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ファンタジー柔道『ヤワラミチ』  作者: サンシロウ
青桐龍夜編
3/61

7人の超越者

「青山のおっちゃん!! 早く早くっ!!」


 甥に引きずられるようにして日本武道館へと辿り着いた青山達。

 2階の観客席から中央の試合会場を眺める3人。

 既に武道館では開会式が終了しており、選手達が雄叫びを上げながら相手に挑みかかっているのが見える。


「……ここに来るのも久々だな」


「久々……飛鳥さんは昔、監督などをされていたのですか?」


「ん? あー……ちょっとオリンピックに出ただけなんで」


「へー……オリンピック……オリンピック!?」


「そんなに驚かないで……昔から周囲(パンピー)の罵声が酷くてねぇ~……それを聞いている内に、柔道への熱がなくなっちゃったんだよね。それに比例して表舞台(おうごんきょう)から離れていったんだよ。あんな感じの罵声が無ければねぇ……」


「いけいけ!! ……何やってんだよっ!! おい聞いてんのか!?」


「そんな雑魚(いしころ)早く投げろや!! どこ掴んでんだよっ!! 馬鹿(パー)かお前っ!!」


「あー……なるほど……」


「勝てば学校の名を広めることが出来るし、補助金も沢山貰えるからね。柔皇が残した教育プログラムのおかげで。最近はそれ目当てで勝つ手段を選ばなくなってきたりしてるし……人体実験のニュースって知ってるかい?」


「はい、以前ニュースで拝見しました」


「子供が白熱する分にはまだ可愛げがあっていいんだけどさ……周囲の大人達の方が白熱してさ……正直見るに堪えないよね」


「ごもっともですね……」


「翼君だったかな? 彼には柔道を嫌いにならないで欲しいよ。こんな罵倒(ざつおん)に負けずにさ」


「……」


「アレ? おっちゃんにおじさん、そんな所で何してんのさ!! 蒼海の人達の試合が始まっちゃうよ、急いでっ!!」


「分かったから翼……ちょっと待ってな!!」


「はーい」


「お子さんはもう小学校に入学されたのですか?」


「いえ、入学は来年ですね」


「そう……なら柔英書房が発行する本もまだって感じかな?」


「そうですねぇ……」


「いい機会だし、今日ちょっとだけ教えてあげよっか。翼君、ちょっといいかな」


「な~に~おじさん?」


柔皇(じゅうおう)西郷三四郎(さいごうさんしろう)って人の事は知ってるかい?」


「うん、昔いた滅茶苦茶強い人(さいきょう)でしょ? 知ってるよー」


「彼が開発した100の技についても」


「うん、ぶっ飛んだ(すげー)技でどれも強力なんだよね!! 小学校に入学したら僕も学べるんでしょ」


「おーよく知ってるね」


「……おい翼、お前なんでそこまで知ってんだ?」


「え~? おっちゃんの机にあった教科書をを盗み見したからだよ~」


「……は?」


「はっはっは!! 中々行動力がある(やんちゃ)じゃないか!! ……どうしようか、()()について話すと長くなりそうだし……」


「え? 属性? それは知らないよ!! ちょっと教えてよ~」


「……翼、蒼海の選手の試合が始まるぞ」


「うわ本当だ!! 属性……?ってのは今度ね今度!!」


 興味をそそられるワードに心が揺れ動くも、今はそれ以上に関心のあるものに目を移す。

 青龍と呼ばれる男、青桐龍夜の試合である。


ー------------------------------


 審判の合図によって、白いテープの前まで歩みを進める青桐。

 相手は福岡でも戦ったことのある選手であり、青桐程の実力者なら一切苦戦することはないだろ。

 いつもは委縮して浮かない顔をしていた相手選手。

 だが今回は少し様子が違う。

 時折不敵な笑みを浮かべており、以前までの自信の無さが見られない。


「へっへっへ……!!」


「……」


(なんだアイツ……ヘラヘラしやがって……何か策でもあんのか?)


 全身の細胞が引き締められる。

 心臓の鼓動がいつもより早い。

 審判の右腕が振り下ろされると同時に、試合の開始が告げられる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 高校生ランク3位「青桐龍夜(あおぎりりゅうや)

      VS

 高校生ランク5273位「鎌瀬犬田(かませけんた)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


開始(はじめ)っ!!」


「こぉ"ぉ"ぉ"ぉ"い!!」


「しゃぁ"あ"!! ……あ"ぁ"!?」


 青桐は目を疑う。

 彼と戦ったのは1か月前。

 手始めにと言わんばかりに、以前の彼では使用できなかった()()()()を繰り出してくる。

 自分の関節を外すことで、伸縮性抜群のゴムのように腕を一時的に伸ばす技。

 No.3―――


蝮組手(まむしくみて)ぇぇ!!」


鬱陶しい(うぜぇ)技を……!!」


 畳3枚分、3間程の長さまで伸びた右腕が、青桐の横襟を掴みにかかる。

 もちろんタダで組ませる青桐ではない。

 迫りくる腕をいなし続け、相手に有利な大勢を取らせようとしない。

 だが、右腕だけに飽き足らず左腕をも伸ばし始めた相手の猛攻に、じわりじわりと押され始める。


「はっ……!! はっ……!! はぁぁぁ!!」


(やべぇ……俺もしかして青桐に勝てるんじゃね!? ()()()()()()()()のアドバイス通りじゃねぇか……!! 俺、めっちゃ(えぐ)くなってんじゃん!!)


 以前までは歯牙にも掛からなかった自分が、将来有望な青桐を追い詰めている。

 その事実に、自然と笑みがこぼれてしまう。

 強さがもたらす極上の美酒に、酔いしれ溺れていく。

 思わず試合中に歯を見せる彼。

 そんな姿が、()()()()()()()()()()()を踏み抜いてしまう。


「……おい」


「あぁ!? んだよ何か―――」


「殺すぞテメェ……!!」


 混じり気のない殺意をぶつける青桐。

 直後に()()()()()()()()()()()と、右腕が縮むのに合わせて歩を前進させ加速していく。

 技の射程に入った青桐。

 左足を相手の右足の外側に踏み込み、組際に大きく右足を振り上げると、振り子のように敵の右足を刈り取る大外刈りを繰り出し、相手の状態を大きく崩す。


「お"ら"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


「ぐ……このが……っ!?」


(雲……? 不味い(やべぇ)っ!!)


 体を反らし、なんとか大勢を整えようとするも、彼の目には次の技の始動が目に入る。

 青桐の周囲に漂う白雲。

 大気中の水分から作り出した雲によって足の軌道を隠し、目視が困難な子外刈りを繰り出す。

 N0.14―――


八雲刈(やくもが)り……やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


 怒涛の追撃の最後の〆。

 柔皇の技の次に繰り出した技。

 右手で掴む横襟を手放し、左手を後方へ引きつけ、体を反時計回りに回転させ行う投げ技。

 彼が一番使ってきた技である一本背負いで、相手を畳へと投げ飛ばす。

 審判の右手が天へと上がり、青桐の勝利が告げられる。


「はぁー……踏み台野郎がよ……」


「ば、ばばばばかな……!? なんで、全然通じてねぇんだよっ!? なんで……()()()()()の奴らの助言(おしえ)を守って練習(トレ)ったのに!!」


「あぁ? ……黒い柔道着? なんだそ……」


 ぶつぶつと独り言を呟く彼が、意味深に発した言葉。

 ()()()()()を身に纏う集団が、日本武道館の天井を爆破させ、天から試合会場へと降り立つ。

 風塵に紛れて姿を現す7人の集団。

 ストレートの長髪は天色、青汁を飲む小柄な美男子。

 ボサボサの短髪は黄蘗色、穏和な怪物の如き大男。

 外は黒、インナーカラーは白緑色、黄色い歓声に答える優男。

 天然パーマ―は深紅色、その目は好戦的に燃える男。

 艶のある黒い長髪にメッシュの色は白藍色、男と女の2つの心を持つスラリとした長身の男。

 猛獣のような毛並みは伽羅色、異国の言葉と共に雄叫びを上げる精悍な大男。

 荒れ狂う毛は銀色、全てを束ねあげる最強の男。

 会場全ての視線を浴びる彼らは、各々言葉を発していく。


「ちゅー……脇役(いしころ)ばっかり」


「オデ、頑張ル!!」


「ふ~……モテ気到来だね✰」


「へっへっへ……柔道する(かます)っすよ、獅子皇(ししおう)さんっ!!」


「あらあら、血の気が盛んねぇ~男子ぃ~♡」


「BAHAHA!! いくぞ獅子皇っ!!」


「今宵、裏の住人(アウトロー)は表へ参った……貴様ら、ごきげんよう」

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