5.異世界のお菓子と魔法
異世界デビューを果たした日の午後は、買ってきたお菓子を広げてティータイムを楽しむ。
食べてみると甘い!甘すぎる!!口にずっと残る甘さ。
申し訳ないが私には無理だ。
この国の人は、この甘さを好むのだろうか?
それならばカフェでスイーツを出す事は諦めなければならない。
「悩んでも仕方ないし作ってみるかな?」
私は、ゆっくり、のんびり、スローライフを目指しているのだ!たくさん作る必要はない。作り過ぎて食べる人がいないとか悲しいし、もったいないからね。
「クッキーでも焼いてみるか!」
と立ち上がった所、周りが白くなる。
「神様ですねー。いらっしゃーい。」
とまだ姿がない時点で声を掛けると
「よく分かったねー。」
といつもののんびりした声が聞こえてくる。
「白くなったら神様って感じで記憶してますから」
と伝えておく。私の周りに扉から入って来ない人は1人しかいないしね。知り合いは少ないけど。
神様が前置きもなく質問してくる。
「アリサ、王都に行った時変わった事あった?
あー、王都はアリサが行った街ね。ここは王都の外れって訳。で、変わった事あった?」
「やっぱり王都だったんですね。
それならなぜこんな王都に近い場所に来させたんですか?私はゆっくりしたかったのにー。」
とちょっと膨れてみる。
神様は真剣に私を見ている。質問の答えを待っているんだろう。
「うーん、変わった事ですか?
ウロチョロして、買物して帰ってきただけですしね。
変わった事と言われても…あっ!騎士さま達がたくさんいました!何かを探していたみたいでした。」
あれ?答えを間違えた?「う〜ん…」
「あっ!転んで怪我をしてた男の子と会いました!」
と言うと
「どんな特徴だった?アリサは何をしたの?」
と聞かれる。これを待っていたのか。
でも私からしたら、特に変わった出来事でもないけど、神様にとったら大変な事なのかしら?
「髪も目も綺麗な金色でしたよ。
私はハンカチを怪我をしていた膝に巻いてあげただけです。」
と伝えると
「なるほどね。」
と言ったまま、神様は黙り込んでしまった。
私は不味い事をしてしまったのだろうか?
★★★
僕の所へ、魔女のサジェから連絡がきた。
「今回は面白い子を送ってくれたじゃないかい。感謝するよ。」
と言って、いつものいやらしいクツクツと聞こえる笑い声が聞こえる。
サジェはアリサに興味を持ったのだ。
やはりアリサの魔力は膨大だったのだ。
やっとサジェから依頼されていた、サジェの目に適う子を転移させられた安心と同時に、なんだか嫌な予感がする。
だから慌ててアリサの元に来た。
アリサは何故かわからないが、気になる存在だ。
神として見守っていきたいと思う。
しかし今の所、特に変わった事はないように思う。
とりあえず僕が出来る事だけしておくか。
★★★
「アリサにこの本を渡しておくよ。時間を見つけて読んでみて。」
本の表紙には「魔法」と書いてある。
「ありがとうございます。魔法の本ですか?」
「うん、魔法について書かれているから、興味がなくても目を通した方が良いと思うよ。」
「是非読ませていただきます。
神様、聞いても良いですか?
私の魔力ってかなり大きいのですか?前に言ってましたよね?」
「そうだね。普通の人間に比べたらかなり膨大な量を持っているように感じるよ。
でも人には得意な事、苦手な事があるよね?
アリサは回復魔法に長けてる。
回復魔法はこの国では使い手が少ないんだ。
だから回復魔法の使い方などしっかりと勉強しておいて欲しいし、それはアリサの為になると思うよ。」
「分かりました。
まだピンと来ませんが、出来る限り勉強してみます。」
私は本が好きだ。図書館に行けばタダで本が借りられる。
休日には図書館へ本を借りによく行ったものだ。
懐かしいなぁと思う。
神様は本だけ渡しに来たのか、すぐに帰ってしまった。
今からクッキーを焼こうかと思ったが、魔法の本が気になる。
クッキーは後日にして、まずは本を読みたい。
魔法に憧れた事もある。
ソワソワしながら、テーブルに出していたものを片付け、大事に本を開いた。
本の中から回復魔法の箇所を探す。
神様が私には回復魔法の魔力が高いと言っていた。
だから回復魔法について知っておくべきだと思ったから。
魔法は奥が深い。
もちろん魔力が多ければ多いほど、扱える魔法の種類は多くなるし、範囲も広くなる。但し訓練をしなければ扱うのは難しい。
楽しくてついつい読み込んでしまった。
起きて本を読み、訓練して、お腹が空いたら食べて、お風呂に入って寝る。こんな生活をどれぐらいしていたか。
「これも一種のスローライフだな」と思った時には、魔法も扱えるようになっていた。でも上を目指そうと思えばまだまだ訓練が必要だ。
一旦魔法は置いておいて、しようと思ってしなかったクッキー作りを再開した。
★★★
それからしばらくしてカフェを開店させた。
でも大々的に看板は出さない。
よく見れば分かる程度に、コーヒーカップの絵を描いた板を吊るしておく。
名前もない、小さな小さなカフェだ。
縁があれば、これを見つけて入って来てくれるだろう。
収入?それはね、私が作るクッキーをアポロおじさんが気に入ってくれて、お店に置いて販売してくれている。
やはりこの国のスイーツは甘すぎるらしい。
カフェに配達に来てくれたアポロおじさんへお礼にクッキーを渡したら、すごく美味しいと言ってくれたのがきっかけでお店に置いてもらう様になった。
おじさんは私が「スローライフしたいの!」って言った一言を良い方に解釈してくれて、お店に置いているクッキーの出所を誰にも漏らしてないらしい。
強い味方だ!
今日もおじさんにクッキーを渡し、注文していた小麦粉などを受け取る。
「おじさん、いつもありがとう。」
「いやいや、こちらこそありがとうだよ。アリサのクッキーが評判になって、店も大繁盛だしね。クッキー以外のお菓子はないのかと問い合わせもあるほどだ。」
嬉しい事を言ってくれる。
クッキー以外のお菓子か。よし、何か挑戦してみようかな?
おじさんが帰った後、気分転換に散歩へ出かけた。
家の裏の大自然へ。
やっぱり自然は良い。大きく伸びをする。
異世界へ来た時に窓から見たキラキラした水は湖だった。
この湖の辺りが好きで、よく魔法の本を読んだり、訓練をする場所に選んでいた。
少し遠くを見ると、一頭の馬が湖の水を飲んでいる。
のどかだなぁと見つめていると、馬の近くに人が座っているのが見える。
赤茶色の髪をした、騎士服を着た人だった。
あの男の子のお父さんだと思い、近付いていく。
思い込みってこわい…
次回、やっと出会います♡