18.どんどんスローライフが遠ざかる
家に帰ると、しばらく人が住んでいなかったと思えない程きれいなままだった。
一度休憩してしまうと動きたくなくなるから、一気に気になる事は片付けてしまう。
掃除も軽くするだけで良かった。
久しぶりに夕飯を作り、1人でゆっくり過ごす。
これよ、これ!私が異世界に来た理由は、のんびり過ごしたかったからよ。
アーノルド様が凱旋されてから今日までは、私にとって怒涛の日々だった。
ゆっくりなんて出来なかった。
でもあの時は必死だった。アーノルド様も無事に復帰されたし、私は以前の生活に戻れた。
いや違う!以前の生活に戻れてない!
お店を始める事になってしまった。
お店をオープンとなると、お菓子の種類も増やさなきゃいけないわよね。
自分でする事増やしてどうするのよー!
頭を抱えてしまった。
でも公爵様にお任せした訳だし、私は最低限の事だけすれば良いのよね?
自分のこの責任感の強さと、投げやりにできない性格が嫌になる。
その時、世界が白くなり神様が現れた。
「久しぶり〜。僕のアリサ!」
「いつから神様の物になりました?記憶にないのですが。
呼び方は、神様で良いですか?レオン様?」
「僕の名前呼んでくれるの???レオンで良いよ!
ばあさんなんて、レオンって呼び捨てだしさ、大好きなアリサに呼び捨てされたい〜」
「じゃあ、レオン様と呼ばせていただきます」
「様は付くのね。まぁいいや!」
そう言うと私の横に座って頭をガシガシ撫でてくれる。
大人になると頭を撫でてもらう事なんてないし、なんだか嬉しい。心が温かくなる。
「アリサ、よく頑張ったね。」
嬉しい。そして褒めてもらえるなんて嬉しすぎる。
「で、アーノルドの事好きなの?」
「えっ?アーノルド様?また突然の質問ですね!
う〜ん、どうなんですかね?人として好きですよ。」
「そっかぁ。外堀作戦、全然上手くいってないじゃん。今から頑張るのかな?」
「何かおっしゃいました?
だってアーノルド様は公爵家の方ですよ。私の魔力が強かったってだけのご縁ですし、なんだか流されている感も否めませんが、ちゃんと分別は持ってますから、レオン様は心配ご無用です!」
「ん⁇心配?
あー、僕が貴族との交際を許さないとか思ってる?好きにしたら良いよ」
「交際!!
またハードルの高い事を言わないでください。私はのんびり1人で過ごすのです。」
「ふ〜ん、まぁどうでも良いけどね。僕はアリサの保護者代わりかな?
なんかアリサはのんびり過ごしたくてこっちの世界に来てくれたのに、周りは騒々しいよね。ごめんね。」
「レオン様の責任ではないですし、私が蒔いた種っていうのもありますから、気にしないでくださいね。」
「アリサは良い子だね〜」
この人、世間話をしにきたのか?
「アリサ、コーヒー入れてよ。
シュガー公爵家へ行ってる間、憩いの場がなくて、僕、めちゃくちゃ働いたんだよ!凄くない⁇」
「いつも働きましょうよ!
レオン様ってここにサボりにきてるんですか?」
「う〜ん、サボりはちょっと、アリサのご機嫌伺いと、後は…本当に用事がある時?
今日は用事があって来たんだ。まだ時間があるからちょっと休憩ね。」
神様のお仕事内容は分からないけど、この人大丈夫⁇
それからは2人、同じ空間にいるのに、喋る事もなくボーッと過ごしていた。
突然レオン様が口を開く。
「アリサ…もう一つ扉を付けるとするとどこが良い?」
何ですか?扉って⁇説明は…するつもりないみたいだな。
扉…扉…扉…
どこかへ繋がるの?それとも納戸みたいなもの⁇
どっちにしてもカフェはマズイのかな?
「何の為の扉か分かりませんが、カフェから見えないところにお願いしたいです。」
「うん、そうだね。何も説明してないのにアリサは凄いね。じゃあ失礼しまーす。」
と私の生活空間へ入って行くレオン様。
考えたらここでの寝起きより、公爵家での寝起きの回数が多い事に苦笑する。
今日からは自分だけの城で、思いっきりのんびりするぞ!
「この辺りが良いかな?」
と言って、壁に手をかざすと壁が歪み扉が現れる。
レオン様って神様なんだなーと思った瞬間だ。
「アリサ、この扉は空間移動の扉だよ。ある一箇所にしか繋がっていないけどね。賑やかになるだろうけど、楽しんでね。
じゃあバイバーイ」
と言ってすぐに消えてしまった。
⁇空間移動?何の為に?アポロおじさんのお店に繋がっていたらすごくありがたいけど、その為にしてくれたなら説明がつかないし。
開けてみる?いやいや、とんでもない所に繋がってたら怖いから、放っておこうと思った時、ガチャリと扉が開いた。
「えーーーー!!」
絶句する。目の前に現れたのはアーノルド様だった。
「ただいま。遅くなったけど、陛下への挨拶も終わり、騎士団へも顔を出してきたよ。」
「おかえりなさいませ」
ちがーう!何故すんなり「おかえりなさいませ」って言葉がでるんだ。ただいま=おかえり 習慣って怖いよ。
挨拶はしたものの、目が点の私に対してアーノルド様が「何も聞いてない?」と問いかけるので、コクコクと頷いた。
「説明するよ」と仰ってくださったのでカフェへ移動した。
「アリサ、今って夜だよね?カップが2つ。誰か来てたのかな?アリサがここへ戻ったのは今日。すぐに会わないといけない相手って誰?」
めちゃくちゃ怖い。
また私が怒られるの⁇理不尽よ!
誰とお茶しようが良いじゃない!
でもブリザードが背中に見えるアーノルド様には逆らえない。
「え〜っと、扉を作った人です。扉を作って消えました。」
「男?女?」
「男の方?です」(神様に性別ある?)
「扉を作ったって、その人誰⁇」
腹立ってきたーーー!!
「アーノルド様!どうしてそんなにイチイチ聞いてくるんですか!!私が誰と会ってようが、どこで、何をしていようが関係ないですよね!!」
「アリサ!!何を言ってるんだ!!女の子1人の家に夜、男がいるって、心配にもなるだろう!!何にも分かってないんだな!何かあったらどうするんだ!」
「アーノルド様も今、ここにいるじゃないですかーーー!!」
「俺はいいの!!その為の扉なんだから!」
⁇なんでだー⁉︎意味がわからない。
もう何か言うのも疲れてきた。考えるの放棄したい…




