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「良かった。それ程怒ってはいなかったみたいだ」


結婚式の費用を1部負担を頼む。それで無かった事にしようという内容に胸を撫で下ろした。


愚息のせいで生きた心地のしない毎日を送っていた為に安堵感も大波の様に押し寄せ、はしたなくもソファに倒れ込む。


「それにしても何て心の広いお方だ」


さすがは戦の神だ。ふんふんと鼻歌を歌いながら2枚目に目を通す。


「3ヶ月後! 短い! この短期間で何としても金を用意せねば」


あわあわと慌てて家令と話し合う。

具体的な金額は、あちらの良い値で頷く方向で何としても不足分が出ない為にも不要な贅沢品は売る事に決まった。


真っ先に売る品を探しに向かった部屋は言わずもがな愚息の部屋である。


ノックもそこそこにバーンと開け放たれる扉。


「父上!」

「やはりな...お前の様な奴には過分な物が沢山ある」


持ち出してしまえと、当主自らどんどん運び出す。

華美な無駄にキラキラとしている服や、これまた派手な金ピカの置物、とにかく目についた派手目な物は取られていく。






苦労して招待状を書き終え達成感もひとしおである。グッと伸びをして脱力した。


「お疲れ様でした」

「ありがとう。一緒に書いてくれて助かったわ」

「私達2人の事ですからね。当たり前の事をしたまでです」


「それでもよ、ありがとう」

「そうですか。ならマッサージをさせて下さい」


突然の申し出に面食らったが疲れている為に有り難く受ける事にした。


「お願いするわ」


ベッドに横になる様に言われ大人しく従う。丁度良い力加減で段々と眠くなってきた。瞼が重い。


ケインは起こす事が無い様にそっと離れると寝顔をガン見した。そっと頬を撫で、おでこに口付ける。


名残惜しそうにベッドから離れ書き終わった招待状の束を持ち部屋を出る。


「お婿様! そちらは私共がお持ちします」

「有難う」


マッチョな家令は恭しく受け取るとクルリと踵を返して去って行った。

ケインはそれを見送ると、そのままデザイナーが待っているであろう部屋へと急ぐ。


ノックをし返事を待って入った。


「お待ちしておりました」

「それで完成間近と聞きましたが」

「えぇ、えぇ、ご覧下さいませ」


筋骨隆々なおっさんは見た目からは想像出来ない程繊細な手付きで布を取って見せる。


「これは...」


王道のプリンセスラインの白いドレスはデコルテから肩、二の腕迄をレースで作られており裾から腰まで広がる繊細な刺繍は金糸で入っている。

ウエストの位置は通常よりも低めに作られているがナナリーは背が高めだから、この方が綺麗に見えるだろう。

シフォンを幾つも重ねたパニエを使う事で軽い上にボリュームを出す事に成功していた。

まるで妖精のドレスの様で美しいの一言である。


「此方はベールです」


薄く綺麗なベールは、これまたレースで縁取られており美しい。早く着てみた姿が見たいと焦燥感に駆られる。


メイクは少しのせるだけにして髪型はアップにして編み込んで、と頭の中で勝手に段取りを取ってしまう程に良い出来栄えだ。


「とても似合うと思います」

「これも婿様の力添えがあったからです。有難うございます最高傑作が出来ました」


デザイナーは感性も繊細らしく涙ぐんでお礼を口にした。






「あら? 婚約式はしないみたいね」

「律儀に、お詫びの品も届いてる」


箱を開けてみればジャーキーである。


「食べてみよう」


2人は顔を見合わせてから口に運んだ。雷が落ちたような衝撃が走る美味しさである。お酒が飲みたい。

1つ、また1つと手が伸びてしまう。


「これは買えるのかしら」

「どうだろう、しかし驚いたな。味は二の次で有名なニコン家が」

「手紙を送りましょう」


金の牙を持つ猪の魔物で作られたジャーキーは絶品なのである。お詫びの品として贈るナナリーが推しに推した物だ。


「あぁでも図々しいわよね。どうしましょう」

「既に騎士を借りている身だからな...」


天を仰いで、どうしたものかと頭を捻る。


「そうだ。此方からは物資の支援をしよう」

「形だけでも交換する事にするのね」

「そういう事だ」


山深い場所にある為、冬は大変だと聞く。ここで貰ってばかりの恩を存分に返させて頂こう。

騎士は正直、破格の金額で借りている状態なのだ。しかも、年単位である。


「何を贈ろうか。やはり新鮮な果物や野菜が良いか」

「そうね、それから王都で流行っている宝飾品やドレスも贈りたいわ」


着飾る事をあまりしない夫人と娘は元が美しい為に勿体無いと思っていたのだ。

これを機にもっと親交を深めてお茶会にも呼んで呼ばれてと友人の様になりたいという気持ちもある。


「あーどうしましょう。きっと何を着ても似合うわよ! 着てる所も見たいわ」

「結婚式の時に沢山持っていくのはどうだ?」

「そうね! 目の前で着て貰おうかしら」


夫人は楽しみで仕方が無い様子でニコニコとご機嫌だ。


「何時も世話になってばかりだからな」

「あ! あの娘は連れて行かない方が良いわよね...」

「また失礼な態度を取られるよりはマシだからな」


今まで甘やかし過ぎたのだろうかと頭を抱える。一人娘だから余計にそうなってしまったのだろう。教育には力を入れてきたつもりだったが辺境伯という物を全く理解していないようだった。

防衛の要であり、此処では騎士を借りている状態だというのに。愚かな娘に落胆してしまう。


「教育には力を入れてきたはずだがな」

「付き合う友人の影響かもしれませんわ」

「嘆かわしいものだ」


娘の行く末を案じる。ひいてはこの家門をこれから任せられる婿が現れない可能性もあるのだ。

今届いてる釣書からさっさと選んでしまった方が良いだろう。前回のパーティーのせいで娘の出来が悪い事が分かってしまったであろう所からは来ない。

適当な家門にお嫁に出してしまう方が得策だ。


「傍系から養子を取った方が良いかもしれんな」

「そこまでですか?」

「考え方を変える事は難しい物だ。それに頭の回る者が来てみろ喰い物にされそうではないか」


良い様に扱われ家門が衰退するとなってはいけない。

娘には悪いが誤った考えのままに振舞われる訳にはいかないのである。


貴族にとっては外での振る舞い1つが命取りになる事だってある。多目に見たせいで更に面倒事を抱え込む事になるかもしれない。悪い芽はさっさと摘むに限るのだ。


子供に対してもドライに対応しなければならない。公爵ともなれば対外に対しても行動を示す必要がある。公爵家は辺境伯を軽んじてはいないのだと。

故に娘に対しても厳しい対応をする。


今回の結婚式でも持てるだけの祝いの品を大量に持っていく所存だ。ジャーキーを少しばかり欲しいという思惑もあるが、そこはコソコソと話す予定である。

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