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「それにしても騎士を貸し出して居た事、ケインが気付いてくれて良かったわ」

「いえ、きっと皆さん忙しさの余りに忘れていただけですよ」


鼻をハンカチで押さえながら会話をする。端から見ると何とも間抜けだ。狭い床に向かい合っている為に距離も近い。


何故パーティーに公爵家から呼ばれたのか皆目検討がついていなかったのだが、ケインも理由探しに参加した所あっという間に書類を見つけ出したのである。十数名の騎士を、しかも年単位で貸し出していたのだ。

すっかり忘れていたと父は、やはり豪快に笑っていた。


ガタンと大きく揺れて馬車が止まる。


「お嬢! 着きましたぜ」

「分かったわ、ありがとう」


鼻血は止まったかしら? と手をゆっくり離す。


「良かった、大丈夫そうね」


サッと立ち上がると誰の手も借りず下りてしまう。エスコートしたかったのにと歯噛みするのはケインだ。


いつもの宿ではない。真っ白の壁に鮮やかな赤い扉が目立つ。


「私が懇意にしている宿です」

「へー、綺麗な所ね」


接客のレベルも高いですよとエスコートを受ける。歩き易い様に、さり気なく腰に腕を回され足の痛みもあまり感じずに歩けた。細身に見えるのに腕力もある。


「これはこれは、ご婚約おめでとうございます」


宿屋の主人が奥から出て来て歓迎してくれる。


「彼女は足を痛めていてね。話はまた今度にして貰うよ」

「はい、直ぐにご案内致します」


一階の近い部屋に案内して貰えてソファに沈み込んだ。


「ケイン、ありがとう。貴方のお陰で歩きやすかったわ」


感激しているのか目を見開いて破顔する。徐に跪かれ、また足のマッサージをし始めた。


「もう良いわよ」

「そういう訳には行きません。しっかりと解します」


そう、本を正せばケインが是非とも履いて欲しいと準備した靴が原因なのである。責任を感じているのだ。願わくば、いつの日か踏んで欲しいと思って準備した物で後ろめたさもある。


しかし、其処は変態だ。マッサージしているだけなのに気持ちが昂ってくる。


はぁはぁと呼吸を乱し始めたケインに肌が粟立つ。


「もう良いから離しなさい!」


一喝されて渋々ながら離れるケイン。恨めしそうに足を見つめられ戦慄する。


「ねぇ、何か軽く食べたいわ」


パッと顔を輝かせて立ち上がる。


「私にお任せ下さい」


意気揚々と出て行った背中を見送り深く息を吐き出した。


「全く、疲れるわ。何なのかしら、犬みたいで可愛くもあるけど」


少しだけ鬱陶しい。でも今日は本当に助かった。あの見かけによらず逞しい腕にリードされてダンスも失敗せずにすんだし、痛み始めた足に気付いてさり気なく支えてもくれたのだ。


「性癖だけがネックだわ」


はぁとまた息を吐き出す。見た目は完璧、仕事も出来る有能なケイン。何故、痛めつけられると興奮する変態なのか。実に勿体ない。

行動だって紳士的だ。


「嘆いた所で何も変わらないわ」


そう、どうにもならない。ケインが変態なのは紛れもない事実で、人の性格は簡単に変えられる物ではないのだ。 





「あぁクロワッサンの作り方教えて頂いて正解でした」


勝手にキッチンに入り込みクロワッサンを作るケイン。


「え?...あ、あのお客様?」

「お気になさらず」


大いに気になる。見た目、王子様がズンズン中に入ってきて勝手に料理を始めたのだ。気にならない方がおかしいだろう。


「白パンはありますか?」

「え? ありますけど...」

「下さい」


「あ、はい」


差し出されたパンを受け取ると半分に切って生ハムやレタスなどを挟んでいく。


「小腹が空いたのでしょうから、これ位で良いですかね」

「あ、あの! この生地は」

「休ませる必要があるので置いといて下さい」


ポカンとした料理人は放っておいて急いで女王様の元へと戻る。


「ナナリー? 入りますよ」


返事が無いが、ゆっくり開けて中に入った。

スヤスヤと気持ち良さそうに寝ている。


「何て、可愛らしい寝顔なんだ」


うっとりと時間も忘れて見入る。


「ドレスのままだと苦しそうですね」


脱がせた方が良いだろう。しかし、まだ婚約式も挙げていないのに私がやってしまって良いものか。


ソワソワと落ち着かなくなってしまう。持ってきたサンドイッチを一旦置いた。深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着かせる。


「これはナナリーの為です」


そう、決して寝ているのを良い事に裸を見ようなどと、そんな不埒な気持ちは抱いてはいない。きっと。多分。


「それにしても本当に美しい」


そっと背中に手を回して紐を緩めた。何とも言えない気持ちで羞恥から顔は真っ赤である。


「ん...え? ちょっと!」


バチーンとビンタを喰らって尻もちをつく。


「貴方ねぇ、何てこと...」

「ドレスのままだと苦しそうで」


白い頬が赤くなり痛々しい。ナナリーはばつが悪くなり俯く。


「ナナリー?」

「...何かしら」

「もう1回良いですか?」


ゆるゆると視線を上げれば、嬉しそうにニヤつくケインが見えた。罪悪感を感じてしまった自分が恥ずかしい。


「あ、サンドイッチ持ってきましたよ」


どうぞと差し出され受け取る。


「あ、ありがとう」


何とも釈然としない気持ちのままにサンドイッチを食べる。


「美味しいわ」

「私が作りました。明日はクロワッサンが食べられますよ」


得意気に笑うケインに、つられて笑顔になるナナリー。


「本当に? 楽しみだわ」

「今日はもう休んだ方が良いですよ」


サンドイッチを頬張りつつコクコク頷く。


「ドレスは1人で脱げますか?」


背中側は紐で編み上げられていて煽情的なデザインになっており着るのも脱ぐのも面倒なのだ。


「紐だけ私が解いて差し上げます。ご安心下さい。何もしません」


神に誓うポーズで笑ってみせるケイン。


「大げさだわ。でも、そうね。お願いするわね」


本よりナナリーは脱いだ所で下着姿になるだけで裸を見られる訳じゃないと軽く考えているのだ。


ケインはといえばバクバクと心臓は早鐘を打ち、手はカタカタと震えが止まらない。顔は真っ赤である。ふうふうと息も荒い。


「大丈夫? 出来るの?」

「お任せ下さい」


震える手で編み上げられた紐をハラリと解き、布自体を少しずつ痛めない様に優しく引っ張り広げる。


呼吸が楽になり息をつくナナリー。


「ありがとう楽になったわ」

「は、はい...」


最早、茹でダコ状態のケインは直ぐに離れ深呼吸を繰り返した。


「もう少し手伝って欲しいのだけど...」


ケインが居た場所を振り返ると離れた所で一生懸命に深呼吸を繰り返す様子が目に入る。失念していた。着替えを見るのは恥ずかしがっていたなと思い出す。


いずれは直接、肌に触れる行為だってしなければならないというのに。ここまで免疫がないのもどうなのだろう。

エスコートの仕方を見ても決して慣れてないものではないし、気の遣い方にも女性への慣れが見える。

直接的な物が苦手なのか。


「ナ、ナナリー?」

「...え? あ、何かしら?」

「私は少し出ているので、その間に着替えて下さい」


スッと差し出された手触りの良いワンピース。


「ありがとう」


小走りで出て行ったケインを見送りワンピースに視線を落とす。

白い布地にウエスト周りは赤くポイントになっている。シンプルだが良く見れば白い花の刺繍が入っていた。


「素敵」



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