側まで歩み寄る。手に口付けを落として微笑み掛けた。


「貴女は、とても気高く美しい」

「...ありがとう」


見物客が見守る中での事である。抗議をするのも可哀想で受け入れるナナリー。


「やはり貴女しかない。私と結婚の約束をして頂きたい」


キャーと黄色い歓声が女性陣から上がり同時に拍手が沸き上がる。やられた、断れない。


「分かりました」


微笑みを湛えて承諾した。痛恨の極み、変態に出し抜かれるとは何という屈辱。


「生きてきた中で今日ほど嬉しい事はありません」


目を潤ませて喜ぶ姿に見た目は好みだし有能そうだし良いかという諦めにも近い気持ちになる。




もやし男は、そっとその場を離れ逃げ出した。


「くそ、覚えてろよ」


悔しそうに顔を歪めて馬車に乗り込む。


「さっさと出せよ! 帰るぞ。ノロマが」


御者に八つ当たりをして悪態をつく。


「俺は伯爵家だぞ。田舎貴族の癖に何て女だ。帰ったら父に話してやる」


泣いて謝った所で許す物か。いや、愛人になるっていうなら許してやっても良いかと妄想する。そうだ、それが良い。愛人にして、あの身体を好き放題にしてやる。

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