21.公爵家でやらかしました
公爵様の執務室を後にすると、サロンに呼ばれた。
もう帰りたい。今日は疲れているから。
この時ほど例の扉を使いたいと思った事はなかった。
サロンに入るとカーラ様が
「お話が終わったのなら、次は私とお話しましょうね。」
とすごい圧のある笑顔でおっしゃるので「はい」としか返事が出来なかった。
綺麗な人って迫力が違うよね。
失礼してソファに座らせていただくと、隣にはアーノルド様が当たり前のように座ってくる。近い。
その場にいる、カーラ様、ジフリート様を初め、侍女の方々もにこやかにされているので、もうなんでも良いや〜って気になってきた。疲れているから投げやりです。
しばらくすると執事さんがアーノルド様を執務室に呼びに来た。
「アリサ、父上の所に行ってくるね。戻ってくるまでこの屋敷にいてね。すぐに戻るから」
と、颯爽とサロンを出て行かれた。
カッコいいなぁ〜と背中を見つめてしまっていたようだ。
「義姉上、兄上はかっこいいでしょ。」
ジフリート様が「ねっ!」と言う顔で見つめてくる。
「そうですね。素敵だと思いますよ。」
「そろそろ義姉上、受け入れてもらえませんかね?
まぁいいや!僕が口を挟む事ではないですね。
ところで今日は、スイーツ店を手伝っていたんですよね?楽しかったですか?」
「ええ、とっても楽しかったです。
久しぶりに全身を使った感じで、心地よい怠さです。」
疲れてますアピールをそっと入れてみたのだけど
「どのような事をなさったの?」
前のめりになってカーラ様が尋ねてくる。
この国の皇女様として産まれ、公爵夫人になられたカーラ様にとっては、考えられない世界なのだろう。
そんな方が、こうやって平民の暮らしや生活に興味を持ってくださるこの国はもっともっと発展するんだろうなーなんて、根拠もなく思ってしまう。
「今日はタルトを主に作りました。接客もしたんですよ。小さなお子様も来てくださって、「来たの2回目だよ」とか言ってくれて、すごく嬉しかったんです。
美味しいって言ってくださると、私が作った訳じゃないのに嬉しいですよね。」
興奮してしまった。
「楽しそうね〜。良いわね〜。私も手伝いたいわ。
アリサちゃん、人が作ったものじゃないわよ。アリサちゃんが惜しみもせずに、屋敷の料理人に作り方を教えてくれたんじゃない。だからあのお店のスイーツは全てアリサちゃんが作り出したものなのよ!」
「母上が手伝うのは無理ですよ!」
「分かってるわよ、ジフリート」
とコロコロ笑っている。
可愛らしいなぁと思っていたら、カーラ様が
「義妹もね、食べたいから取り寄せてって言ってるらしいのよ。でも王妃でも特別扱いはしませんってウィルソンが断ったの。
あのお店はアリサちゃんのものだもの。だから貴族が特権を使ってはいけないのよ。」
「えっ、私のお店じゃないです。私はスイーツを皆さんが喜んで食べてくれるのであれば、カフェでチマチマ食べてもらうより、たくさんの方の口に入るスイーツ店で販売してもらえたら良いだけなので。
そんなおそれ多い事、仰らないで下さい。」
「本当にあなたって人は…
でも良いわ。そのうち見てらっしゃい」
カーラ様、なんだか怖いです。
★★★
サロンからの流れで、いつの間にか私は公爵家の皆様と一緒に晩餐をいただいている。
なぜこうなった?
私は早く帰って眠りたいのに。
お食事はとても美味しかった。
前菜、スープ、メイン…etc
でもね、疲れてるから余計に食べれない。元々少食なのもあるけれど。
皆さんはスイーツ店のお話に花が咲いている。
公爵家の財政にも多大なる利益をもらたらすそうだ。
なら良かった。その辺りは興味ない。
私が作ったスイーツで幸せになる方がいるのなら、私はそれだけで嬉しい。
私もこの国に来て、楽しく幸せに暮らせている。
これ以上の事は望まない。
そして限界が来た。
ものすごーく恥ずかしい事に、私はデザートが終わり、そろそろ終了と言う段階で睡魔との戦いに敗れてしまったのだ。
座ったまま眠ってしまったの。恥ずかしい。
そんな姿を微笑ましく見ていた公爵様が口を開く。
「カーラ、ジフリート、先程アーノルドと話した件を話しておきたい。サロンへ移動してくれ」
その言葉で移動をするのだが、アーノルド様は当たり前の様に私をお姫様抱っこする。
少し揺れた感覚がして目を開けてアーノルド様の顔を見つめた私は、ニッコリ笑って「アーノルド様〜」と呟いて、あろう事か胸元に自ら頭をもたれさせた。
そしてそのまま夢の中へ落ちていった。
アーノルド様は「おやすみ」と言って額に優しいキスを落とした。
サロンに移動したアーノルド様は、私を膝に乗せている。でも私は眠っているので分かりません。
「アーノルド、アリサさんを寝かせて来てはどうだ?
今日はよく働いてくれたから疲れているだろう。
その体勢では疲れも取れないと思うが?」
「父上分かっています。しかし今、この屋敷にアリサがいるのです!片時も離れたくありません!」
そう言うとアリサを見つめ頭を撫でる。
その様子に苦笑いをしつつ、話を始めた。




