7.スローライフを送りたい
翌日、アポロおじさんが荷物を届けにきてくれた。
アーノルド様が帰った後に、スコーンを思いついて、ちょうど出来上がった所だった。
スコーンなら、アポロおじさんのお店にある物とセットで売れば、より美味しく食べてもらえる可能性がある。
ジャムなどスコーンに合うものも、この国の物は甘すぎるのでは⁇と言う不安はあるけれど。
「アリサちゃん、今日は息子を連れてきたんだけど良かったかな⁇
荷物も多くなってきて、息子が居てくれたら助かるんだよ。もしアリサちゃんが嫌でなければ、息子がこれから届けるよ。
私は店番がむいてるからねー。」
「構いませんよ。
おじさんに会いたくなったら、またお店に寄らせてもらったら良いし。」
と伝えると、荷物を運んでくれていた青年が、人懐っこい笑顔で振り向いた。
「俺、息子のアル。
店を手伝ってるんだけど、今まで会わなかったね。
これからよろしく。いやー、こんな女性なら毎日でも配達するから遠慮なく言ってね。
で、この荷物はどこに置く?」
「毎日はさすがにないかな?でも配達よろしくお願いします。
荷物は良ければこちらに置いてもらえますか?」
とキッキンを指し示す。
「OK」と軽く返事をしつつ話しかけてくる。
「なら、毎日俺がお茶をしにくるよ。
ねっ!それなら良いでしょ?
美味しいお菓子も食べたいし。
俺さ、アリサちゃんのクッキーの大ファンなのに、親父が売りもんだからって譲ってくれないんだぜ。
それにアリサちゃんがこんな可愛いなら、いずれお嫁さんになってくれるかもしれないしね。
俺の良い所をアピールしないとな!」
一気に喋るアルを唖然と見つめるしかなかった。
よく頭と口が回る人だと言う感想しかなかった。
「アル、ここに来る前に言っただろう。
アリサちゃんはここでのんびりと過ごしてるんだ。アルは賑やかで忙しない。
ワシもアリサちゃんが嫁に来てくれたら嬉しいが、賑やかなアルでは選んでもらえんよ。
それに仕事をサボってここに来る事は許さんよ。」
とアポロおじさんは諭している。
嫁?私が⁇冗談にも程がある。恋愛経験0の私に対してなんて事を言ってくれるのか!
社交辞令で「褒めて頂きありがとうございます」と笑顔で答えておいた。
とりあえず2人にコーヒーを出して、昨日焼いたスコーンを味見してもらうと、恥ずかしくなるぐらい大絶賛をもらえたので、お店で置いてもらう事にした。
他にも色々と作りたいものはある。
これからもチャレンジして、できた物は味見してもらう約束をした。
帰る間際にアルが話しかけてきた。
「アリサちゃんて、親父が言ってた通りガツガツしてないよね。
他の国から来たんだろ?アリサちゃんみたいな子が多いの?一歩下がってついて行きますって感じがたまらないわ。
変な男に捕まらないようにね。」
「アル!何を話してるのか知らんが帰るぞ!」
そして嵐は過ぎ去った。
アルって、本当に嵐のような人だった。
★★★
そんな感じで日々を過ごしていると、時々長い休憩が取れる日にはアーノルド様が来てくれるようになった。
でも疲れているのか、座り心地の良いイスに座ってしばらくすると眠ってしまう。
「よっぽどお疲れなんだわ」
と思って起こさないようにするが、最近はアーノルド様が来たら休憩時間を聞いておくようにしていた。
そうすれば起こせるからね。
これも日本人の気遣いです!
お土産に渡したシフォンケーキは大変喜んでもらえたが、お子様は食べなかったらしい。
渡せなかったのだとか?
でもご両親やご兄弟はすごく喜んでくれたそうで良かった。
もしかして私がお子様と勘違いした子は、弟だったとか?まぁいずれ聞けば良いだろう。
と思いながら、頻繁に来る訳じゃないアーノルド様に聞く事すら忘れていた。
そんなある日、神様がまたカフェを白い世界に変えて現れた。
「アーリーサー、なんだか楽しそうに異世界生活をしてるそうじゃない。
それに美味しい物も提供して、大繁盛だとか?
僕はまだ食べた事ないよね?」
なんて言うものだから、
「小さな声でお願いします。バレたらスローライフできなくなりますから!」
なんて冗談を言いながら、神様と2人笑う。
この人、神様なんだよね?会いたい時に会える人じゃないし、勝手に現れる人だけど、神様とは友達のような感覚さえする。
神様にお皿に乗せたシフォンケーキに生クリームとフルーツを乗せ、紅茶と一緒にコトッと前に置く。
笑みをうかべて「ありがとう」と言ってくれる。
神様って、何気に優しい雰囲気出すし、中性的なイケメンなのよねー。
「ところで魔法はどう?
僕の紅茶にもケーキにも回復魔法は入れてくれてないみたいだけど、どう言う事かな?」
「神様って疲れるんですか?なんか勝手に回復してそうだし、そもそも神様が飲んだり食べたりするって、私の常識にはないですし…」
「神だって疲れるし、お腹も空くよ。
霞でも食べてるって思ってた?」
「いや、それって仙人ですよね?」
くだらない話をしていたら、どんどん時間は過ぎる。
「魔法の話ですけど、本当に奥が深いなーって思って。
でも回復魔法って、使える人は少ないからか、使える場面も少ないですよね?怪我や病気を治すとか⁇
他にも出来ることがないか調べるつもりなんです。」
「ふーん、そうなんだねー。
そんなに魔法に興味を持つなんて思わなかったよ。」
「単に魔法が使える事が珍しくて、嬉しいだけですよ。
今度王立図書館に連れて行ってもらう約束してるんですよ。まだ日にちは決まってませんが。お忙しい方だから、しばらくは無理かな?」
「デートかぁ」
って神様が言うから、顔が真っ赤になってしまった。
「ちっ、違います」
そこへカフェの扉が開き、日差しが入ってくる。
扉の前にはアーノルド様が立って2人を見つめていた…なんか怖い。
「さて、そろそろ帰ろうかな。
アリサ、また来るよ。ごちそうさま。」
と言って、アーノルドが入ってきた扉から出ていく。
いつも目の前で忽然と消える神様が扉から出て行くものだから、扉を見つめてしまっていた。
「アリサ、邪魔をしたみたいだね」
と不機嫌な声が聞こえてきた。
「仲良さ気に見えたけど、タイミングが悪かったかな?出直そうか?」
「あっ、大丈夫ですよ。突然現れる人なんですよ。だから気にしないでください。またフラッと来ると思いますから。」
「そう。ところで、急だけど明後日は都合つく?
約束してた王立図書館へ案内するよ。」
「本当ですか!大丈夫です。よろしくお願いします。」
それだけ言うとアーノルドは帰って行った。
今日は機嫌が悪かったぞ?疲れているのか?