20.扉が大活躍です
扉が出来てからの私の生活は乱されまくっている。
そう、公爵家の方々に。
朝一、日課のように扉を開けて入ってくるのはアーノルド様だ。
「アリサ、行ってくる」と言って、私をなぜか抱きしめる。
最初こそは抵抗していたが、この扉が悪いのだと諦め、もう抵抗すらしなくなった。
でもせめてもの足掻きとして、絶対にアーノルド様の背中に腕は回さない。回して、もし私が抱きしめてしまったら、取り返しが付かない場所に私自身が突き落とされる予感しかないから。
公爵様もなぜかたまに、アーノルド様をならって?「アリサおはよう」と顔を覗かせる事がある。
その時は大抵、目覚めが悪いのだと言って私が淹れたコーヒーを飲んで出勤していく。
お時間がある時は、時間になるまで色々なお話をしてくださる。すごく勉強になる事ばかりだから、公爵様が来られるのを密かに楽しみにしてたりする。
おかげで私はすごく早起きになってしまった。
基本、朝はゆっくり、ダラダラしていたいのになぁ。
そうあの扉が出来た頃、愚眠を貪りウトウトしていた瞼を開けた先に、キラキラしたアーノルド様のお顔があった!
「ギャー!何してるんですかー!!」
「ん?挨拶をしに来たら眠り姫が寝ていたから見つめていたんだよ。」
「早く登城してください〜」
と追い出したけれど、案の定、遅刻したらしい。
私が悪いわけではない!アーノルド様が全面的に悪いのだ!
でも遅刻はダメだ!社会人にとって遅刻は天敵よ!ブラック企業で勤めた社畜の私だから、アーノルド様を遅刻させてはならないという使命を勝手に背負っている。
だからアーノルド様が遅刻しない為にも、毎朝、早起きしている。
そんな慌ただしい毎朝だから、日中はお昼寝を〜と思っても、新しいお菓子案を思いださなくてはならない。
思い出そうと思っても思い出せない。何かをしている時に「あれならこの世界でも作れるかも!」と思い付くことが多い。
ならお昼寝しても大丈夫!!と言うわけにはいかない。
カーラ様からお茶に誘われたり、ジフリート様からダンスのお誘いを受けたり、そして何故か最近は公爵様から執務室に呼ばれたりする。執務室に呼ばれるのは…私が墓穴を掘ったからだ。
私は日本にいた頃、簿記の資格を持って仕事をしていた。
その日、スイーツ店がオープンして数日経った頃、公爵様と一緒にお店を訪れた。
本当ならもっと足蹴く通うべきなのかもしれない。でも私はお菓子のレシピを提供しているだけであって、作っているのは公爵家の使用人の方々だし、経営に関われる訳でもない。
できれば息を潜めていたい人間なので、それで良かったのに公爵様にお誘いを受けてしまった。
もちろん例の扉から…
「アリサ様、公爵様よりスイーツ店視察へのお誘いでございます」
執事さんが顔を出したので、お断りも出来なかった。
馬車に乗って訪れたスイーツ店の前には行列が出来ていた。
中に入ると、大忙しだ。お手伝いしなければ!と血が騒ぐ。
公爵様にご挨拶だけして、スイーツを作ったり、接客のお手伝いをした。昔を思い出すぐらい忙しかったが、充実感が全く違う。
心地よい疲労感に満たされ、帰り支度をしていると
「お帰りはシュガー公爵家へと伝言をお預かりしております。」
と言われた。
公爵様、用事があるから私を呼んだのよね。何の用だったのかしら?
失礼なことをしてしまったし、シュガー公爵家へ向かう事にした。
お屋敷に着いて玄関ホールへと足を踏み入れると「お帰り〜」とアーノルド様が満面の笑みで迎えてくれる。
「ジフリートから知らせが来たんだ。今日はアリサが屋敷に帰ってくると。仕事そっちのけで帰ってきたよ。」
「アーノルド様、お願いでございます。お仕事はしっかりして来てくださいませ。」
「分かった。明日は頑張って、今日の分も片付けてくる。今日は許して欲しい。嬉しくてだな…」
この人、大丈夫か⁇と心配になった。
「で、アリサ、お帰り」
「はい、ただいま戻りました」
「幸せだ〜」と言うなり、抱きしめてくる。毎朝抱きしめられているので、これぐらいは慣れたものだ。私はもちろん腕をアーノルド様の背中に回したりしない。
しかし私が見た先に、カーラ様とジフリート様の生温い笑顔があった。ものすごく見られてる。
その後、アーノルド様に解放され、公爵様の執務室に向かう。
「お疲れだったね。従業員たちが大変戦力になったと喜んでいたよ。本当に君と言う子は、想像できない事をするね。」
と褒めてくださったのかな?
「今日、アリサを店に連れて行ったのは、どれほど人気店に上り詰めているかを自分の目で見て欲しかったのと、これを見てもらいたかったからだ。
興味はないと思うが、念の為に確認だけして欲しい。オープンから昨日までの売り上げだ」
「私が見てもよろしいのですか?」
「君には見てもらうのが筋だと思う」
そう言われて帳簿に目を落とす。
すごい利益が出ている。まぁ開店してすぐだからって言うのもあるよね。でもこんなに利益が出るなら、新しいお菓子も思い出さなきゃいけないと気が引き締まる。
「あれ?公爵様、ここの数字おかしくないですか?」
思わず指摘をしてしまった、この一言がまさしく墓穴だった。




