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22.公爵家のみなさま(弟ジフリートは思う)

少し時は遡る。

兄上が遠征から戻った日、この屋敷は大騒ぎだった。

あの兄上が大怪我だと言う。

王宮で陛下へ挨拶を済ませ、公爵家の馬車へは乗り込めたらしい。


大怪我とはどの様な怪我なのか。

父上は騎士団が凱旋する出迎えの為に王宮へ行っている。

兄上の姿を見たご令嬢たちが絶叫していたと耳に入って来た。

兄上…どうかご無事で!

ジフリートは屋敷へ戻る兄を今か今かと待ち侘びていた。


★★★


屋敷に戻った兄上は、自分では歩けず、それどころか気を失っていた。

それを見た母上は今にも倒れそうなぐらい、顔色もなく立っている。

兄上と私は母が違う。しかし母上は我が子の様に兄上を愛していたから、その反応は当たり前の事だ。


しばらくすると玄関が慌ただしくなる。

父上だ。

兄上の部屋にいた私と母上は部屋を移動した。そこには「もう助からない」と言う様に首を振る父上がいた。

兄上が助からない⁇そんな事があるものか!

絶望に打ちひしがれている3人は、誰も口を開く事が出来なかった。


すると突然、目の前に3人の人物が現れた。

その中の1人は、兄上から聞いていた、兄上の愛する大切な人、アリサ様だった。

私はすぐに「義姉上」と呼ぶ事にした。


それからの日々は、信じられないぐらい兄上が回復していった。

アパタイトと言う宝石のこと、義姉上が回復魔法、治癒魔法を使えること、これらの事は偶然だったのだろうか?

まだまだ知らない事がたくさんある事へのショックと、目の前で見せられる奇跡には驚かされた。


兄上の目が覚めた時、突然義姉上がいなくなった事には驚いた。

母上は兄上に「アリサさんを連れ戻して来ますからね!母を信じて安心して待っていなさい!」と伝えて出て行った。

あの時の兄上の嬉しそうな顔は忘れられない。


それからと言うもの、私は練習に付き合って欲しいと言って、義姉上をダンスに誘った。先生もいるから、義姉上はメキメキ上達した。

元々のセンスもあったのだろう。夜会でダンスを踊っても問題ないぐらいになっている。

母上はお茶会を頻繁にした。母上の前で恥ずかしい事をしないようにと、侍女長が厳しくマナーを教え込んでいたのは母上の差し金だ。

こちらも優雅にお茶会に臨む様になっている。

一番興味がなさそうだった父上も、義姉上の本好きを知ると、この国の歴史書や貴族年鑑まで渡していたのには驚いた。しかも全て覚えてしまった義姉上には感嘆してしまった。


義姉上は気付いていない。

公爵家の人間が外堀を埋め、逃げれない様にしている事を。


しかしそれ以上に兄上の溺愛のすごさには、正直引いた。今ではもう慣れてしまったが。


1番驚いたのは空間移動の扉を付けた時だ。

魔女様からの快気祝いらしいが、どこまでの人が2人を応援しているのか分からない。

扉について、自分の部屋と義姉上のカフェを繋げると言った時は、流石にみんなで止めた。

父上の「アーノルド、もうしばらく我慢しろ!」との言葉に落ち着き、違う場所に扉を設置した。

父上のあの一言は大きかった。公爵家が義姉上を認めていると言質を取ったのだから。


兄上の日課は、扉を開き「行ってきます」と言い、帰ると「ただいま」と伝える。

起きたら「おはよう」、寝る前には「おやすみ」を言いたいらしいが、そこはやめて欲しいと懇願されたと聞いた。流石に重すぎますよ…兄上。


★★★


そして今、目の前には愛おしそうに義姉上を見つめる兄上がいる。しかも膝に抱いたまま。

もうみんな生温い視線を向けることもなく、通常運転だ。


父上がまず口を開く。

「アリサさんをこの公爵家の一員に迎えたい。

しかし今の段階では難しい。彼女は平民であり、アーノルドは次期公爵だ。しかしアリサさんを他へやってはならない」


「ウィルソン、何があったのです?

私はもう我が娘だと思っていますから、何処かの馬の骨へやるつもりはありませんわ。

でも急にどうしたのです?」


「スイーツ店の事だ。

かなりの利益が見込めるし、帳簿を確認してもらったのだ。理解はできなくても、こちらには何も後ろめたいものはないと言う誠意を見せるために。

しかし彼女は…帳簿のおかしな数字を見つけた。

些細なミスだ。それを見つけた。この子は、底知れない力を持っている。」


「ウィルソン、私とジフリートはアリサちゃんと色々な話をしましたの。アリサちゃんはね、何も望んでいませんわ。お金も地位も。ただみんなが笑顔に幸せになってくれたら良いのだと、そう言っていました。

私はアリサちゃんと本当の母娘になりたい。」


「僕も本当のお義姉様になって欲しいです。」


「アーノルド、彼女を本気で愛しているのなら、手放すのではないぞ。こんなに素晴らしい女性はもう現れないだろう。」


「分かっています。手放す気なんてありませんよ。

それに今の私の身分が邪魔をして一緒になれないのなら、次期公爵はジフリートへ。言い方が悪いですね。昔から考えていたのです。公爵家の跡継ぎはジフリートが相応しい。もうしばらく代理と言う形で今の身分はお預かりしますが」


そう言うと義姉上を愛おしそうに見つめる。

両親は唖然としていた。

僕も公爵になるつもりはないし、今すぐのことではない。ゆっくり話し合えば良いことだ。

今は義姉上の事を考える。義姉上は何者なのだろう?

治癒魔法、回復魔法を使える上に、女性にしては珍しく帳簿にも強い。


大好きな兄上の為にも、義姉上には逃げられない様にしなければならないと、強く誓ったジフリートだった。


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