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17.今度こそ失礼します

私は今、公爵様の執務室にいる。

私が用事があったはずなのに、立場が逆転して、目の前のテーブルには書類が広げられている。


「どうかな?私の提案は?受け入れてもらえるだろうか?」


公爵様の提案と言うのは、公爵家が出資して事業を立ち上げる事だ。

その内容は私が作るお菓子の販売になる。

正直言って難しい事は分からない。みんながただ喜んで、幸せになってくれたら良いだけだ。

私は新しいお菓子を作ったりするだけで良い。

公爵家の料理人さんはみんな今、私が作っているお菓子は忠実に再現できるようになっている。

だから大量生産も可能だ。

しかし2つだけ引っかかる事がある。

1つ目は、なぜここまで良くしてもらえるのか?

2つ目は、ゆっくり・のんびり・スローライフができなくなる事だ!


考え込んでいる私を我慢強く待ってくださる公爵様。

どうしよう…全くどうしたら良いか分からない…


「あの…正直申し上げて…どうしたら良いのか分かりません。

お任せしてもよろしいですか?

ただ1つだけお願いがあります。

アポロおじさんのお店だけは、悪いようにしないでください。これだけ王都で私の作るお菓子を広めてくださったのはアポロおじさんのお店なのです。」


それだけは伝えておかなければと言葉にした。


「君と言う子は、自分の事より相手の事を考えるんだな。本当に不思議な子だよ。

ではこの事業計画は実行に移すとしよう。

アリサさん、君に不利なようにはしないから安心してくれ。」


それだけ言うとお仕事に戻られてしまった。

あれ?肝心な事を伝えてないよ。

私、家に帰れないのかしら⁇


★★★


その後、お店の計画を知ったカーラ様にお茶に誘われた。


「主人とね、色々考えていたのよ。

だってあなたは私の息子の命の恩人。そしてこの屋敷にも長い間いてくれたでしょ。もう家族も同然よね。私も娘だと思っているのよ。

ジフリートなんて、「お義姉様」なんて呼んで、早い段階から懐いていますもの。

まぁあの子の「お義姉様」発言はアーノルドを思っての事でしょうけど。」


「奥様、私の方こそ大変お世話になりました。

アーノルド様がお元気になられたのは、確かに私の魔力の力が強かったかも知れませんが、それだけではありません。アーノルド様の「生きたい!」ってお気持ちが強かったからです。」


「ふふふ、そうね。

でも「生きたい!」って強く思う理由は何かしらね?」


と首をわざとらしく傾げる。

大変可愛らしい仕草だ。


いや、この超鈍感の私でも薄々アーノルド様からの好意は気付くようになった。

アルの様に口に出してハッキリ言って下されば、もっと早い段階で気付いて距離を取ることもできたのに…

貴族の礼儀なのか?思わせぶりな言い方しかないアーノルド様に、超鈍感な私の組み合わせだ。

あー、もう逃げたい。いやいや、逃げるもなにも貴族と平民だ!しかも相手はこの国一の公爵家!!

なーんだ、何も起こるわけないじゃない!

勘違いも甚だしい。

今、アーノルド様は私の魔力とこの国のご令嬢方と違う所に興味を持っているだけだ。


「あの…奥様、先程は事業の話で終わってしまって、旦那様にお伝え出来なかったのですが、今日、アーノルド様は王宮へ行かれました。ですので私はこちらを辞したいと思っているのですがよろしいでしょうか?」


それを聞いた奥様はわざとらしく、「あら」と言って口元を押さえる。


「そうねぇ。アリサさんには大変お世話になったし…良いわよ。でも1つアーノルドの母からのお願いを聞いてもらえないかしら?」


うっ、あざとい。

この国の方々はわざとなのか、あざとい行動をする。

エバンズ殿下、ジフリート様、そしてカーラ様。

そして断れない私である。


「アパタイトの話は聞いたわよね?

貴方の魔力がアパタイトを通じてあの子へ送られていた。でもね、それはあの子が贈った物だからあの子に送られた。微弱だったけれど。」


「はい、存じております。

私も不思議に思って色々勉強してみました。魔力はまだまだ不思議な事がたくさんありますね。」


「そうねぇ。

ねえ、アリサさん!アリサさんからあの子に快気祝いを贈ってくれないかしら?出来たらアクセサリーが良いわね。

だって、元気になったと言っても、まだ全快ではないからあなたの魔力を送って欲しいのよ。ねっ」


とウインクされた。

あー、あざとい。もうカーラ様が素敵すぎて、私には断る答えなどなかった。


★★★


私がアーノルド様にお仕えする様になり、4ヶ月ぐらい経っている。そして身一つで公爵家へ行ってしまったので、衣食住全て公爵様にお世話になってしまった。なので家へ帰る時も身一つだ。気楽な物だ。


まずは宝石店へ行き、帰りにアポロおじさんに会って、懐かしの我が家へ帰ることに決め、王都内を歩き出した。


宝石店へ入ると、椅子に座っていたおじさんが「いらっしゃい」と振り返り、私の胸元のアパタイトに目をやる。

あっ!出したままだったと思い、後ろを振り返り服の中へ入れる。

もう一度おじさんの方へ体を向けると、ニッコリ笑って「お嬢さん、何かお探しですか?」と声を掛けてくれた。


理由を言える範囲で伝えると「それならお嬢さんの瞳と同じ色のものを贈りなさい。」とグイグイ黒い石を勧められる。

それは流石にないでしょ〜と思っていたが、石に目をやると私の目に、1つの石が輝いて見えた。これが縁と言うものだろうか⁇


「あの…これ…」


とその石を指さす。

その石はオニキスで、成功と言う意味を持ち、自己防衛の石と言われているらしい。

これしかないと思い即決した。


おじさんは

「男性への贈り物だね。素敵な仕上がりにしておくから後で取りにおいで」と言ってくれた。

宝石店の店主は、アリサの胸元のアパタイトを見た瞬間、全てを悟っていた。

「あの子が騎士団長の愛する子か。独占したくなる訳だね。」と。


この国は全てお見通しなの⁇


★★★


アポロおじさんはホクホク顔だ。

反してアルは珍しく機嫌が悪い。


触らぬ神に祟りなし!!

早々に失礼しようとすると、アポロおじさんが大金を渡してきた。

「アリサちゃんへの支払いだよ。もうね、ワシの老後は安泰じゃい」

顔がニヤけっぱなしのおじさん。なんだか可愛い。

アルとは関わらない様に店を出た。


まだ取りに行くには早い時間だと思って、ゆっくり歩きながら宝石店へ戻る。

すごく素敵なペンダントになっていた。

男性用にチェーンは太くてとっても素敵。


「ありがとうございます」と伝えると、「少し良いかい?」とおじさんは私を引き留めて、昔からの宝石に関する言い伝えを教えてくれた。


「騎士団長様は大怪我を負われた。アパタイトは役に立ったかい?」

と問われ、「はい」とだけ答えた。


その後、支払いを済ませて、大切にペンダントの入った箱を胸に抱え、久しぶりの我が家へ急ぎ帰って行った。


胸に抱えていた事により、オニキスとアパタイトが共鳴し、より強い力を宿した事は偶然だった。

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