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新説 魯粛子敬伝 異伝  作者: 元精肉鮮魚店
第一章 雄飛の時を待つ
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第一話 魯家の狂児

この物語は三国志演義をベースに、独自解釈と特殊な設定を盛ったフィクションです。


登場人物は史実と大幅に異なるところがあります。




参考文献




陳舜臣監修 中国劇画三国志


日本文芸社 三国志新聞


Koei 三国志武将ファイル


Wikipedia




などを参考とさせていただいてます。




※更新は毎週金曜日を予定していますが、不定期になる恐れもあります。

「いやー、今日も良い天気じゃのー」


 少年は小舟の上で寝転がって、空を見上げて呟いていた。


「坊ちゃんは気楽なモンだなぁ」


 小舟を操る男は苦笑いしながら言う。


 とは言え、男はただの船頭ではないのは一目見てわかる。


 筋骨隆々の体格と、体中に付いた傷跡は歴戦の経験を物語っている。


「悪いのぉ、舟を出してもらって。あまりにも天気が良くて、ぜひ河に出たくなってのぅ」


「坊ちゃんだけだろうぜ、川遊びの為に河賊の頭領呼び出すのは」


「はっはっは! その呼び出しに応えてくれる頭領も親父殿だけじゃろうの」


 少年は高らかに笑う。


「まったく、魯家の坊ちゃんともあろうお人が河賊と付き合っていいのかい?」


「構わん、構わん。中原を見よ、親父殿。漢の世はガッタガタじゃぞ? 蒼天既に死す、か。上手く言ったもんじゃのう」


 少年は懐から一遍の書を取り出す。


「坊ちゃんのそれは?」


「大平道とか言うらしいぞ? 蒼天既に死す、黄天正に立つべしだそうじゃ」


「そりゃ大層なこった。で、坊ちゃんはそれに乗るので?」


「いんや? 漢の世はガッタガタの死に体じゃが、ワシの見る限りではまだ死んではおらん。今は大騒ぎしておるが、このお祭り騒ぎではまだ漢の世が終わると言う事は無いじゃろうな」


 少年はそういうと、書を懐に戻す。


「そうは言うてもの、漢の世は乱れ、おそらくそれはそう簡単に収まる事も無い。故にワシは人との繋がりを大事にしておるのだ」


「そりゃ良いや。河賊の俺らにも日の目を見る機会があるってもんだ」


「だとすると、孫堅そんけんなど良いだろうの。川賊狩りで名をはせた男じゃが、それだけに川賊も善し悪しじゃと言う事を多少なりとも知っておるじゃろう。淩操りょうそうの親父殿なら、良い感じで売り込めると思うぞ?」


「孫堅、か。坊ちゃんも売り込むのか?」


「はっはっは、ワシの才覚であれば孫堅ではなく、袁術えんじゅつなり袁紹えんしょうなりから声がかかるじゃろうの」


「まったく、自信家でいらっしゃる」


 呆れ気味に男は笑う。


「しかしそれだと孫堅に仕えた俺と坊ちゃんは敵同士にならないか?」


「今の袁家と戦うアホはおらんじゃろう。おおよそではあるが、漢を立て直す事は不可能じゃろうの。漢の世は終わるが、それは太平道によるものではない。ワシの考える限りでは、北は袁紹、南は袁術の袁家による二天朝となるはず。おそらく孫堅は南側じゃから、親父殿とワシが敵対する事は無いよ」


「坊ちゃんには何が見えてるんだか」


 二人、と言うより少年が心ゆくまで遊覧を楽しんだ後に、小舟は岸に戻ると、そこには別の少年が二人待っていた。


「父上! 何を呑気に舟遊びなど!」


 岸の少年の一人が、舟をつけた男に向かって言う。


「ああ、統か。はっは、坊ちゃんの頼みとあっては断れない」


「坊ちゃん? ああ、魯家のガキか」


「ワシの方が年上だろうに」


 少年はのっそりと起き上がると、頭を掻きながら言う。


「はっ、腐れ儒者もどきのガキめ!」


「やめろ、統も蒙も」


 凌操は言うが、岸の二人の少年は舟の上の少年を睨みつけている。


「坊ちゃん、どうやらこの前負けた事を根に持っているみたいで」


「ああ、アレか。残念じゃが、お前ら二人ではワシには勝てんよ」


「ふざけるな! あの時は、アレだ! ちょっと調子が悪かっただけだ!」


「そうだ! 俺だってちょっと腹減ってたし、実力が出せなかっただけだ!」


「まったく、ガキじゃのぅ」


 大きく伸びをしながら、少年は岸の二人に向かって言う。


「この腐れ儒者もどきめ! 今日こそ一本取ってやる!」


「商人風情が、舐めるなよ!」


「わかったわかった。二人まとめて相手になってやるわい。阿統に阿蒙」


凌統りょうとうだ!」


呂蒙りょもうと呼べ!」


 二人の少年、凌統と呂蒙は練習用の木剣を振り回して叫ぶ。


魯粛ろしゅくの坊ちゃん、ちょっと遊んでやってくれるかい?」


「まぁ、親父殿に言われちゃしょうがないのぅ」


 舟遊びしていた少年、魯粛は舟を降りて二人の少年の前に立つ。


「遊んでやるかの」


「ふざけんな!」


 凌統と呂蒙が声を合わせて怒鳴るが、魯粛は軽く肩を竦めるだけで挑発してみせる。


 少年と言っても、凌統と呂蒙は五、六歳の子供。魯粛は十歳程度と年齢だけでもそれなりに離れているので体格にも差があるので、まったく相手にならない。


 先に木剣で殴りかかって来た呂蒙の手首を掴むと、勢いに任せて剣を振りかぶった呂蒙をひょいと投げる。


 さらに凌統の足を払うと、凌統は派手に転ぶ。


「この通り、まったく相手にならんのぅ」


 転がされた二人に対し、魯粛は鼻で笑いながら言う。


「まだだ! まだ負けてない!」


「俺だって負けてないぞ!」


 二人の子供は彼らなりに一生懸命なのだが、魯粛はそれを軽くあしらう。


「父上! この商人、やっちゃって下さい!」


「いや、親父殿! コイツとっ捕まえましょう!」


 ついに二人は折れて、大人の凌操を頼る。


「ほほう、自分達の戦力不足に気付いたか。悪くないのう。阿統はより強力な戦力を援軍に求め、阿蒙は勝利条件の見直しか。将軍として見るモノは違うが、判断は悪くないぞ」


 魯粛はうんうんと頷いているが、二人の少年は何を言われているのかよく分かっていない表情をしている。


「では親父殿、今日は楽しかった。また舟を出してもらう時には連絡する」


 そう言うと魯粛は、岸近くに留めておいた馬に乗る。


「親父殿、仕官の件じゃが、おそらくはワシの方が出世は早かろうから、その時にも川賊じゃったらワシが雇ってやろうぞ」


 苦笑いして肩を竦める凌操に手を振ると、魯粛は颯爽と駆けていく。


 彼の姓は魯、名は粛。字を子敬しけいと言う。


 彼は徐州の豪商であった魯家に生まれたが、彼が生まれて間もなく父親が死去。商売は母が継ぎ、彼は祖母と暮らす事となって、生まれ故郷である徐州を離れた。


 幼い頃から祖母のツテもあって名士と交わる事も多かったが、彼が年齢を重ねる事に裕福な資産を周囲に施す事も多くなり、体が大きくなるにつれて騎射や撃剣を習う様になり、名士と同じ様に荒くれ者達ともつるむ様になってきた。


 豪商である魯家との繋がりを断つ訳にはいかない名士達が多かったが、その者達の中にはそういう荒くれ者達と一緒に行動する事を好まない者達も多く、魯粛に付き合う者を選ぶ様に忠告したり付き合い方を考える様に言う者も少なくなかったが、魯粛の交友関係は変わらず身分に差を設ける事は無かった。


 その為に『魯家に狂児が生まれた』などとも言われたが、本人はまったく気にする事も無く、相変わらず豊かな資産を貧しい者達に施したり、名士や荒くれ者達と交わる事を好んだ。


 黄巾の乱が収まる頃には、彼はその波に乗っていなかったにも関わらず名声は高まっていったのだが、彼は自ら主を定めて仕官すると言う事は無く、だがそれだけに中央の混乱とも無関係でいられたのは幸運だったと言えるかもしれない。


 中央の混乱から逃れた袁術が地元名士達を集って自身の戦力強化を図り、魯粛もその面子の中に選ばれたのである。


 それはあの大連合、時の権力者である董卓とうたくを打倒する事を目的とした反董卓連合結成直前の事であった。

さっそく色々違ってます。


子供の頃の魯粛と淩操が知り合いと言う事はありませんし、凌統にいたっては生まれていないか生まれて間もないくらいです。

それに幼名もわかりませんでしたので、阿をつけてみました。


今後もこんな感じで史実と大きく違う、あるいは行動の順序が違う事なども多々出てきますが、そこまで細かく見ずに楽しんでもらえたらと思ってます。

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