27.すれ違うクリスマス
メリークリスマス♪
クリスマス当日になった。
カーラ様にシフォンケーキの件を白状してから決めていた事がある。もしクリスマスにアーノルド様に会えたら、シフォンケーキを渡す!
冷ましておいたシフォンケーキをカットしてラッピングをし鞄に入れた。
今朝目覚めたら、テーブルにメッセージカードが置いてあった。
『メリークリスマス!!
アリサ、愛してる。
アーノルド』
アーノルド様は出勤前にあの扉を使ったんだ。
ふふふ、困った人。
私も会いたかったなぁ。
★★★
イルミネーションが付く頃を見計らって家を出る。
王都までの一本道をワクワクしつつ、でも少し寂しさも感じながら歩いた。
着いたそこにはアルが立っていた。
「アル!どうしたの?誰かと待ち合わせ?」
「なんでそうなるかなー?アリサちゃんを待ってたに決まってるだろ!
団長は今日も警備だろ?騎士団なんかさ、クッソ忙しいし、恋人にするもんじゃないぜ。
今日は俺がアリサちゃんを案内する。初めてだと楽しみ方も分からないだろうし。」
良いのかな?
団長がいるのに、男の人と2人でクリスマスを回るとか…
「迷ってる⁇
大丈夫だよ。友達として案内するだけ。1人でクリスマスは寂しいでしょ。それに楽しみ方を教えるよ。」
そう言ってニコッと笑うアル。
「ありがとう。ではよろしくお願いします。
でもね、アル、騎士団の皆さんのことを悪く言ったらダメよ。皆さんが守ってくださってるんだから!」
「分かってるって。ごめん。」
アルに少し小高い場所に連れてこられた。
ここアーノルド様とサンドイッチを食べたところだわ。
あれから色々な事があて、アーノルド様とお付き合いする事になった。ニヤけてしまう頬を引き締める。
「なんか良い事あった?機嫌良さそうだから。」
とアルに尋ねられ、答えようとした瞬間、奥の方から順番にイルミネーションが付いていく。
「すご〜い!!一斉に付くんじゃないんだね!順番に流れる様に付くなんて!すごい、すごい!!」
こんな幻想的な瞬間を見れるなんてアルに感謝だ。
「アル、ありがとう。1人だったらこんな瞬間見れなかったよ。」
「じゃあさ、お礼にもう少し一緒に回ろうよ。」
「もちろん!もっと色々楽しみ方教えて!」
アリサ、団長にしばらく会えてないだろうし、寂しかったんだろうな。久々に見た満面の笑みに、そう思った。
それからはアルに屋台に連れて行ってもらって美味しい物を紹介してもらったり、イルミネーションが綺麗だと言う所に連れて行ってもらって大満足した。
団長はお仕事って分かってるけど、会えなくて寂しくて、クリスマスも街を一回りしたら帰ろうと思っていたのが遠い昔のように、心から楽しんだ。
「アリサちゃん、疲れてない⁇
メイン広場へ行って休憩しようよ。そこはそこで楽しいよ。」
「うん、行きたい!」
私たちはメイン広場へ向かって歩いていった。
★★★
その頃アーノルドは、騎士団の詰所で各班からの報告を受けていた。
報告と報告の間には「恋人ができて初めてのクリスマス。アリサと過ごしたかった。」そればかりを考えていた。
詰所に戻って報告をした騎士はしばしの休憩でお茶をすすっている。
そんな中から気になる会話を聞きつける。
「俺見たんだけどさー、アルが恋人と歩いてたよな!」
「見た見た、あれ恋人か⁇手は繋いでなかったぞ!」
「まだ恋人未満ってやつか?」
「アルの奴、かなり惚れてるよな!女の子が人とぶつからないようにさりげなく庇ったりしてさ。」
「おいおい、仕事しろよー。アルを観察する仕事じゃないだろ。」
「こっちは仕事中、アルはデート中なんてやってらんないからさー。今度からかってやろうと思ってさ!」
「女の子見た?めちゃくちゃ美人だったよな。黒髪で。あー、あんな子と知り合いたい〜。」
黒髪と聞いた瞬間、アーノルドがガタンと立ち上がる。
「おい!」
「団長すみません。すぐ見回りに戻ります!」
「イヤ、いいんだ。アルの事詳しく教えてくれ!」
「アルの事ですかー?」
と言いながら、口々に教えてくれた話を繋ぎ合わせると、多分、アルと一緒にいるのはアリサだ!
アリサがアルとクリスマスを楽しんでる⁉︎
「少し外に出る」
と言って詰所を後にした。
アルと一緒にいるかもしれない不安と、アリサを見た団員が口々に「綺麗だ」「可愛かった」と言うことへの嫉妬心でおかしくなりそうだった。
仕事中だ!と言い聞かせながらも、確認したかった。
俺を見て、俺の存在を忘れているかもしれないアリサに思い出させたくもあった。
★★★
「アリサちゃん、グリューワイン飲む?」
「グリューワインて温かいワインよね?飲みたい!」
「買ってくるよ。」
と言ってアルは走って行ってしまった。
グリューワインがあるんだ。毎年飲んでみたいと思うのに、贅沢してはいけないと思って、飲んだ事がなかった。
アルが戻ってきて、グリューワインを2人で飲む。
「美味しい」とニッコリ笑う。
「アリサちゃん、やっぱり俺、アリサちゃんが諦めきれないよ。クリスマスも一緒に過ごせない団長より、俺にしなよ。」
酔いも回ってきた時にそんな事を言われて、判断ができない。アルが私を好き?え?なんで?
その時、女の子たちの「キャー、アーノルド様!」「お仕事終わられたんですか?」「踊りましょー。」と言う声が聞こえ、そちらを見るとにこやかに対応しているアーノルド様、アーノルド様の腕に腕を絡ませて、胸をグイグイとアーノルド様にくっ付けているご令嬢など、アピールのすごい集団が見えた。
私には何日も会ってないのに…アーノルド様はさみしくなかったのね。あんなににこやかにして…
仕方ない事、言ってはいけない事だと分かっているのに、酔いもあったのだろう。耐えられなかった。
「アル、スイーツ店見てくる。また後でメイン広場の楽しみ方教えて!」
と、アルの返事も待たずに小走りで広場を出て行った。
じっと団長を見つめていたアルに気付いた団長がこちらに近寄ろうとするが、視線を逸らしアリサを追った。
アーノルドもまたアルを追おうとするが、アーノルドと過ごしたい、少しでも側にいたいご令嬢たちに囲まれて身動きが取れなかった。
クリスマス、もう1話続きます。




