38.夜会へのお誘い
毎日レオン様がやってくる。
そのおかげでだいぶ元気は出てきた。
引っ越しを考えていると話せば賛成してくれた。
今は引っ越し先を探している。
他の事を考えていれば、アーノルド様を思い出す事は少なくなってくる。
そんな生活をしていたら、サジェのおばあさんが現れた。
「生活はどうだい?」
「快適ですよ。ゆっくり考える時間もできましたし、気持ちの整理もつきました。
レオン様が話し相手に来てくださるから楽しいです。
アーノルド様にお会いしたら、また気持ちは揺らぐかも知れませんが、会わなければ大丈夫です。」
「そうかい。
今回の事、レオンはすごい剣幕だったね。
魔女はね、魔法を使い、未来を見る事も出来る。
しかし、魔女が知り得た未来を語り、魔法を好きなように使ったらどうなる?
この世界は魔女の望む世界になってしまう。
だからねアリサ、どんなに辛い思いをしているあんたが目の前にいても、何もしてやる事が出来なかったんだよ。
申し訳ないね。」
「お辛いですよね。未来が分かってるのに、手を差し伸べられないのって。」
「そうだね。でも未来は変わる事があるから楽しいこともあるよ。」
「私の未来も変えなくちゃ!」
「幸せになるよう、祈ってるよ。
アリサ、レナード殿下からの招待状を預かってきたから置いておくね。あとこれも預かってきた。」
と言って、封筒を手渡してくる。大きな箱も一緒に。
サジェのおばあさんが帰った後、招待状を開く。
それは夜会への招待状だった。
そしてメモが1枚入っている。
『アリサ嬢、諸々すまない。許して欲しい。
当日は是非、そのドレスを着て参加を!
レナード』
「レナード殿下は何を謝ってくださって居るのかしら?
ドレスまで…夜会…行きたくないなぁ…」
★★★
夜会当日の昼過ぎ、私は王宮へ行くべきか悩んでいた。
目の前には水色のドレスが広げられている。
アーノルド様の瞳の色…
レナード殿下からのプレゼントではないだろう。きっとアーノルド様からの…行きたくない。だってアーノルド様に会いたくないもの。
でも引っ越す前に、公爵家の方々には挨拶はしておきたい。
やっぱり行って、色々けじめを付けるのが大人よね。
ドレスを手に取った瞬間、足元に魔法陣が浮かび上がった。
転移した先は公爵家のカーラ様の目の前だった。
「アリサ…ちゃん?
本物?本物のアリサちゃんよね?
サジェがアリサちゃんを送ってくれたのね。」
ギュッと抱きしめられた。
「身を隠して申し訳ありませんでした。」
「いいのよ、アリサちゃん。
私、アリサちゃんがとっても気に入ってるの。
だからジフリートのお嫁さんでも大歓迎だからね。
アーノルドなんて、アリサちゃんから捨ててしまいなさい!」
「ありがとうございます。
シブリート様は、歳の差がありすぎます。」
「あら、アリサちゃん的にはアウトなのね。
困ったわね〜。
我が家は全然大丈夫よ〜。でもアーノルドが義兄になるのは問題かなー?悩ましいわぁ。」
真剣に悩むカーラ様が微笑ましい。
気持ちも楽になる。
「そのドレス。夜会に行くのね!
ピッカピカにしましょうね。」
侍女さんたちにまたまた磨き上げられた。
「アリサちゃん、今日、アーノルドは騎士団長として王族の方の警護に当たっているの。
エスコートはジフリートがするわね。」
「ジフリート様、よろしくお願いします。」
「義姉上のエスコートなんて、幸せです!」
「ウィルソンも先に王宮に行っているのよ。
だから3人で馬車でゆっくり向かいましょう。
あの忌々しい女狐がいるんですもの!顔だけ出して帰りましょう。」
少し遅めに王宮へ到着した。
到着すると慌ただしく騎士の皆様が走り回っているのを目にする。
「容疑者は捕まえたか?」
「誰も出すな!」
「国王陛下のご容態はどうだ⁉︎」
「何か起こったみたいね。行きましょう!」
カーラ様を追って大広間へ急いだ。
そこで見たものは、国王陛下と王妃様、そしてエバンズ殿下が壇上で倒れている。
その傍に立ち唖然としているレナード殿下と支えるアーノルド様。
マリーン様はにこやかに王座に座っている。
ピクリとエバンズ殿下の指先が動いた。
私は壇上に向かって走る。エバンズ殿下の手を取り必死に祈った。
祈りながら国王陛下と王妃様を見ると、2人とも息はある。
私の後ろからきたカーラ様が叫ぶ。
「何があったの⁉︎」と。
エバンズ殿下が目を薄ら開けた。
そこにジフリート様が駆け寄る。
私はエバンズ殿下の手を離し、国王陛下と王妃様の手を掴んだ。
「あんた何をしているのよ!
婚約者に捨てられた女が何のこのこと夜会に来てるのよ!
この国はね、トリニスト王国の配下に降る運命なのよ!
邪魔な王族が居なくなった今、この国が生き残る道はトリニスト王国にすがるしかないのよ!
レナードとアーノルドは私の魅了の魔法にかかっているから、私が大切に可愛がってあげるわ。楽しみねぇ。」
2人に妖艶な笑みを向ける。
「黙れ!やっと尻尾を出したな!アーノルド、捕えろ!」
「はい、レナード殿下!」
「なんでよ!なんで魔法が効いてないのよ!!」
「王族に攻撃魔法は効かない。
マリーンに魅了されてるように振る舞うのは、なかなか大変だったよ。
特にアーノルドは心身ともにズタボロだ。」
「じゃあなぜアーノルドには効かないのよ!!
アーノルドは王族じゃないでしょ!!
アーノルドだけでも良いわ!私の物になりなさいよ!」
「私には愛する人との絆があるからな。」
胸元からオニキスを取り出す。
しかしアリサはそれどころではなかった。
とにかく国王と王妃を助ける為、祈り続けていた。
やっと2人の目が開いた時、外から「ドーン」と爆発音が何度も鳴る。
「あはははは…もうこの国は終わりよ!」
外を見た人々から悲鳴が上がる。
アリサはバルコニーへ走った。
原状復帰!この為にサジェのおばあさんは私を呼び、原状復帰にこだわったのだ。
手をかざすが、もう私に魔力は残っていない。
「お願い!この国を守って!大切な人がたくさんいるの!お願い!元に戻ってーーーー!」
そこでアリサの魔力は尽き、後ろに倒れる。
そこに駆け寄り、抱きしめたのはアーノルドだった。
その日、王宮のバルコニーから凄まじい光が現れ、王都を覆った。
その光が消えた時、アーノルドとアリサの胸元にあった石は粉々に砕け散っていた。
次回で最終話です。




