28.クリスマスなのに
いつの間にか涙を流しながら、スイーツ店の前に着いていた。
スイーツ店は忙しそうだ。ケーキの箱を持った人々が嬉しそうにお店から出てくる。
「これも喜んでもらえてる。良かった。」
と肩の荷を下ろす。
こんな時はスイーツ店のお手伝いをすれば忙しくて気も紛れるのだが、泣き顔で接客はしてはいけない。それにみんなに心配されるのが分かっているのに、入っていく勇気はない。
私はその場所を離れた。
追いかけてきたアルが「広場に戻る前にもうひと回りしようよ」と言ってくれた。
「うん」と頷き、2人で歩く。
アルは何も言わない。街はキラキラ輝き、周りも浮かれている。でも私たちの間には静寂な空気が流れている。
心地良かった。
でも今日はクリスマス!
こんな空気で過ごしてはいけないはずだ!
「アル!またグリューワイン飲みたい!!」
アルの手を引っ張って広場へ向かった。
広場は相変わらず賑やかだ。
見回したけれど、アーノルド様の姿はない。
またあの光景を見てしまったら、もう冷静でいられないのは分かっている。良かった…
グリューワインを1杯飲み、ポカポカ体が温まった頃、顔見知りの男性からダンスに誘われた。
アルはニコニコしながら「このダンスは男女に分かれて踊るダンスなんだ。振りも簡単だし、憂さ晴らしに踊ろう。」と言うので、ダンスの輪に入っていった。
足が痛くなるぐらい踊り、自分でグリューワインを買い飲み干す。
お酒には弱い。でも今は飲みたい気分だ。
お酒に逃げる気持ちがやっと分かった。
「飲み過ぎじゃない?まぁ酔っ払ったアリサちゃんみたいし、俺は大歓迎だけどね。」
「アルったら、何いってるの。私は酔っ払ってないし!」
「酔っ払いはみんなそう言うの!」
ケラケラ笑う私。
そんな私たちに騎士の制服を着た方が近付いてきた。
「アル、俺らは見回り中なのにデートかよ!忙しい日は騎士団に戻ってくれよー。」
「デート…かな?今から口説くとこだから邪魔。」
「今からかー!羨ましい。すごい美人だし、どこで見つけたんだよ。良いなぁ。俺にも紹介してくれよー。
こんばんはお嬢さん。」
と、私をまじまじと見た騎士様が私の胸元のペンダントを見る。
「アル!!このお嬢さん…」
ニヤリと笑ったアルは、「???」と言う仕草をする。
「詰所に戻るわ。」
と手を振って去って行った。
★★★
「なーなー、あのペンダント見たか?」
「あれって団長の色だよな?この間、団長のペンダントが光った時、アパタイトがどうのこうの言ってなかったか?」
「じゃあ、あの子は団長の⁇」
「イヤイヤ、あのアルがまさか命知らずな事しないだろ?」
「団長にやっと春が来たのに、もう冬になるのか?」
「可能性はあるよな?あの子、かなり酔ってなかったか?」
「酔って色っぽかった。アルが口説くって言ってたしな。」
「俺も口説きたい!」
「今、アルはどこにいる!!」
振り向いた先には、遠征先でも見せないような鬼の形相の団長が立っていた。
「はい!メイン広場です!!!!!!」
アーノルドはすごいスピードで広場へ向かって行った。
道行くご令嬢も声を掛けようと思えないぐらいに恐ろしいアーノルドだった。
★★★
もう何杯目になるか分からないグリューワインをあおるアリサ。
「もうそろそろ飲むのやめよーよ。体に悪いし、帰れなくなるよ。俺だって男だよ?」
「あははは…アル、何言ってんのよ。私は酔っ払ってないよー」
「可愛いから、今のアリサちゃんをゆっくり見てたいけど、話しをしたいんだ。」
「話?聞く聞く。どーしたの〜?」
その時、アリサに影が落ちた。
ん?暗くなった⁇と思った瞬間、抱き上げられた。
「アル、悪かったな。酔っ払いの相手も大変だっただろ?引き取らせてもらう。」
「団長はお仕事中でしょ?俺が送りますから大丈夫ですよ。」
「必要ない!!」
冷たく言い放つと、アリサを抱き上げたまま去って行った。
そのままアーノルドはアリサを運び、詰所へ戻る。
「私が出ている間、何か変わった事はなかったか?」
「はい!何もありませんでしたー!!!!!!」
質問することもできない程、絶対零度の騎士団長が立っていた。
クリスマス当日はここで終了です。




