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「おはようございます」


良く通る声に意識が覚醒し目を開ければ。


「ひっ」


至近距離の顔に驚き、また手が出てしまった。バクバクと、まだ煩い胸に手を当てて深呼吸を繰り返す。


「寿命が縮むわね」


倒れ込んだ変態の様子を伺い見ると、やはり嬉しそうにニヤついていた。


「ちょっと! 良い加減にしなさい。どうして、こんな近くに居たのよ」

「ごしゅ...ナナリーを見ていたくて」


へへへと頭を掻いて反省の色は見られない。腹立たしい変態である。


「全く何て人なの」


朝から精神的な疲労を感じるとは。

支度をする為に着替えようとしていると。


「ナ、ナ、ナナリー!」

「何かしら」

「私が居ますから」


顔を真っ赤にして慌てるケイン。


「どうせ結婚したら嫌でも見るのよ? 別に構わないわ」


それに裸になる訳じゃないし同じ室内で着替えたのも初めてではない何をそんなに恥ずかしがる必要があるのかと不思議に思う。それから反応が可愛い。これ見よがしに羽織っていた物を1枚脱ぎ捨てる。


「出ておきます」


クルリと背を向けて直ぐに出て行ったケイン。やたらと近くに来るのは平気な癖に、変態の気持ちは理解出来ない。耳まで赤くなっていて、やはり可愛いかった。


「フン...ケインの癖に」


意外と初心なのかしら。あの見た目と距離感から、経験も多いのかと思っていたけど。


いつも通りの楽な服に着替えて扉を開ける。


「終わったわよ」

「はい」

「どうして距離を詰めるのは平気なの?」


「分かりません」


まだ少し赤い顔のケイン。


「前は平気だったじゃない」

「着替えている時は背を向けていましたよ」

「そうだったのね」


「私はドレス造りがあるので」

「ジャーキーはどうするの?」

「あ...そうでした」


頭の中はナナリーのドレスの事で一杯で、すっかり忘れていた。


「早い内にやっておきたいですね」

「私も行くわ」

「ご飯を食べてしまいましょう」


やはり食卓に野菜が並ぶと彩りが良い。サラダを食べては野菜、最高だわと感動するナナリー。今日はベーコンエッグに柔らかな白パン加えてサラダである。

健康的だしベーコンエッグ何て初めて食卓に並んだ気がする。


「婿殿がやって来てくれて良かったよ」

「本当に。こんなに、ご飯が美味しくなるなんてね」

「いやぁ私を受け入れて貰った恩を返しているだけですから」


変態の癖に爽やか好青年に見える所にナナリーは苛立ってしまう。スッと視線を外して朝食に集中する事にした。

本当に美味しい。濃い味付けの固い肉料理から脱する事が出来るとは、これに関しては本当に有り難い。ケインが来てくれて良かったと心から思える。


「お口に合った様で何よりです」


急に声を掛けられ視線を上げれば蕩ける様な微笑みを浮かべていた。ドキリと胸が高鳴る。ケインの癖に。


「とても美味しいわ。有難う」





食事を終えてジャーキー製造所に向かう。


「貴方ねぇ、何度言ったら理解出来るの? 距離が近いわ」

「すみません」


性懲りもなく歩きずらい程に距離を詰められ食事の際に感じていた感謝の気持ち等吹っ飛んでしまった。


「ナナリー? 名前で呼んで下さい」

「...ケイン」

「はい」


嬉しそうに頬を染め、また距離を詰められる。


「ねぇ、頭大丈夫? 蛆でも湧いてるの? 近いって何度言ったら理解出来るの? それとも私に対する嫌がらせなのかしら。大した者ね」


グッと顔を掴んで強制的に距離を取る。恍惚とした表情を浮かべるケイン。


「ごしゅ...ナナリー。すみません。どうしても体が勝手に側に寄ってしまうのです」


製造所が見えてきた。中からマッチョが出て来て走ってくる。


「おはようっす。朝から仲良しっすね」

「...おはよう」

「おはようございます」


昨日冷蔵装置に入れておいた肉を取り出しオーブンに入れる。


少しすると香ばしい美味しそうな香りがしてきた。


「旨そうっす」


出来上がった物を取り出す。粗熱を取る為に置いておくとマッチョが食べようと手を伸ばす。


「こら!」


ピシリと扇子で女王様に手を叩かれたマッチョ。羨ましい。

チラチラと視線を送りながらケインも手を伸ばす。


「全く貴方は...」


同様にピシリと扇子で叩かれる。


へニャリと顔を緩ませ嬉しそうだ。





「これが出来上がったジャーキーです。本当は外に出して干した方が良いのですが、まだ暖かい為に冷蔵装置に入れて置きました」


差し出されたジャーキーは美味しかった。しかも食べやすい。これなら子供や年配の方でも食べられそうだ。


「凄いわね。美味しいわ。良くやったわねケイン」

「はい」


モジモジと手を動かして恥ずかしそうだ。


「めちゃくちゃ旨いっす! お婿様は凄いっすね!」


頬張るマッチョは元気一杯だ。作り方を一生懸命メモしていたし真面目なマッチョでもある。


「作り方も簡単ですから大丈夫そうですね」

「そうね、帰りましょうか」


2人並んで屋敷へと戻る。


「ナナリー」

「何かしら」

「ドレスを作るのに使う布なんですが」


自分の商会から取り寄せた物を使いたいらしい。その為に少し領地から出るという話だ。


「私は別に構わないわよ?」

「1日で戻ります。必ず」


屋敷に戻ると、あっという間に準備を終わらせてしまった。


「では行って参ります」


手にキスを落として出て行くケイン。



ナナリーはパンツスタイルに着替えると森へ向かった。

久しぶりに全力で動き回る。


「デカイだけの犬が! 跪きなさい」


キラキラと目を輝かせて魔物と戦うナナリーは正に女神の様に美しい。

雷を落とし追い詰め氷の刃を大量に打ち込む。


「もう終わり? 呆気ないわね」


こうして森の中の魔物の数を減らしておかないと、食べ物を求めて人の居る所へと入って来てしまうのだ。


「随分と大きな蛇ね」


頭を持ち上げユラユラと揺れる巨大な蛇。とてもカラフルだ。

シャーッと口を開けて向かって来る。


「楽勝」


剣を抜き電気を纏わせて斬り付けた。痛みからか、のた打ち回る蛇。


「痛いのね。良い気味だわ」


笑いながら手を休ませる事無く何度も斬り付ける。肉が焼ける様な匂いが広がっていく。


散々痛ぶられ動かなくなった大きな蛇。運ぼうとして抱えてみたものの重すぎて動かせない。

段々と暗くなって来ている。今日はもう良いかと大きな犬だけを荷車に乗せ引いて行く。


「お嬢! 大物ですね」

「凄いでしょ」


フフンと胸を張って見せた。


「ジャーキーが楽しみですな」

「楽しみにしてて」


ジャーキー製造所に着くと大きな犬を下ろし声を掛ける。


「また獲ってきたわよー」


中からマッチョが飛び出して来た。


「お嬢! うわぁデカイっすね」

「そうでしょ? でも弱かったわ」


じゃあ、後宜しくと屋敷に戻る。


「狩りに出てたのか」

「はい、そろそろ動きたくなりまして」

「そうかそうか、それでこそ私の娘だ」


ガッハッハと豪快に笑う父。


「あれ? 婿殿はどうした?」

「あぁ、私のドレスを造るために布を取りに出ています」

「え? 手造り?」


「はい、そのようです」

「婿殿は凄いな」


感心した様に何度も頷く。


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