37.誰か助けて
私はずっと考えている。
アーノルド様は、あの女性と常に一緒にいる。私とはもう何日も会っていない。
婚約者と宣言はしてくれたけれど、私には何もない。と言う事は、婚約者と言うのは対外的なもので、簡単に言えば女避けみたいなものなのか?
オニキスの事も説明が付かない。あれほど服の上に出す事をこだわっていたアーノルド様の胸元には、オニキスがなかった。
そうか!クリスマスの日を繰り返してしまうと思っていたけれど、何も進展もなければ、アーノルド様にとって私は…
「アーノルド様も健康な男性。私みたいな女性より、魅力的な女性に惹かれるのは当たり前の事よね。
なーんだ。振られたのか。」
結論に至ると笑が込み上げ、そして涙が止まらない。
悪い方へ悪い方へと考えてしまう。
考えすぎて窓をみれば、夜が明けている。また一日が始まる。
「レオン様…助けて」
「アリサ…」
誰かの声が聞こえる。
振り向いた先にはレオン様が立っていた。
「アリサ、辛いね。
ごめんね。僕がアリサをこの世界に連れて来たから、こんな辛い思いをさせてしまったね。」
「違います。辛い思いは勝手にしてる事で、この世界に来て、元いた日本よりたくさん幸せだと思えました。
たくさん大切な人が出来ましたし、充実した毎日をすごせました。
ただ今は疲れちゃったかな?
だからレオン様は謝らないで下さいね。」
「ありがとう。
でも僕、めちゃくちゃ怒ってるんだ!魔女にもアーノルドにも!
言葉が足りないんだよ!言葉が足りないから、アリサばかりが辛い思いをするんだ!」
レオン様が例の扉の前に行き手をかざすと扉がなくなった。
「あんな扉はいらない!アーノルドなんて忘れてしまえば良い。原状復帰ももう訓練しなくて良いからね。
僕は今、本当に怒ってるからね。
魔女にはバレるかもしれないけど、この建物は外から見えなくした。だからアリサがここにいる限り、誰にも邪魔されず静かに暮らせるから。」
「えっ⁉︎ありがとうございます。かな?」
凄いことになり過ぎて、頭がついて行かない。
だからか笑が込み上げてくる。
「レオン様、めちゃくちゃ怒ってますね。
私の為に怒ってくれてありがとうございます。」
「みんな勝手なんだ!アリサを振り回して!!」
「おやおや、神がそこまで1人の人間に干渉して良いのかね。」
どこから現れたのか、サジェのおばあさんが立っている。
「僕がアリサをこの世界に連れてきた。辛い時は助けなきゃいけないだろ?」
「そうかい。好きにすれば良いよ。
アリサ、ごめんね。アーノルドはあんたを巻き込みたくないから何も言わないのかも知れない。だから余計に辛いよね。」
「サジェのおばあさん、教えて下さい。
大切にしたいから、傷付けたくないから、守る為に話してくれないのは愛ですか?
それで相手が悩み苦しむ事になっても、黙っておく事は愛ですか?
きっとアーノルド様は、口では色々言って下さいましたが、私の事を本気で愛しては下さってないのかもしれませんね。
アーノルド様の側にいるのが辛いんです。
きっとアーノルド様は心変わりをされたのだと思います。だからもうアーノルド様に会わなくて良い場所に行きたい。」
「そうかい。そうだよね。
アーノルドは愛し方を分かっていないんだろうね。
あの子の産まれが複雑だから、人の愛を疑って育ってきた。人の心は難しいね。
アリサ、また来るよ。」
サジェのおばあさんは帰って行った。
「アリサ…本当に辛いんだね。
僕も人間の複雑な感情は分からない。でもアリサが辛い事は分かる。
ゆっくり考えたら良いと思うよ。
僕、毎日様子を見にくるから。」
「ありがとうございます。」
そう伝えると、レオン様は消えた。
ここにいれば、誰にも見つからないと言っていた。
例の扉もない。
しばらくここから出なくて済むように、今日はこっそり買物に行き、たくさん買い込んでこよう!と決めた。
太陽が昇る頃、王都で買物をする。
とりあえず必要と思う物を持ちきれるだけ買い込む。
荷物を持って、アポロおじさんの店へ行き、アルに「昨日はありがとう。」とだけ伝えたかったけれど、配達で留守だったので、おじさんに伝言をお願いした。
王都から出るまでの間、あの女性とアーノルド様が毎日楽しそうに一緒にいるのだと言う事を耳にする。
たまたま会った騎士様にも元気を出すよう励まされた。
みんな優しいなぁ。
アーノルド様がいなくても大丈夫なようにしなきゃね!
引っ越すのも良いかもしれない!
そう言い聞かせて家路を急いだ。
★★★
アーノルドはその頃、アリサの家に繋がる扉が今朝無くなった事に焦っていた。
魔女に尋ねたくても、会ってももらえない。
マリーンの目を盗みカフェへ馬を走らせても、そこにあるはずのカフェもなくなっていた。
アーノルドはレナード殿下の頼みとは言え、引き受けるべきではなかったと後悔していた。アリサを失う恐怖におかしくなりそうだった。
そんな時、騎士の1人が大量の荷物を抱えたアリサに会ったと話していた。
アリサはまだ近くにいる!
アリサを失う恐怖が足音を立てて近寄ってくる恐怖に怯えた。




