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いざ! 婿取り

「頼んだわよ。そのナイスバディと美しい顔を使って何としても有能な人材を捕まえてきて頂戴」

「はい、お母様」


力強く頷いてみせるナナリー。父に肩に手を置かれ振り向く。


「すまないな、私達に全く領地経営の才が無くて」


お前に苦労をかける。と泣きそうに顔を歪ませていた。


「お父様? 決して領民を飢えさせる事は無かったではありませんか」


確かに三食全てが魔物ジャーキーになってしまう時期もあるのだが、それでも栄養価が高いし顎も強くなるというメリットだってあるのだ。それに食べ物があるだけマシなのである。食べる物も無く飢える領地だってある中で上手くやっていると思う。

他の領地の盗賊退治だとか魔物退治とかで現金を手に入れて何とか凌いでいる状況なのだ。

食料に関しては無いだと? 魔物なら沢山居る! コイツを食べようとジャーキーにして領地内で配る事でギリギリ保ってきたのである。

とてつもなく固いが幼い頃から、この固さに慣れている領民達なら食べられるのだ。


「私達のどちらかの頭が良ければ」


ため息を溢して落ち込む2人に慌てる。率先して狩りに出たり先陣をきって悪い奴等をやっつけたりと2人の活躍があってこそ、やってこられたというのに。


「今度こそは! 優秀な方を私が捕まえて来ます!」


安心して下さいと笑って見せた。

馬車に乗り込み屋敷を出発すると領民達から熱い声援を掛けられ見送られる。


「お嬢! 良い男捕まえて来てくだせぇ」

「男共何てお嬢の美貌でノックアウトですよー」

「めっちゃ良い男、期待してますぜ」


「しっかり頑張らないといけないわね」


手を振りながら1つ気合いを入れた。





「悪女? 上等じゃないの」


ハッと笑って表面上は気弱そうな令嬢を睨みつける。


「そうやって男に守られる事しか出来ない貴女より、よっぽど良いわ。そもそも貴女から仕掛けてきた事でしょ? 頭、大丈夫?」


ちゃんと脳みそ詰まってるの? と馬鹿にした。


「おい! 何だ、その言い方は!」

「言い方? 元々こういう話し方ですが? それに貴方は分かっているでしょ。私がどんな人か」


下から睨み付けるように首を傾げて見せる。ビクリと肩を震わせる様子に苦笑した。仮にも令嬢を守る為に出てきたのではないのか。


「情けない」


思わず溢れてしまった悪口を聞いていた1人の見物人が笑った。


「やめて! どうして意地悪な事をするの!」

「意地悪? 突っ掛かってきたのは貴女じゃない? 何度も言うけど頭、大丈夫かしら?」


初めに私が着ているドレスを派手すぎると騒ぎ立て、もっと清楚な物を着てくるべきだと何度もしつこく、それはもうしつこく言ってきたのだ。鬱陶しい事この上ない。

言う程、派手な訳じゃないし。元々、顔の造りがキツイ為に何を着ても目立つのだ。仕方ないだろう。


「貴方達の相手をしている時間が勿体無いわ。何処かに行ってくれないかしら」


今日も、お婿様になってくれる人を探しにきたのだ。本当に時間が勿体無い。どうして幼なじみの、ひ弱男にまで絡まれ無くてはいけないのか。あまつさえ頭の可哀想な女とのセットである。


あー出来たら見た目が整っていて性格が優しく領地経営の能力が高い人が良い。高望みなのは承知の上である。


「貴女ね! 少しは周りに合わせる努力をしたらどうなの!」

「合わせる? 何を?」

「そんな厭らしいドレス着てくるべきじゃないわ!」


胸が大きいだけなのだ。むしろ詰まった造りで胸元は開いていない。このドレスは私が脱げば、とても貞淑な雰囲気になるのだ。


「あらまぁ、御自分の身体が貧相なだけでしょう? 妬ましいのは分かるけど自重して頂けるかしら?」

「べ、別に羨ましいとか思ってないわ!」


へー、そう? と身体を見ながら相槌を打つ。また1人の見物人が笑った。


「私は一目見た時から好きじゃなかったわ。こんなキツイ顔の怖い女、誰も好きになんてならないわよ!」

「貴女に好かれたいと思ってないし別に構わないわよ?」


軽く肩を竦めて見せる。


「本当に憎たらしいわね」

「嫌いなら関わらないで下さる? 時間が勿体無いのよね」


私は早く脳筋で溢れかえっている領地を何とかしなければならないのだ。


「レディ、1曲私と踊る名誉を頂けますか?」


爽やかな青年が近付き手を差し出す。かなり好みだ。細身に見えるが近付くと筋肉がついている事が分かる。嬉しくなって素直に応じた。


「喜んで」

「ちょっと! 待ちなさい。まだ終わってないわ!」

「嫉妬に狂う女は見苦しいですよ。レディの言う通り自重するべきだ」


侮蔑の視線を受け押し黙る様子に少しだけ溜飲が下がる。


「貴女のドレスは素敵ですよ。全く厭らしいデザインではありません」

「そうですよね」

「頭がおかしい女に絡まれて災難でしたね」

「本当に」


はぁと疲れからの、ため息を溢す。


「もしやニコン家のご令嬢ですか?」

「あら! ご存知で?」

「有名な辺境伯ですからね。それに本日のパーティーにいらっしゃると聞いておりましたから」


ご存知ですか? 貴女の姿絵は人気ですよ。と笑い掛けられ驚く。


「姿絵?」

「はい、多分お父君のおかげかと」


そういえば数カ月前に1度頼まれて描いたなと思い出す。


「父が何かしたのですか?」

「行く場所、行く場所で小さなサイズの物を配り歩いていましたよ」

「え!」


何をしてくれているのだ。何故? 配り歩く必要が?


「何でも優秀な結婚相手が必要だとか?」


恥ずかしい! しかし、そうか父なりに頑張っていたのだろう。


「えぇ、そうなんですの」


羞恥から顔を覆ってしまいたかったが表面上は苦笑するだけに留めた。


「それで、1つ提案をしたく」

「はい、何でしょう?」

「私は、どうでしょうか」


驚いて顔をまじまじと見つめる。


「しがない子爵家ではありますが、計算等は得意な方です。1つ商会も持っております」


如何ですかと微笑まれた。


「あ、えー、テラスで話しませんか?」


ちょうど曲も終わったので、そのままテラスに向かう。


「レディ? 私との婚約、前向きに検討して頂きたい」

「そうですね」


まず見た目がタイプである。それに話していた事を信じるならば有能そうだ。申し分ない。

しかし、早まってはいけない。確認しなくては。


「あの...」

「あ、名前ですね。これは失礼を。はやる気持ちを抑えられず失念しておりました」


ウメオド家のケインと申しますと貴族の礼を取られた。名前も大事だが、確認したいのはそこではない。聞きずらいが致し方ない。


「あの、その。私に罵られたいとか、踏まれたいとか思いますか?」


そうなのだ。今まで寄ってきた男共は総じてドMだったのである。この見た目のせいだろうとは思っているが。


「え? 罵られたい?」

「あ、すみません! 驚きますよね? 今まで寄って来た方々が、そういう性癖の持ち主で」


背中に汗を流しながら説明する。しかし、この反応を見るに普通そうだわと安堵した。


「そうでしたか。どちらかというと私は縛られた上で痛めつけて頂きたいです」


ニコッじゃねーのよ。この人もか。大変な裏切りである。見た目かなりのタイプで有能そうだし先程の態度で大いに期待してしまったのだ。

酷い、神様なんていないのねと悲しくなる。


「1度、打って頂けませんか?」


キラキラと目を輝かせて此方を見つめてくる。


「私そういう趣味はありませんの」


ごめん遊ばせと、その場を後にしようと踵を返す。

ガシッと腕を捕まれ相手を見る。


「お願い致します。そういう事が嫌いなのであれば我慢しますから」


目を潤ませて懇願する様子を見て、あら可愛いじゃないと思ってしまった。


「決して損はさせません。嫌だと思う事はしなくて結構です。自分で言うのも何ですが本当に有能ですよ」


手の甲におでこを押し付けたまま何度もお願いしますと頼み込まれる。

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