23.自覚しました
私は朝の光に目覚めた。
ここはどこ?
昨日私は公爵家の皆さんと食事をして…睡魔に負けた!
うわ〜、やらかしてしまった。記憶がない!
コンコン
ノックの音と同時に「お目覚めでございますか?」と、声だけで分かる侍女長さんが入ってきた。
「おはようございます。ご迷惑をお掛け致しました…」
ニッコリ笑った侍女長さんが
「相変わらずでございますわね。
私どもにお礼など言わないでくださいませ。
お礼を言うならば、おぼっちゃまに仰って差し上げてくださいな。それはそれは大切にアリサ様をここまで運ばれて…」
「え〜っと…その先は結構です」
顔が真っ赤になる。
アーノルド様に運ばれたなんて、とんでもない事だ!
なんたる失態。
それからまたまたお世話をされるまま、言われるまま、公爵家の方々と朝食をとっている。
みなさまはとっても良い笑顔だ。
「昨夜は大変失礼致しました。」
頭を下げた。
「イヤ、昨日は大変だったのだし、疲れている所を引き止めた我々にも非がある。気にすることはない。」
「そうよ〜アリサちゃん!なんにも気にする事はないのよ。」
「アリサ、もうここにいてくれて構わない。家族になってしまえば問題ない!」
「義姉上、僕は嬉しいですよ。朝から大好きな義姉上の顔が見えるのですから。」
本当にお優しい方々だ。
こんな温かい家族愛に触れた記憶がなくて、涙が出てくる。
「ありがとうございます。
私にこんなに優しくしていただいて。幸せです。
家族になってしまえばなんて!アーノルド様、お優しすぎますよ〜。」
意味が分かっておらず、いや深く考えるのが怖くて、そのままストレートに受け取る事にした私は、ただただお礼を言った。
反対に公爵家の皆さんは、全然伝わってない〜と頭を抱えたくなっていた。
朝食も終わり、私は散歩がてら自宅へと戻ると主張した。例の扉を使う気になれない。
公爵様とアーノルド様はお仕事の為、登城される。
日課ですね。
「アリサ、行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
抱きしめられています。
それを見ていたカーラ様は心の中で悶えつつ
「やだ〜、毎朝してるの?新婚さんみたいね!」
と嬉しそうだ。
そうよね、見る人が見たらそう見えるよね。
アーノルド様はいったい何が目的で、「行ってきます」「ただいま」をするのか?
聞いてみたいけど、ちょっと怖いから聞けない私です。
でも嫌な気持ちはなく、むしろ嬉しいと思っているのが正直な気持ちだ。
★★★
やっと家に帰れた。
スイーツ店の現状を昨日目の当たりにして、新しいお菓子を作りたいと思った。
出来そうなものを試作してみる。
パウンドケーキ、ロールケーキ、チーズケーキ、プリンにゼリーを作った。
材料がなんでも揃ってるこの世界って素敵だわ。
でもチョコレートが高級品なのが痛いなー。
チョコレートが簡単に手に入れば、もっとお菓子の幅が広がる。
でも高級感を出す為には、簡単に手に入らない方が良いのか?
利益を考えてる自分に苦笑する。
公爵様に感化されてるな…と。
そんな事を考えているとプリンとゼリーが固まる。
ゼリーのプリプリを見ていると、わらび餅が食べたくなる。和菓子って作れるのかなー⁇またスローライフが出来ない道へ足を踏み入れようとしてる事に気付かない私。
味見をしたら、「私って天才なの?」って自画自賛するぐらい美味しい!
「アーノルド様に食べてほしいなぁ」と脳裏に浮かぶアーノルド様。
えっ!なぜ今、アーノルド様を思い浮かべたの⁇
胸にあるアパタイトが柔らかい光を宿す。
アーノルド様に何かあったから、アーノルド様を思い出したのだろうか。
「アーノルド様…」
その頃、王宮で剣を振るい鍛錬をしていたアーノルドもまた胸元のオニキスが微かに光っている事に気付いていた。
★★★
ペンダントを見つめていると、柔らかい光も徐々に消えていった。
ガチャリ
カフェの扉が開いたと思ったら、サジェさんが入ってきた。
「久しぶりだね。
アーノルドをよく助けてくれた。お前さんは本当に凄い子だよ。
で、今、ペンダントが光ったね。何を考えてたんだい?」
この人はさすが魔女だ。魔力に関しては全て分かってしまうのだろう。
「お久しぶりです。
考えていた事ですか…言わないとダメですか?」
おばあさんは何も言わない。
無言の圧力ってやつですね。
「アーノルド様に新しいお菓子を食べてもらいたいなーと考えたら光だしました。」意を決して伝える。
「そうかい。
だからアーノルドの持ってるオニキスも淡く光ったんだね。
あははは
アンタは本当に凄いよ!いや、これに関してはアーノルドも凄い。」
アーノルド様の瞳の色のアパタイト、私の瞳の色のオニキス。この2つが共鳴しているのだと言う。
ペンダント同士が近付けば近付くほど、共鳴する濃度が高まると言う。
だから私がさっき「アーノルド様に食べてほしいなぁ」と顔を思い浮かべた事で、アパタイトがオニキスを呼んでいたのだ。
「それ!めちゃくちゃ迷惑じゃないですかー!」
「アリサはそう考えるのかい?アンタが謙虚で人の事をまず優先して考えるのは、元いた国のせいかな?この国ではそう考えない。欲しいものは手に入れる。
今回の事だって、あの公爵家の騎士団長を自分の思いで呼び寄せれる可能性もある。それを迷惑だと考えるのは面白いね」
「だって、私が単に食べてほしいなぁと思った事でアーノルド様のペンダントが光っちゃうんですよね?お仕事中だったら気が散っちゃいますよー。」
「今、ペンダントを外そうとしたね。それはアーノルドが悲しむねぇ。
まぁ迷惑かどうかは本人に確認してみると良いよ。それからでも遅くないだろ?
2人の思いが通じて、より深くなれば共鳴する濃度も高くなる。
そろそろ素直になる事だね。
さて、アーノルドの所に行ってこようかね。アンタに何かあったと勘違いして、早々に帰ってきたら、騎士団内が乱れる。きな臭いからね。
それにアンタより詳しく説明してくるとするよ。
アンタは自分の気持ちを整理しておきな。」
そう言うと扉から出て行ってしまった。
アーノルド様におばあさんが説明して下さるなら、今日、こちらに来られた時に詳しく聞いてみよう。
私よりも色々な事を知ってるだろうから。
自分の気持ちに素直に…か…
何かしていないと胸が苦しい。
夕食も準備しようかな?食べて下さるかな?
なんてウキウキしてしまった。




