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邪神令嬢の学園事情  作者: RYUJIN
プロローグ
1/48

『アリア』という名の少女

挿絵(By みてみん)

 チチチ・・・・。


「イシズおばさん!おはようございますっ!!」


「あら、アリアちゃん。今日も早いんだね」


「はい!早くしないと、宿泊客の皆さんがお腹を空かせてやってきてしまいますので!!」


 そう言いながら、私は使い慣れた割烹着に袖を通します。


 私の名前は『アリア』。 


 ここは、世界で最も東に位置する列島である『アーティナイ連邦』と呼ばれている自治国の本島に存在する、『ヨークスカ』という町です。


 私は元々『ヨークスカ』から離れた小さな工場町に住んでいましたが、五年前に起きたある事件がきっかけで、この町に古くからある『東雲(しののめ)の奇跡亭』と言う宿屋に住まわせてもらっています。


 今、私に声をかけてきた『イシズおばさん』は、私がこの町に来る直前に主人に先立たれてから一人でこの宿を切り盛りしていました。


 そして、五年前に着の身着のままでこの町にやってきて生きる気力さえ失って放浪していた私を見かねて、この宿で働くように提案してくれたのです。


 ちなみに、見た目は恰幅のいい肝っ玉お母さんという感じですが、お子さんはいません。


 そんなこともあってか、イシズおばさんは私に対して実の娘のような態度で接してくれます。


 だから、イシズおばさんには本当に頭があがりません。


 シュルッ!!


 私は慣れた手つきで割烹着を身に纏うと、腰まで伸びた黒いロングヘアを一つに纏めます。


「下りてきたばかりで悪いけど、そこのかまどに火をいれてくれないかい?」


「わかりました!」


 そして、イシズおばさんに言われるまま、かまどの前にしゃがみます。


 ジュッ・・・!


「・・・・・」


 ジュッ・・・!


「・・・・・」


 しかし、かまどに火を入れる為にマッチを何度か擦ってみましたが、全然火が付く気配がありません。


「このマッチ・・湿気てます」


 まずいです・・このままでは朝食に出す『味噌汁』が作れません。


(・・・『ファイア』)


 そこで、私は小さな声で『魔導』を発動して指先に火を灯します。


 ゴウッ・・パチチッ!!!


 そして、漸くかまどへ火を入れることが出来ました。


 この世界には『魔導』と呼ばれる、様々な現象を人為的に引き起こすことができる術が存在します。


 この『魔導』というものは、私たちの身体の中で生成される『マナ』を消費することで、様々な現象を引き起こすことが出来るのです。


 先ほど私が使った『ファイア』という魔導は、数ある『火属性魔導』の中では最も初級に位置する魔導で、生活魔導として広く用いられています。


 魔導を発動する為に必要なマナは、この世界を満たしていると言われている『エーテル』というものを生物が無意識に取り込み、その『エーテル』を体内で代謝することで生成されます。


 ちなみに、世の中には『魔導結晶』というマナを蓄えることが出来る鉱石があって、有能な魔導士であれば、その結晶に自分のマナを充填することができます。


 そして、この魔導結晶と、予め『スクロール』などに記述された魔導式を用いれば、指定した魔導を誰でも簡単に発動できるようになっていて、それらは『魔導具』と言う名で呼ばれています。


 かつては、高位の魔導士にしか魔導結晶が生み出せないということから、『魔導具』は非常に高価で私達一般市民にはなかなか手にすることができませんでした。


 ですが、歴史上で最も偉大な魔導工学博士といわれている勇者クラリス様が、今から千年前に『発導機』と呼ばれている『エーテル・マナ変換』を人工的に行うことを可能にした魔導具を発明したのです。


 そして、『発導機』の発明によって魔導結晶へのマナ充填が普及してその価格も安くなり、今では一般市民にも生活魔導具が広く普及しています。


 その為、本来であればかまどなんて前時代的な物を使わずとも、『魔導コンロ』を使えばボタン一つで加熱料理ができるのです。


 ちなみに、この宿の厨房にもちゃんと『魔導コンロ』はあります。


 では、何故わざわざかまどを使っているのかというと、実はこの厨房にあるかまどは()()()()()()()に特別拘った先々代からずっと大切に使われてきたものらしく、イシズおばさんは先々代の遺志を尊重する為に敢えてかまどを使って料理をしているそうです。


 そして、私がかまどに火を入れる為にわざわざ小さな声で魔導を発動したことには理由があります。


 それは、自分の()()()()()を気にしているからなのです。


 先ほどの『生物が取り込んだエーテルを体内でマナに代謝する』という話ですが、実は人によってその生成量が()()()()()()のです。


 かつて、この世界を創造した『女神ハーティルティア』様を筆頭とした神々は、美しい()()()()()をしていたと言われています。


 そんな『神界』の神々は、人智を超えた膨大なマナを瞬時に生成することができたと言われています。


 そして、現在でも神々の色と言われている『白銀』に近い()()()髪色や瞳の色を持つ人ほど、体内で生成して蓄えることができるマナの量が多いのです。


 対して私の髪は()()()()()()()()です。


 『漆黒の髪を持つ人間』は『明るい髪色を持つ人間』よりも遥かに莫大なマナを生成する能力(マナ出力)があると言われています。


 しかし、いくら膨大な量のマナを生成する能力があっても、『漆黒の髪を持つ人間』はその全てのマナが生成された瞬間に体外へ霧散してしまい、体内にマナを蓄えることが出来ないそうです。


 つまり、私のような人間は体内からマナを取り出すことが出来ないので、『初級魔導』を発動することすら困難だと言えます。


 ですが、私は先ほどの様に()()()魔導を発動することができます。


 その理由については、正直私にもわかりません。


 かつて、千年前にこの世界を絶望と恐怖に陥れた『邪神デスティウルス』を滅ぼす際に、『女神ハーティルティア』様と共に戦った伝説の『聖騎士』様は『身体強化魔導』や『飛翔魔導』を自在に使っていたそうですが、その髪はほとんど黒に近い色をしていたと言われています。


 しかし、それは『女神ハーティルティア』様が『聖騎士』様に()()()()()を行ったことで、本来であれば霧散してしまうマナを身体に巡らせることが出来るようになって初めて実現した事だと言われています。


 当然のように、極東の宿屋で給仕をしている私みたいな一般市民が『聖都』に御座す『女神帝陛下(ハーティルティア様)』とお会いする機会など存在しません。


 なので、普通に考えたら私が魔導を行使することは()()()()()()()()ことなのです。


 『普通に』と言うからには、もちろん()()()()()も存在します。


 ()()()()過去の歴史の中で、黒目・黒髪でも魔導を発動できる『存在』というものは実在していました。


 それが、『邪神』と言う名の特異な『存在』です。


 『邪神』はかつてこの世界を滅ぼそうとして『女神ハーティルティア』様と敵対した邪悪な『存在』です。


 そして、美しい『白銀の髪』を持つ『神族』に対して、『神族』と同等の力を持っていた『邪神』は『漆黒の髪』を持っていたと言われています。


 ですから、私は魔導を発動しているところを目撃されて『邪神』の生まれ変わりと思われることを恐れているのです。


 ちなみに、私が魔導を発動できることはイシズおばさんも知りません。


 もし、私が魔導を使えることがイシズおばさんに知られて拒絶されてしまったら、きっと私は耐えることができないと思います。


 クツクツクツ・・・。


 私が物思いに耽っている間に、かまどにかけたお湯が沸いてきました。


「アリアちゃん!ありがとう!あとはわたしがやっとくから、アリアちゃんはテーブルを拭いて回ってくれるかい?」


「はい、わかりましたっ!!」


 私はパタパタと食堂に走ります。


「おはようアリアちゃん」


 ちょうどそのとき、食堂に入ってきた二人組の宿泊客が私に声をかけてきます。


「おはようございます!!」


「朝からアリアちゃんの声が聞けて幸せだぜ。なあ、相棒」


「ああ、これで今日のクエストにも精が出るってぇもんだ」


「いい素材が採れたらまたおすそ分けするからな」


「はい、期待していますね!!」


 このお二方は『ヨークスカ』にある『冒険者ギルド』に登録している『冒険者』です。


『冒険者』は様々な人や組織から出された依頼を実力に合わせて好きなように受注して、その依頼を達成した報酬や、討伐した魔物の素材をギルドに売ることで生計を立てる人達です。


 世間では『その日暮らしの荒くれ者』というイメージが強いですが、私が毎日見ている冒険者のみなさんはそんな感じではありません。


 それに、千年前に『邪神』を討伐した『女神様』や『勇者様』も『白銀の剣』という名前のパーティーを組んで冒険者活動をしている時期があったと聞きます。


 しかも一から四まである冒険者の階級でも一番高位で、今や伝説の階級となっている『一級冒険者』だったそうです。


 ですから、私は日々町の為に活躍している冒険者の皆さんを心から尊敬しています。


「アリアちゃん!順番に配膳をしてくれるかい??」


「はーい!わかりました!!」


 そして、今日も宿のお仕事は朝から忙しく、あっという間に一日の時間が過ぎていきました。

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