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邪神令嬢の学園事情  作者: RYUJIN
第一章 入学編
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王都への旅立ち

「イシズおばさんっ!!」


東雲(しののめ)の奇跡亭』に戻ってきた私は、イシズおばさんの姿を確認すると思いきり抱きつきました。


「アリアが出かけた後に騒ぎがあったから心配していたんだよ。・・無事でよかった」


 イシズおばさんは涙を浮かべながら優しく私の頭を撫でてくれました。


「ところで、後ろにいらっしゃる方々はどなたなんだい?どう見ても高貴そうな方々に見えるんだけど・・」


 そう言いながら、イシズおばさんは私の背後に目を向けます。  


「突然の訪問を失礼する。私の名は『レオンハルト・サークレット・イルティア』、『神聖イルティア自治国』の第一王子だ」


「そして、私の後ろにいるのは護衛騎士達だ」


「ひぃっ!?第一王子!?」


 レオンハルト殿下が王子だと知ったイシズおばさんは慌てて跪こうとします。


 しかし、それをレオンハルト殿下が手で制しました。


「いきなり大勢で押しかけて申し訳ない。気は使わずに結構だ、どうかそのままでいてほしい」


「は・・はい。ですが、なぜそのようなお方がこんな質素な宿屋へお越しになられたんですか?」


「それを説明する前に、何故『神聖イルティア自治国』の私達が『ヨークスカ』へやってきたのかを説明しなければならないな」


 そして、イシズおばさんに促されて食堂の席に座られたレオンハルト殿下は、私の用意した緑茶に口をつけて一息つきながら話し始めました。


 ・・一国の王子様なのに毒見はいらないのでしょうか。


 まあ、ご本人が良ければ気にしないことにしておきましょう。


「・・実は五年前から『神帝国』が開発している兵器が奪取される事件が多発している」


「そして、私達は偶然今回の『ヨークスカ』襲撃事件の噂を耳にしたんだ」


「五年前と言えば・・アリアちゃんの住んでいたと言う『ライズ』の事件と関わりがあるんですか?」


 イシズおばさんの問いにレオンハルト殿下は頷きました。


「そうだ。表向きには(オーガ)の『大量襲撃(スタンビート)』として処理されているが、その実は『ライズ』で開発していた新型の魔導機甲(マギ・マキナ)が奪取された」


「そして、今回は『ヨークスカ』の造船所で建造していた『飛行魔導神殿』が奪取されたんだ」


「『飛行魔導神殿』!?」


 レオンハルト殿下の言葉を聞いた私は驚きの声をあげました。


『飛行魔導神殿』は全長三百メートル程にもなる、巨大な()()戦艦です。


『飛行魔導神殿』には、『女神ハーティルティア』様が手ずから建造した高出力の発導機が搭載されていまして、複数の魔導機甲(マギ・マキナ)を艦載しながら数千キロも離れた自治国間をたったの数時間で移動することが可能な能力を持っています。


 そして、全ての『飛行魔導神殿』は『女神ハーティルティア』様のものとされ、各国はあくまで『女神様』から艦船の()()を受けていることになっています。


 それが奪われたとすれば、大変な事件です。


「これは極秘の話だったが、ここ『ヨークスカ』では『サイナード』級三番艦の『ヒメツバキ』が建造されていたんだ」


「そして、竣工後は『アーティナイ連邦自治国』に貸与される予定だった」


「だが、『ヒメツバキ』は何者かによって奪取され、その陽動作戦として『ヨークスカ』の町が魔導機甲(マギ・マキナ)に襲われたんだ」


「私達はその魔導機甲(マギ・マキナ)を排除する為に『ヨークスカ』へやってきた」


「その最中で、私はアリア嬢と出会ったんだ」


「アリアちゃんが殿下と出会った経緯は何となく分かりましたが、何故わざわざここにいらっしゃったんですか?」


 話が見えないイシズおばさんは首を傾げていました。


「実はアリア嬢の身につけているバレッタが神白銀(プラティウム)でできていることが判明したんだ」


「ええ!?前からとても綺麗な髪飾りだとは思っていたけど、まさか神白銀(プラティウム)で出来ていたなんで思いもしなかったよ」


 イシズおばさんは驚いた顔をしながら私の髪についたバレッタを見つめます。


 本当はバレッタの()()の方が問題なのですが、私が『メルティーナ』に乗って戦っていたことをイシズおばさんに知られたら失神させてしまいそうなので、レオンハルト殿下にお願いして黙ってもらっています。


「彼女のバレッタが神白銀(プラティウム)で出来ている以上、『神帝国』としてはその所在について管理しなければならない」


「そこで、アリア嬢には一緒に『神聖イルティア自治国』の王都『イルティア』に来てもらい、現在別件でご滞在されていらっしゃる女神帝陛下(ハーティルティア様)に謁見してもらう」


「「えええええ!?」」


 突然の話に、私とイシズおばさんは思わず大きな声で叫んでしまいました。


 王都『イルティア』に行かないといけないという話はレオンハルト殿下から聞いていましたが、『女神様』と会うことになるとは言っていませんでした。


「説明が足りずに申し訳ない。だが、バレッタが神白銀(プラティウム)で出来ているなら、『女神ハーティルティア』様が生み出されたものに間違いない」


「そして、なぜそのような『神器(アーティファクト)』を君の一族が代々受け継いできたのか、それを明らかにしないといけないんだ」


「これはアリア嬢の()()()を知る事にも繋がる。だから是非私と一緒に来て欲しい」


 確かに『女神様』なら私の『力』についても何か知っているかもしれません。


 そして、それを知ることが出来るのなら、『女神様』とお会いしてみたいと思ってしまいます。


 ですが、私が『東雲(しののめ)の奇跡亭』を離れていいのでしょうか。


「イシズおばさん・・」


 困った私はイシズおばさんに目を向けます。


「行ってきなさい。なあに、もともとウチは一人で切り盛りしてたんだ。なんとかなるよ」


「っ!?ありがとうございます!イシズおばさん!」


「王都の用事が終わったらすぐに帰ってきますから!」


 イシズおばさんは私と、何故かレオンハルト殿下を順番に見ると思い悩む表情をしました。


「・・()()()()()、いいけどねぇ」


「?」


 私はイシズおばさんの意味深な言い回しに首を傾げました。


「アリアちゃんはうちの看板娘だったから、常連さんにも不在を伝えとかないといけないね」


「・・特にアリアちゃんが作る焼きそば定食はすっかりうちの人気メニューになっちまったからねぇ」


「きっとみんな残念に思う筈だよ」


「焼きそば!!?」


 何故がレオンハルト殿下が『焼きそば』へ異常な程食いついてきました。


『神聖イルティア自治国』王家の第一王子が『カームクラン』料理、しかも庶民の食べ物である『焼きそば』に興味を持つとは思いませんでした。


「アリア嬢!君は王都『イルティア』で焼きそばを作ることができるのか!?」


「え!?あ、はい・・材料と厨房をお借りできれば作れますが・・」


 ガシッ!!


「素晴らしい!是非お願いしたい!」


 私が焼きそばを作れることを聞くと、レオンハルト殿下は満面の笑みを浮かべて顔を近づけながら、私の手を握って来ました。


 ち、近いです。


 美しいレオンハルト殿下の顔と握られた手の感触で自分の顔がみるみる赤くなっていくのがわかります。


「・・ごほん!殿下、アリア嬢がお困りですよ」


「っ!?すまない!つい!!」


 騎士の一人に進言されたレオンハルト殿下は慌てて私の手を離しました。


 声の雰囲気からして、この方が『アーヴィン』さんなのでしょうか。


 失礼とは思いながら、つい目を向けてしまいました。


 この方も長身なのですが、レオンハルト殿下より筋肉質でがっちりした体型です。


 そして、レオンハルト殿下程明るい色ではありませんが、腰まである美しい金髪を後ろで一つに束ねています。


 騎士らしい精悍な表情の顔は、そこらの舞台俳優なんで目じゃないくらいの美形です。


 凄いです。


 私の視界を占める美形率が半端ないです。


「ごほんっ!!」


 私が『アーヴィン』さんを見ていると、次はレオンハルト殿下が咳払いをされました。


「・・こいつは『アーヴィン』だ。私の専属騎士だが、まあ幼馴染みたいなものだ」


「たまに小言を言ってくるが、背景の一部とでも思ってくれて構わないぞ」


「殿下!!」


 レオンハルト殿下のあんまりな言い方にアーヴィンさんは怒った様子です。


「ふんっ!お前が悪いんだぞ!」


「意味がわかりませんよ!」


 はい、私にもわかりません。


 とにかく、何かレオンハルト殿下の気に障ったことがあったのは間違いありません。


 ゴゴゴゴ・・・。


 その時、突如地鳴りのような音が聞こえてきました。


 カタタタタ・・・。


 その音に合わせて僅かに建屋も揺れていて、棚に置いてある置物や食器が音を鳴らします。


「っ!?一体何事なんだい!?」


 先程『ヨークスカ』の襲撃を経験したばかりの私達は思わず身を縮ませます。


 そうしている間に、次はまるで夜になったかのように辺りが暗くなってきました。


「・・来たか」


 しかし、レオンハルト殿下や騎士の方々は揺れの原因がわかっているようで、落ち着いた様子のまま建屋の外へと出ていきました。


 私とイシズおばさんはその後を恐る恐るついて行きます。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・。


「「っ!?」」


 そして、外に出た私達が空を見上げると、思いもよらない光景を目の当たりにする事となりました。


 私の視界は、両舷に翼のような『飛翔魔導推進機関』を搭載した巨大な艦船(ふね)によって埋め尽くされていました。


 その巨大な艦船(ふね)が落とした影が、辺りを夜のように暗くしていたようです。


「『ヨークスカ』襲撃の知らせを聞いて私達が魔導機甲(マギ・マキナ)で先行したんだが、漸く()()が到着したようだ」


「凄い・・です」


 私は思わず言葉を漏らしました。


 全長三百メートル程にもなる艦船(ふね)は、普通の海洋船舶とは全く異なった形状をしています。


 美しい流線形の銀色をした船体には白銀色に発光する線模様が描かれています。


 そして、流線型の船体の後方には、大型の推進機関のようなものが備わっています。


 その美しい造形は、まさに空を航行するために生み出されたものでした。


 私達と同じく空を見上げていたレオンハルト殿下が私に目を向けて得意げに笑いました。


 そして、私は艦船(ふね)が巻き起こす風で激しく靡く髪を押さえながら、レオンハルト殿下と目を合わせます。


「どうた?凄いだろう?」


「この艦船(ふね)こそが『神聖イルティア自治国』王家の専用艦・・」


「『サイナード』級一番艦、『飛行魔導神殿サイナード』だ」


「サイナード・・」


「君はこれからこの艦に乗って『神聖イルティア自治国』の王都『イルティア』へ向かうんだ」


「さあ、行こう。アリア嬢・・いや、()()()。私と共に」


 そう言いながら、レオンハルト殿下は私に手を差し伸べてきました


「・・・はい」


 私は差し出された手にそっと触れました。


 そして、私は自分の名を呼び捨てで呼ばれたことよりも、再び触れ合った手のぬくもりを感じたことによって、頬を赤く染めてしまったのです。


〜設定資料〜

サイナード級飛行魔導神殿『サイナード』


『神聖リーフィア神帝国』初の量産型飛行魔導神殿である『サイナード』シリーズの一番艦。


『第一期飛行魔導神殿量産計画』に基づきレゾニア重工、ランガースインダストリー、シノサキ重工の三社が製造受注し、『アーティナイ連邦自治国』の『ヨークスカ』にある造船所で建造・進水後に『イルティア自治国』王家に貸与された。


大型の艦内には『女神教』の神殿、夜会用の大広間、展望ラウンジや共同浴場の他、バー、商店、美容院やマギ・マキナのドックを完備している。


その主たる目的は自治国間の移動と有事の防衛で、各種兵装を備える。


機関はプラティウム・マギフォーミュラ・マナ・ジェネレーターによる半永久機関で、船体はマナ劣化の為、百年に一度のオーバーホールを要する。



〜スペック〜


名称

サイナード級飛行魔導神殿『サイナード』


型式

マギ・ロ・1-01


製造

レゾニア重工・ランガースインダストリー・シノサキ重工共同企業体


着工

創世紀6155年

竣工

創世紀6164年

進水

創世紀6165年


満載排水量

189,000トン


全長

342.5m

最大幅

75.5m

全高

52.6m


機関

四型プラティウム・マギフォーミュラ・マナ・ジェネレーター8基

機関システム定格出力

1,216,000サイクラ


装甲

ミスリル・アダマンタイト鋼


動力伝達装置

プラティウムケーブルおよび流体ミスリル併用


推進

浮上用フライ・マギ・ウィングユニット両翼六基

巡航用魔導推進機関二基


最大速力

毎時1000ノット(時速1852km)


乗員

2,600名


兵装

主砲 魔導結晶体収束砲1門

副砲 127mm魔導式単装速射砲2門

近距離迎撃用三十五ミリ魔導高射機関砲12門

空対空魔導誘導弾『グングニール』125発

空対地投下式爆裂魔導弾『フォールハンマー』50発


搭載機

マギ・マキナ ラピス・シックス24機


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