25.あなたの気持ち、私の気持ち
アーノルド様に抱きしめられている。
今までも何度も何度も抱きしめられたけれど、私が抱きしめ返した事はない。
でも私は決めたのだ!今日、アーノルド様と向き合うと。
だから初めて、アーノルド様の背中に私は腕を回す。
アーノルド様がビクッとしたのが分かる。
そして腕が解かれる。
「アリサ…」
「はい…アーノルド様…」
「私は何度もアリサへの好意を伝えてきたつもりだ。
恥ずかしい話、愛すると言う気持ちが今まで分からなかったんだ。人を愛してはいけないのではないかと思っていて。
アリサへの気持ちも、正直、なんなのか分からなかった。でも曖昧な態度ではあったが、繋ぎ止めたかった。
そうしているうちに、アリサの事が手放せなくなった。他の誰かのものになるのは耐えれない。そこまで考えるようになり、これが愛すると言う気持ちなのだとようやく分かった。
分かってからは、とにかく伝えたかった。でも迷惑なのではないか、伝えて、私の前からいなくなってしまうのではないか、そんなことばかり考えていたんだ。
アリサ…愛してる。」
すごく真っ直ぐに伝えてくれるアーノルド様。
私もちゃんと自分の気持ちを誤魔化す事なく伝えなければ!
「アーノルド様、私もお伝えしても良いですか?」
「イヤ、ちょっと待ってくれ!
悪い事だった場合、私はどうなるか分からないからな。」
ふふふふ…
思わず笑いが込み上げてしまう。
「今、勇気がでてる時に伝えさせてください。
私、アーノルド様の事が好きです。
でも、私も一緒で人を好きになった事がなくて。アーノルド様が良くしてくださって、正直戸惑いました。
私には何もお返しできるものがありませんから。
いつからか分かりませんが、私はアーノルド様が好きだったのだと思います。
でも好きになってはいけない人だから、次期公爵様だから、騎士団長様だからって理由を付けて、自分の気持ちに蓋をしていました。
今日、お菓子が美味しくできて、真っ先にアーノルド様に食べて欲しいと思い、アパタイトに光が灯り、サジェのおばあさんと話をして、私の気持ちを素直に伝えるべきだと思いました。」
一気に伝える。
アーノルド様は黙って聞いてくれている。
もう少し伝えなければ!
「今、伝えた気持ちは私の本当の気持ちです。
でも怖いんです。アーノルド様と私はあまりにも違い過ぎます。住んでる世界も、何もかも。私の過去も…
それにアーノルド様から離れられなくなってしまうのが怖いんです。お別れする時に辛くなるから。
だから…だから…」
涙が溢れてくる。
泣いてはいけないと思っているのに、不安で怖くて涙が止まらない。
「アーノルド様の近くにいたい。でもいてはいけない。
私はどうするのが1番正しいのでしょう」
アーノルド様は優しく私の頬を両手で覆い、指先で涙を拭ってくれる。
「アリサ、ずっと私の側にいれば良いじゃないか。その選択肢はない?
私が次期公爵候補なのも、騎士団長なのも、それが理由でアリサと離れなければならないなら、そんなものいらないよ。」
「ダメです!手放す理由が私だったら、絶対にダメです!」
「う〜ん、じゃあ理由があるなら良いんだよね?
まぁいいや。
今はアリサと気持ちが通じ合えた。
今から恋人だよ。分かってる?
俺、人を愛したのがアリサが初めてって言ったよね。
かなり束縛するし、嫉妬深いし、独占欲強いから覚悟してね。そのかわりすごく愛するから。」
「アーノルド様…好きです」
私から胸に飛び込んだ!
もうこれで良いのだ。今はアーノルド様を信じよう。
私だって馬鹿じゃない。
私の気持ちを伝えた。その上で、アーノルド様は私を愛していると言ってくれた。
この先、アーノルド様が公爵家を継ぐ時、もしくはご婚約されるご令嬢が現れた時は、ソッと身を引こう。
サジェのおばあさんかレオン様にお願いしたら、アーノルド様の前から消える事も簡単だろう。
だから今だけは身分違いの恋をさせて下さい。
そう心の中で願った瞬間、オニキスとアパタイトが鮮やかに光り輝いた。
あまりの眩しさに瞑っていた目をゆっくり開けると、光は治っていた。
アーノルド様は「これが…」と呟いていた。
★★★
私はアーノルド様に光の説明を受けている。
昔からの言い伝えで
魔力のある人間の中にたまに自分の石を見つける者がいる。
その石は自分自身の分身の様な存在である。
そして強固な絆を結ぶことにより、不思議な現象が起こるが、それは持ち主と石によって変わる。
と言うものがあるらしい。
らしい…と言うのも誰もその現象を見た事がなかったので、言い伝えを想像するしかないから。
そんな中で、偶然アーノルド様がアパタイトを送り、これまた偶然に私がオニキスを送った。
その石に宿る力の相性が良く、持ち主である私たちの気持ちが通じていたのも、奇跡の現象が起こった一因である。
そして今、お互いの気持ちを言葉にして、本当の意味で心が通じた事で光り輝いたのだと推測されるとアーノルド様が仰る。
よく分からないけれど、すごい事なんだろうなぐらいは分かる。
簡単に言うと、相手を思うことで石を通じて伝わるのだとか。
だからさっき、無意識にでもアーノルド様を思い浮かべたからお互いのペンダントが呼び合ったと言う事らしい。
「アーノルド様、ごめんなさい。よくわからないです。
でもアーノルド様と繋がってるって事ですよね?
大切にしますね。」
そう伝えて、胸元のペンダントを握りしめ、アーノルド様の肩にもたれかかった。
私がこの世界に来たのは、ただゆっくり過ごしたかったから。
でも優しい人たちに出会い、この国での居場所も見つけられた。
そして今は私の横にアーノルド様がいてくださる。
この先のことは分からないけれど、アーノルド様と一緒に行けるところまでは歩いて行きたい。
いつか…私の過去も知ってもらいたい。
アーノルド様、大好き!!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
一旦ここで第一章を終了し、まだ回収できてない部分も含め、恋人編に突入しようと思います。
今後もお付き合いいただけましたら嬉しいです。




