七夕の夜
七月七日。私は久しぶりに地元に帰ってきた。家に帰ると外で家庭菜園をしている母が話しかけてきた。
「あら、おかえり。早かったのね」
「ん、、」
「ちょっと、久しぶりに帰ってきたからって照れてるのかしら〜?ふふ」
久しぶりの再会に喜ぶ母を無視して私は階段を登っていく。
「あ!そう、そう!最近ここら辺で不審者情報が出てるから部屋の鍵ちゃんと絞めとくのよ〜いいわね!」
そんな母の声を遮るかのように私は扉を強く閉めた。
部屋に入るなり、荷物を入り口に置く。久しぶりの自分の部屋は物置のようになっていてベッドも椅子もなかったので窓辺に腰掛け、ボーッと外を眺めていた。
何時間経ったのだろうか、気がつくと外の日は落ち、いつの間にか眠っていた私は、部屋の中も暗くなっていたので明かりをつけようと立ち上がる。入口の方へ歩くと足に何か硬いものが当たり強い衝撃が走った。
「イッタ!なに!?え?ラジオ?なんでこんなところにあんのよ!もう!」
部屋の明かりをつけ、ラジオを持って窓辺に腰掛けるとおもむろにラジオをいじったが動く気配はなかった。
当たり前だ、何せこのラジオは彼女が高校受験の時の相棒でもう何年と動かしてないのだから。もう電池が切れたんだろうとラジオを置き、目を外に向けると。
「ザ、ザザザザー」
いきなり音がしたラジオに驚いた彼女は少し後退りしながらもラジオから喋り声が聞こえたので耳をかたむける。
「ザザ、、そうそう、みなさんご存知ですか?今日はなんと七夕、年に一度織姫と彦星様が天の川を渡って会う日です!この七夕は雨が降っていたり、曇っていると天の川の水かさが増え会うことができなくなってしまうのです!そして、今夜の天気は晴れ!これはここ10年ぶりの天気なのです!みなさんも今日短冊に願い事を掛ければ願うかもしれませんよ〜是非お試しください!、、それではご無事で!」
ラジオからは陽気な男の人の声が聞こえた。
「?ご無事で?変なラジオ。、、、七夕か、、」
彼女は近くにあった紙でてるてる坊主を作り、窓に吊るしてまた窓辺で寝てしまった。
「、、、、、ウウ、、オ、、、オマエ、、、」
「ん?」
何んだろう、なんか重いし、息ができない。苦しい、、、、
彼女はなんとか重い瞼を開け、周りの状況を確認した。暗くてよく見えなかったが誰かが上にまたがって自分の首を絞めている。
金縛り?嘘でしょ、こんな時ってどうすればいいんだっけ?だめだ、苦しいし体も動かせない。でもなんとかしないと、このままじゃまずい。
「だ、、だ、誰?」
振り絞るように出した声、それに応えるようかのように雲の隙間から差す月明かりがその正体を照らした。
ふわふわした薄い衣を纏い、肩には空中を羽根のように舞うストールをかけてる女が馬乗りになっていた。女は怒りと悲しみが込められた表情で彼女を睨んでいた。
その顔を見て怖くなった彼女は助けを呼ぼうと唯一動く目で周りを見る、すると窓から外の様子が窺えた。
ん?なんか雨降ってない?なんで、今日は晴れだってラジオで言ってたのに。
視線を少しずらすと窓に吊るしておいたてるてる坊主が逆さまになっていた。
なんで、てるてる坊主が逆さまになってるの?私は普通に吊るしたはずなのに、、
もう、考えても仕方がない!それよりも今はこの状況をどうにかしないと。
誰か!お母さん!助けて!
と心の中で助けを呼ぶと。
ガシャーン!
その時、誰も手に触れていないのにラジオがバラバラになっていた。
すると女の手が少し緩んだ。その隙に彼女はすり抜けるように窓際の壁に逃げる。
「ゴホゴッホ!、、ハーハー、、あんたなんなのよ!」
首をさすりながら女と対面した彼女はその時、しっかりと女の姿を捉えた。
よく見ると昔、絵本で見た七夕のお話の織姫のような姿をした女が体をユラユラと左右前後に動かしながら入り口で粉々になったラジオを両手で掬い取り、何かボソボソとラジオに向かって言っていた。
「、、オ、、、オマエジャ、、、ナイ、、、」
そう言い残すと女の姿は消えた。
一体何がおっこたのか分からなかった彼女は恐る恐る女が立っていた扉の方に向かい部屋を出ようとドアノブに手を伸ばすと先に扉が開いた。
「お母さん!」
母親に助けを求めるように飛びつく。
!!!!
ドサッ、、
急に倒れる女性。
「ハーッハーッ、、いきなり来るんじゃねえよ、、」
そこには刃物を持った血まみれの男が立っていた。男が部屋に入る。
すると、いきなり部屋の電気が消えた。
「!?なっ!、、なんだ!?」
背中がヒヤリとする感覚を覚え、振り返ると誰もいない、気のせいかと安堵するのも束の間。
「オマエカーーー!」
「わああああああああああ!」
その後、廊下で重そうなものを引きずる音が聞こえた。