13.シュガー公爵家
豪華な部屋にいた人達は驚いてこちらを振り返る。
「誰か!この娘をアーノルドの元へ連れていきな!」
「早くしろ!私の命令だ!」
一番偉そうな男性が声を発すると、そばに仕えていた執事らしい方が「こちらへ」と案内してくれる。
私はおばあさんを見た。
「すぐに行くんだ。あとは任せたよ。
あー、レオン、あんたもついて行きな。余計な事はするんじゃないよ!」
「はいはい、言われなくても何にもしないよ。僕はアリサに必要な事だけ伝えれば帰るよ。暇じゃないんでね」
神様にも名前があるんだな、と思うけれど、今はそれどころではなかった。
部屋にいる方々に頭を下げると、執事さんに着いて行った。
★★★
アリサが居なくなった部屋では人払いがされ、魔女のサジェ、公爵、公爵夫人、アーノルドの弟のジフリートの4人になった。
シュガー公爵であるウィルソンが跪くと、夫人のカーラ、息子のジフリートもならって跪く。
「偉大なる魔女、サジェさまにおかれましては…」
「ウィルソン、そんな挨拶はいらないよ。
アーノルドの話をしようか。」
サジェがピシャリと遮る。
ウィルソンからアーノルドの容態をきくが芳しくない。
カーラは泣き出した。
「あの子は…助からないのでしょうか?
サジェ、どうかあの子を、アーノルドを、私の子を助けてください」
「その前にウィルソン、さっき私が連れて来た子を、疑いもせずにアーノルドの所へ行かせてくれて感謝するよ。」
「いえ、貴方様のなさる事に間違いはございません」
「ちょっと疑うことも覚えた方が良いけど、今回は感謝するよ。では話をしようか。」
と言うとソファに座り、3人にも座るよう促す。
「さっきの子はアリサ」とサジェが言うと、ジフリートが思わず「兄上の…」と呟く。
サジェはジフリートに向かいクツクツ笑う。
「アリサはね、回復魔法、治癒魔法を使える。
陛下にも内緒だよ。私から口止めされていたとバレた時は言えば良い。
アーノルドはね、あの子に自分の瞳の色のペンダントを贈っている。その意味は分かるね。
今は身分とか言うんじゃないよ!」
公爵と公爵夫人は、アーノルドに好きな娘ができた事は嬉しいが、次期公爵夫人になると…と複雑な気持ちになる。
「アリサはね、高価なものを着けられないとずっと箱にしまったままだった。
私はアリサにそのペンダントを見せてもらった時驚いたね。アパタイトだったんだ。
アパタイトは絆を強める・繋げると言われている石だ。
それをアーノルドがアリサに贈った。
そしてアーノルドは激戦の地にいる。
アリサにアーノルドが嫌いでないなら着けるように伝えたさ。アリサは素直に肌身離さず着けていた。これはあの子の思いだね。」
そこまで話すと、出されたお茶をひと口飲む。
「ウィルソンには私が言いたい事が分かったみたいだね。
そう、アーノルドをあの子の魔力が守ったのさ。
あの子の魔力もまだ完全なものではない。本来ならアーノルドは屋敷に生きて戻れなかったかもしれない。
あの状態でも戻れたのは奇跡、いや、あの子のおかげだよ。
もちろん公爵家としての立場もある、アーノルドの気持ち、アリサの気持ち。
でもね、しばらくアーノルドが目を覚ますまでは、アリサを側に置く事だね。」
さて話は終わったとばかりにサジェは立ち上がる。
「あの…サジェ…」
とか細い声でカーラが呼び止める。
「アーノルドは助かりますよね?」と。
「あの子に任せる事だ」
それだけ言うと立ち去った。
「父上、母上!アリサ様は兄上の想う方です。」
そうジフリートは強い眼差しで訴える。
「分かっている。今は任せようじゃないか」
「あなた、アパタイトと言うのは…?」
とカーラが夫に聞く。
「ああ、昔からの言い伝えだ。
それぞれの宝石に意味があるのは知っているな。
昔からの言い伝えだが、その意味する事が現実と繋がっていると。
今回の場合、アーノルドは偶然自分の瞳の色であったアパタイトを愛する人へ贈ったのだろう。どう言うつもりだったかは本人に聞くしかないが、まぁ独占欲であろうな。
それを受け取った相手もまた、たまたま治癒魔法、回復魔法を使えるアリサ殿だった。
アリサ殿がアパタイトを身につける事により、贈り主であるアーノルドへ魔力を送っていたのだと思う。
全ては偶然に過ぎない。しかしその偶然により、アーノルドが一命を取り留めたのは事実だ。」
「そんな事が…アリサ様に感謝しなくてはなりませんね。申し訳ないけれど、アーノルドが目覚めるまではここにいて頂きたいわ。」
「父上、母上、2人は運命の相手ですよ!
僕は2人の…いえ、アリサ様はどう思われているか分かりませんが、兄上の味方です」
公爵と公爵夫人は、ジフリートの強い思いに苦笑しながら「アーノルドを見に行こうか」と部屋を後にした。




