24.覚悟
やはり思った通り「ただいま」と、例の扉からアーノルド様は顔を出した。
思っていたより遅かったのは、サジェのおばあさんが説明してくれたからだろう。
今日は恒例の抱擁がない。ありがたいけれど寂しくも思っている私は、かなり自覚しているようだ。
何をかって⁇
それはアーノルド様への自分の気持ちです。
アーノルド様はテーブルに目をうつし
「食事中だった?タイミング悪かったみたいだな。
後から出直そうか?」
と気を遣って下さる。
「あの〜、よかったら一緒にいかがですか?
実は…あの…作り過ぎてしまって…ではなくて…アーノルド様と…その…」
うわー、こんな気持ちになった事はないし、自覚してしまって、ハイスペックイケメンのアーノルド様を目の前に私の手料理をすすめるなんて、図々しいにも程があるよね。
公爵家でいつも食べてるような晩餐じゃないし。
顔が赤いのは分かっているけど、ここまで言ってしまったからにはお誘いするしかないと勇気を奮う。
「一緒に食べたくて、作って待ってました!!」
大声で言ってしまったよ。
恐る恐るアーノルド様を見ると、口元を手で押さえてうっすら赤くなってる。
「あっ、ああ…もちろんいただくよ。
アリサが私の為に作って、帰りを待っててくれたんだよね?」
「はい。アーノルド様が来られるのをお待ちしておりました。」
恥ずかしい…恥ずかしさを隠す為に、私はキッチンへ歩いて行き料理を温め直す。
「アーノルド様、座って待っててください」
椅子に座ったアーノルド様は、熱い熱い視線でずっとアリサの後ろ姿を見つめていた。
並べ終わった食事を前に向かいあって座る。
「お口に合うか分かりませんが召し上がってください」
「ありがとう。私の為に作ってくれたんだよね?いただくよ。」
アーノルド様は黙々と食べる。
綺麗な食べ方だ。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、自覚してしまったら、全てが格好良く見える。アーノルド様を見てたら、私の心臓は持ちそうにないので私も黙々と食べた。
食事が終わるとアーノルド様が言葉を発する。
「すごく美味しかった。
アリサの料理を食べるのは何度目かな。サンドイッチを作ってくれ、看病の時には食べやすい物を頼めば作ってくれた。そして今日の夕食。どれもすごく美味しかった。
できる事なら、これからも私だけに作って欲しい…と言うのはワガママかな。」
「アーノルド様…
嬉しいです。毎日食べていらっしゃるお料理に比べたら、私の作った物は庶民の味ですし、そんな凝った物も作れません。
無理はなさらないで下さいね。」
「無理をしてるわけないだろう!毎日でも食べたい!」
もう私の顔が真っ赤なのは許して欲しい。
その顔を見られないようにと、それに必死で早口になってしまったが伝えた。
「アーノルド様、食後のお茶を入れてきます!」
そう言ってソファへうつってもらい、紅茶と試作したお菓子を並べる。
この間、アーノルドがアリサの事を可愛い、可愛いと思って見つめていた事は知る由もない。
落ち着いた所でアーノルド様が話し始めた。
「今日、突然魔女に呼ばれた。魔女が直接私に用があるなど今までなかった。
慌てて向かうと、オニキスが光らなかったかと尋ねられてな。なぜ魔女が知っているのかと尋ねたら、魔力の流れの中に、アリサの魔力があったと。何か悪い事があったのかと探ったそうだ。
アパタイトも光ったらしいな。」
「はい。サジェ様が今日こちらにいらっしゃいました。
これが光るには、私の…その…気持ちが影響しているのだとお聞きしまして…」
「ああ、そうらしいな。
石には、持ち人と送り人の気持ちを察する事があるらしい。それはかなり珍しい事で、魔力のある者が石を身に付けたからといって、その力が発揮される訳でもないらしい。
魔女もこんな事がまさか起こるとは思わなかった、奇跡だと言っていた。
私には、私の胸元でオニキスが光だした事に思い当たる事はない。アリサは何か思い当たる事があるかな?」
下を向いてモジモジしている私は、恥ずかしくて口が開けない。
「それにしてもオニキスが光った時は驚いた。
ちょうど剣を振っていた時だったんだ。胸の辺りが暖かくなって目を向けると、オニキスが微かに光っていた。
周りにいた奴らもそんな現象を初めて見たから、ワラワラ団員が集まってきて。
しばらくすると光はなくなったが、何が起こったのかとみんな口々に好き勝手言っていたな。
私はアリサに呼ばれている気がしたんだが。」
はい、私が呼びました。
恥ずかしい…どうしよう…恥ずかしい…でも伝えるって決めた。だから伝えるわよ!頑張るのよ!
「今日、お屋敷を失礼してから、スイーツ店で出すお菓子を試作したんです。出来上がって食べてみたらすごく美味しくて、それで…「アーノルド様に食べていただきたいなぁ」って、アーノルド様の事を思い出したらいきなりアパタイトが光出して…
ごめんなさい。知らなかった事とは言え、お仕事の邪魔をしたのは私です。
本当にごめんなさい。」
そこまで言うと腕が引っ張られた。
気付いた時にはアーノルド様の腕の中にすっぽりと抱きしめられていた。




