33.ドレスは回避の方向で
明けましておめでとうございます。
レナード殿下が帰国される日が近付いて来たある日、アーノルド様は珍しく我が家に来て、私の隣に座り、ずっと私の顔を見ながら、手をぷにぷにと触っている。
これはなんなんだ…
まさか!忙し過ぎて、アーノルド様は壊れてしまったのか⁇
「アーノルド様…ちょっと見つめ過ぎだと思います。」
「うん、見つめてるからね。」
「だから見つめ過ぎで、私がすごく恥ずかしいです。」
「顔が真っ赤だから、恥ずかしの分かってるよ。」
「なら、やめて欲しいです。」
「なぜ?俺が嫌い⁇」
「好きですけど…恥ずかしいので手は離して欲しいです。」
「アリサは俺と離れたい?」
「離れたいとかの問題ではなくて、恥ずかしいから見つめないで欲しいです。」
「う〜ん、無理!!」
ちょっと〜、さっきからずっとこの調子です。
甘い!甘い!甘すぎる!そんな目で見つめないで欲しい!
本当に心配になってきた。この人、大丈夫だろうか?
はぁ…
突然、溜息が聞こえた。
「悩み事ですか?」
「うん、悩み事。
ドレスを着たアリサを人前に出さないといけないから、どうやって回避しようかと悩んでる。」
「えっ?私、ドレスを着る予定ないですよ?そんな話きいてませんし。」
「言ってないからね。」
ん⁇男前なんだけど、大好きな人なんだけど、ちょっとウザい…
「ドレスを着ないといけないなら、全面的に回避の方向でお願いします。」
「分かった!回避の方向で話を進めよう。」
なんか元気になったみたい。
やっと手を離して下さった。
「で、私がドレスを着る予定があったのですか?」
「そうなんだよ。レナードが戻ってくるだろう。その時にアリサを紹介しろと言われてるんだよ。」
「はぁ…私をですか。恐れ多いので、紹介とかは…無理です。」
「そうだよね。その帰国のパーティーは小さな物なんだけど、王位継承がないとは言っても、第一王子が帰国されたんだ。だからねー。俺も今回は騎士ではなく、友人として参加なんだよ。
誰かパートナーと参加なんだが、アリサ以外は考えられない。でもアリサのドレス姿なんて見せたくない!
どうすれば良いんだ。
あっ!俺も欠席すれば良いんだな!!」
えっ⁉︎良いの?
それありなの⁇
「アーノルド様はレナード殿下とご友人なら、やはり出席した方がよろしいかと思います。
ご令嬢なら、アーノルド様の近くにたくさんいらっしゃるじゃないですか!!」
名案とばかりに伝えたら、冷たい、でもどこか悲しそうな目と目が合ってしまった。
「アリサ…辛い…悲しい…」
私は逃げるようにお茶を入れにキッチンに向かった。
だってドレスを着て、王宮とか、本当に勘弁して欲しい。
アーノルド様の前にジャスミン茶を置いた。
「これは?」
「リラックス効果のあるジャスミン茶に回復魔法を少々入れてみました。」
「そう。ありがとう。
でも回復するのは難しいよ。アリサの言葉で心がえぐり取られたからね。」
アーノルド様って面倒くさい部分あるよね。
「もう仕事に戻るよ。」今日は例の扉ではなく、カフェの扉から出ていき、馬に跨って帰って行こうとする。
「アーノルド様〜!!」
私を振り向いたアーノルド様が、馬上から私を見下ろす。
「あの…あの…ご帰国のパーティーは、必ずペアでないといけないのですか?
私はドレスを着て王宮に行くのは無理なんですが、でも…でも…アーノルド様が他のご令嬢と行かれるのはもっと嫌だなーって…その…考えたら思ってしまって。
でも、でも、だからって、王宮に行く勇気はないんです!
あー、でも…アーノルド様はご友人だし行かないといけないし…だから…」
顔を真っ赤にして伝えたい事だけは伝えた。
アーノルド様は厳しい顔で「分かった!!」と言って馬を走らせた。
遠くなって行くアーノルド様の背中を見つめながら
呆れられたよね…
と悲しくなる。
アーノルドは馬上でニヤニヤしていた。
アリサが!アリサが!ヤキモチをやいてくれたーーー!
★★★
その日の夜、公爵家に戻ったアーノルドはパーティーの事を考えていた。
「あら、アーノルドおかえりさない。
今日はアリサちゃんに「ただいま」の挨拶は行かないの?」
義母であるカーラが聞いてくる。
義母はアリサを大層気に入っている。いや、義母だけでない。父も弟も、使用人でさえ、アリサを気に入っている。
「義母上……」
昼間のアリサとのやり取りを話す。
「ふふふ…任せておきなさい。
アーノルド、今日と明日の朝のアリサちゃんへの挨拶はなしね。」
悪い顔をする義母を見つめるが、なんだか上手くいく気がしてきた。
★★★
その頃アリサは、「アーノルド様まだかな〜」と例の扉を見つめていた。
本日も2話目を20:00に投稿します。




