15.出戻るんですか⁉︎
ブックマークありがとうございます。
公爵家を後にして、アポロおじさんに挨拶に行く道中、やっぱり魔法って不思議だぁと思う。
あのペンダントはいったいなんだったのか?
そんな事を考えているといつの間にか、おじさんのお店の前に立っていた。
「アポロおじさ〜ん、ご迷惑をおかけしましたぁ」
「アリサちゃん!もう良いのかい?理由はだいたい聞いたよ。口外してないからね。」
誰に何をどこまで聞いたのだろう?
でもまぁ黙っておくに越した事はないと思い、曖昧に笑って誤魔化す。
アポロおじさんにしては珍しく、悪〜い顔をして、
「ところでアリサちゃん、この数日間、クッキーにスコーン、タルトに対する問い合わせがすごくてねー。その上、売り上げがお菓子を置く前程度に戻ってしまったんだよねー。さてアリサちゃん、どうしてくれるのかな?」
「え〜っと、頑張って新しいお菓子を作る事と、クッキーとスコーン、タルトを大量に持ってくるって言うのでいかがでしょう?」
「はい、決まり〜。約束だよ!」
おじさんて、悪徳商人みたいだと思っていると、後ろからギュッと抱きしめられた。
そんな事をされた事ない私は固まる。
「アル!何をしてる!」おじさんが怒鳴る。
「アリサちゃんだ〜。本物だよね?もう会えないと思ってたぁ。アリサちゃん、やっぱり結婚しよ!アリサちゃんに会えないと思うと、もう死んでしまいそうだったんだ。結婚してさ、一緒にこの店をしていこうよ!お願いだよ〜。」
「もうアルったら大袈裟なんだから。ありがとう。心配してくれたのよね?
でも結婚は…無理!!」
「え〜、諦めないからね!」
こんな感じで話していると元気が出てくる。
しばらくおじさんとアルとワイワイ話をして、お菓子を作る約束をしてしまったので、大量の材料を注文する。
これからしばらくはお菓子作りで忙しくなる。
そろそろ帰ろうかと思っていると、一台の馬車がお店の前に停まった。
中から降りて来たのは、公爵夫人のカーラ様だった。
「アリサさん、屋敷へ戻りましょうか?」
え〜、出戻りですか⁇
「アーノルド様になにか⁉︎」
「いいえ、今の所、あの子に変わりはありません。
さぁ、アリサさんかえりましょう」
公爵夫人直々のお迎えならば戻らないわけには行かない。
「はい」と返事をかえすと、「アポロさん、アリサさんの荷物は公爵家へ届けて下さい」
そうカーラ様は言って、馬車へ私を伴って乗り込んだ。
公爵家へ着くまでに色々な話をした。
アポロおじさんのお店で売っているお菓子の作り手が私だとバレていたのには驚いた!!
以前、アーノルド様にお土産で渡したシフォンケーキを食べた時に気付いたらしい。
それだけ私のお菓子のファンだと言う事には感動したが、なぜ私は馬車に乗っているのだろうか⁇
★★★
公爵家へ着くと、執事さん初め、皆さんがニコニコと出迎えてくれた。
ジフリート様に至っては、「お義姉さま、おかえりなさい」と抱きついてくる。
そういつからか私は「お義姉さま」と呼ばれていた。
私は姉のいないジフリート様がお姉さん欲しさに「お姉さま」と呼んでいるのだと微笑ましく思っている。
特に公爵様もカーラ様も咎めないから良いのだろう。
ジフリート様に手を引かれ連れて行かれたのはアーノルド様のお部屋だ。
数時間前に失礼したはずなのに、また足を踏み入れる事になるとは思わなかった。
お部屋にいらっしゃった公爵様に頭を下げる。
「先程は挨拶もせずにお屋敷を辞した事、大変申し訳ございませんでした」
「いや、それは構わない。ちゃんと言伝も聞いている。
アリサさん、貴方には大変お世話になった。
それに大量の魔力を使わせてしまった事も申し訳ない。」
「そうなんですか?魔力に関しては分からないんです。大量に使ったかもしれませんが、自分では分かってないし、感じてないので気になさらないで下さい。
それにお世話になったなんて、頭を下げるのもおやめ下さい。
私はアーノルド様を助けたくて、私自身がしたかった事です。むしろ私のような者を公爵家に置いて頂き、アーノルド様のお側に仕えさせていただいた事に感謝しております。」
公爵様含むその場にいる人みんなが目を丸くしていた。
変な事言いましたっけ⁇
しばらくして公爵様が話し始めた。
「そう言われるとは思わなかった。
いやいやアリサさんは…不思議な方ですな。
ではアリサさん、私たちの願いを今一度叶えて頂けませんかな?
もう少しアーノルドの側にいてはもらえませんか?アーノルドは目は覚めたものの、まだ本調子ではない。1日でも早く騎士団へ復帰するのがこの子の願いだと思うのです。」
「それは構わないのですが、1つだけワガママを聞いて頂けますか?
実はさっき約束をしてしまった事がありまして、厨房をお借りしたいのです。でもアーノルド様を最優先しますので!」
私の願いはすんなりと聞き入れられた。
なんだかすんなり過ぎて気持ち悪いぐらいだ。
「アリサ…」
アーノルド様の声が微かに聞こえた。
公爵様が場所を空けてくれたので近くへ行き、顔を覗き込むと僅かに笑顔になった気がした。
アーノルド様が手を動かし、手の中のペンダントを見せてくると、微かに輝いていた光はなくなっていた。
魔力を使い切ったのだ。
ペンダントを受け取り、アーノルド様の手を取るとしばらくしてさっきよりしっかりした声で「アリサ」と呼んでくれた。
私の魔力ってすご〜い!!と思う反面、涙が出る。
アリサって呼んでくれてるー。
「アーノルド様、大丈夫ですか?痛いところはありませんか?」
「大丈夫だ。でも手を握っておいて欲しい」
「分かっています。魔力をいっぱいいっぱい取り込んで元気になって下さいね!」
そんな私たちを微笑ましく眺めて、ソッと皆さんが部屋を出て行かれたのには気付いていなかった。
なんだか私、公爵家の皆様の願いで、出戻ってしまいました。
もうしばらくアーノルド様のお側に仕えます。




