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「謝罪?」


手紙を読んで書いてある内容に沢山の疑問符を浮かべる。


「どうかしたの?」

「これを見てくれ」


差し出された手紙に目を通す。


「謝罪?」

「そうなのだ。イシャヨム家とは余り交流も無いし、どうしたものか...」

「お婿さんが帰って来たら相談しましょ!」


「そうだな! それが良い!」


以前ボロボロにされたもやし男の家から送られていた謝罪の手紙を見つけたのだ。これまで机に置きっぱなしにされていたのである。可哀想に。


もはや婿殿への信頼は絶大なのだ。頼る気満々である。


「優秀な子が来てくれて良かったですね」

「そうだな本当に頼りになる」


互いに見つめ合って笑う仲良し夫婦。







「お願いだから、ちゃんと座って頂戴」

「ここが良いのです」


馬車の中で性懲りも無く床部分に座っているのである。イライラとしながらこめかみを揉んで、溜め息を溢す。端から見たら私が虐めているように見られるのだから始末が悪い。


それに足の置き場に困るのだ。

何度も話しているのに全く聞き入れる様子も無い。


腹が立った勢いのままに顎を掴んで上向かせる。


「ねぇ、ご主人様の言う事は聞かないといけないんじゃないかしら?」

「ぁ...ぅ。ふぁい」


うっとりとした表情で返事をする。


「ちゃんと座りなさい。私の足の置き場に困るのよ? 理解出来たの? 早く退いて」


パッと手を離せば素直に腰掛けモジモジと手を動かしてチラチラと此方を見てくる呪いの人形。何を期待しているのか分からず視線を外して外を見る。


「ナナリー」

「何かしら」


素直に返事をして見つめる。


「あ、いや...結婚式の日程の事で」

「日程?」

「もう3ヶ月しか無いので招待状も送らなくてはなりませんよ? 送る相手は決めてありますか?」


え? 3ヶ月しかないの? 思考が停止する。いつそんな事を決めたか思い出せない。


「3ヶ月...」

「あぁ、ナナリーは食事に夢中でしたね」


大丈夫です私が着いていますから滞りなく進められますよと笑い掛けられる。


「あ、ありがとう」

「いえ、当然の事ですから」


何と言う事、まるで食いしん坊だわ。恥ずかしさも込み上げてきた。


「招待する相手の事だけど少なくて良いと思うの」

「何故です? 辺境伯の結婚式ですよ?」


少ない方が負担も少ないのに、何がいけないのか。


「少ない方が準備も楽よ?」

「ナナリー、国の防衛の要と言って差し支えない人の結婚式が小さな物に出来ると思いますか?」


要、そんなに重要な立ち位置だったかしら? と首を傾げる。


「陛下から援助の申出もある位ですから」

「え? 陛下? 王様から...」

「知りませんでしたか」


知らなかった。知っていたら、もっと準備に取り掛かる事も積極的にしていただろう。


「実は私の方でドレスも作っています」

「また、手作り?」

「えぇ、勿論です。と言いたい所ですが、ご両親が選んだデザイナーと話し合いながら進めています」


ガタンと少し揺れたかと思うと御者に声を掛けられる。


「ナナリーの嬢ちゃん着きましたぜ」

「ありがとう」


ササッと動いたケインに手を差し出され馬車を降りた。


結婚式の事が頭の中をグルグル回って上の空である。


「ナナリー?」

「あ、何かしら?」

「ご両親に呼ばれたので行きますね」


いつの間に自室に居たのかと驚きつつ見送った。




部屋の前に着いた瞬間扉が開けられノックしようとした手は浮いたままである。


「婿殿良く来た!」

「どうかされましたか」


中に引っ張られソファに座る。


「貴方、手紙見せないと」

「お! そうだな、そうしないとな」


これ何だがと差し出された手紙に目を通す。あの時のもやし男の家門からだ。


「賠償についても書いてありますね」


親は馬鹿じゃなかったという事だろう。


「イシャヨム家から賠償金を頂くというのが双方にとっても妥当な所でしょうが」


賠償金の額をどうするかが問題である。法外な金額を請求してしまい話を聞いた他の貴族から要らぬ反感を買うかもしれない。


「あ! 結婚式に掛かる費用を少し負担して頂くのはどうでしょう」


あちらからすれば辺境伯を軽んじている訳ではないのだとアピールにもなるし、費用が減るなら此方としても有り難い。陛下からの援助もあるがそれでも少しでも負担を減らしておきたいのだ。


「ほほう、そうしようか!」

「あっという間に解決しましたね、貴方」

「いやぁ相談して良かったな」


またニコニコと見つめ合う仲良し夫婦であった。


将来的には女王様と、こんな風に仲良し夫婦になりたい。そして叶うなら痛めつけて貰う毎日が良い。ピンヒールで踏んで貰い蔑んで欲しいのだ。それから憧れのムチを私に振るって欲しい。

どんな気分だろうか。今からでも遅くない。私が作ってしまおうか。


「婿殿? 大丈夫か?」

「え?」

「涎が...」


私とした事が妄想に夢中になっていたらしい。慌ててハンカチで拭く。


「お腹が空いてるのね」

「いえ、これは...戻りますね」


そそくさと部屋を出て女王様の元へと急ぐ。羞恥心から顔も赤い。


ノックをすれば愛おしい声が聞こえてきて、それだけで気持ちが穏やかになった。ゆっくりと扉を開けると飛びつかれる。


「ナナリー!」


もはや天にも昇る気持ちである。ついに女王様から、こんな熱い気持ちを貰えるなんて。


「招待状書くの手伝って!」

「あ...そういう...」


気持ちは沈んだものの、こんな至近距離に飛び込んでくれる程には精神的な距離も縮まっているのだろうと1人解決する。


「私は待てる男ですから」

「何を待つの?」


女王様の気持ちが私と同じになる事は無いでしょうが。せめて触れ合いたいと思う程にはなると希望的観測をしているのです。


「此方の話ですよ」

「そう? よく分からないけど良いわ」


早く書いちゃいましょうと手を引っ張り座らせる。


「さぁ! やるわよ!」

「2人の共同作業ですね、感激です」


ピシリと固まりケインを見つめる。何かと柔らかく笑い掛けてくる呪いの人形。


「一々、そういうのいらないのよ?」

「私が1人で勝手に話してるだけですよ。意識して下さったんですか?」

「な! 別に!」


ふむと手元に視線を落として振り分けられた家門を確認しつつ書いていく。


「ケインは字も綺麗なのね...」

「褒めて頂けるとは...ありがとうございます。ナナリーの文字は優美ですね」

「あ、ありがと」


何とも言えない気持ちになり手元に集中する。


カリカリと文字を書く音だけが部屋を支配していた。2人共、書く事に集中して早く招待状を終わらせようと頑張っている。


バターンと扉が勢い良く開く。ノック無し父だ。


「ご飯の時間だぞーーー」

「あ、もうそんな時間ですか」

「一旦休憩としましょうか」


まだ招待状を書いていたい気持ちもあるが、気分転換にも良いだろうと席を立つ。




「イシャヨム家?」

「覚えていませんか? 無礼にもナナリーに言い寄った挙句、戦いを挑まれた男ですよ」

「あ! あのモヤシね」


美味しくなった食事に気分は上がったままに会話を楽しむ。それにしても、随分と昔の出来事の様に思える。あの、もやし男がちょっかいを掛けて来なければケインとの結婚も無かったのだろうか。

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