12.緊急事態です
ご令嬢方はアーノルド様の姿をみて悲鳴を上げられている。
「アーノルドさま〜」
と言う声が度々聞こえてきていた。
「アリサちゃん、涙…」
と横にいるアルがさっとハンカチを差し出してくれた。
「ありがとう。涙?なぜかしら⁇」
と強がってみるものの、アルは悲しそうな顔で「泣きたいなら泣きなよ」と背中をさすってくれた。
優しさが余計に辛い。
「かなり酷い怪我なのかしら?」
「団長は強い!他の騎士も怪我が酷そうだし、多分あの人の事だから、最前線で真っ先に飛び出していったんだろうな。しばらくは動けないかもしれない」
アルの言葉をボーッと聞いていた。
その後、本だけは返さなければと思い歩く。
送ると言うアルには丁重にお断りした。
図書館へ向かう間もアルバート様の話題、騎士様方が今回は怪我人が多かったなどの話ばかりが耳に入ってくる。
本を司書さんに返却すると「今日は借りて行かないの?」と言われたが、そんな気持ちになれない。
気付けばヨロヨロと王宮の入口前に立っていた。
たくさんの人が詰めかけている。
陛下へ挨拶を終えた騎士様達が出てくるのを、家族や恋人が待っているようだ。
アーノルド様を一目見ようと待っている方もいる。
私は家族でもなければ恋人でもない。
待ってもし会えても、何が出来るわけでもない。
またヨロヨロと歩き出した。
どうやって家まで帰って来たのだろう。
カフェのカウンターに座っていた。
コーヒーでも飲んで気持ちを整理しよう。
私はアーノルド様の事は…好きだと言い切る自信はない。だって、そんなにアーノルド様の事を知らないのだから。
でも気になる人。
アーノルド様には私のような娘がチョロチョロするのは迷惑かもしれない。
お礼だと言ってペンダントを下さるぐらいだから、迷惑だとは思われていないのかもしれない。
もう気持ちが分からない。
★★★
目の前が白くなる。
「アリサ、久しぶり。
うわ〜、このどんより空気はなんだよー」
「神様、お久しぶりです。
今日は…帰って欲しいです。」
「ひっどいなー。」
その時、カフェの扉が開いておばあさんが入ってきた。
「おやおや、お前さんも来てたのかい」
「サジェのばあさんも来たのかよ」
知り合い?神様とおばあさんが⁇
クツクツと笑うおばあさんが自己紹介をしてくれる。
「はじめましてではないね。
私は王宮の奥深くに住む、魔女のサジェ。アンタをこの坊やに頼んで転移させた本人さ。」
えっ⁉︎頭がついて行かない。
私が座って飲んでいたカップを持ち上げ、床に叩きつける。
バリン!と言う音とともに、カップは粉々に割れてしまった。
「アリサ、手をかざしてごらん」
言われた通りに手をかざすと、粉々の破片が動き出すが、それは一瞬で止まった。
「まだ原状復帰は開花してないね。それでもまぁ合格だ」
「ばあさん、あんた原状復帰をアリサに求めてるのかよ。無茶苦茶だな。まぁ分からなくはないけど。
で、なぜこのタイミングでアリサの所に来たんだ?」
「あんただって、なぜこのタイミングでいるんだい」
「僕は、アリサを慰めに来たんだよー」
と横にくっ付いてくる。
「神が何を言ってるんだい。神が人間に恋慕するのはご法度だよ。」
「分かってるって。アリサを僕のものに…なんて思わなくはないけど…思わないよ」
「何を言ってるんだか。とっとと帰りな!」
神様は肩をすくめたものの、帰る気はないらしい。
サジェおばあさんもそれ以上は言わなかった。
そして私に向かって話しかけてくる。
「アリサ、あんたはアーノルドを助けたいかい?
アーノルドはね、私にとって特別なんだ。でも私は王宮の魔女。私が助ける事は出来ない。
今、アーノルドは非常に危険な状態でシュガー公爵家にいる。
アーノルドは騎士団長らしく陛下へ挨拶をし、自分の足で公爵家の馬車へ乗り込んだ。その後…生死を彷徨っている。
あんたは、回復魔法、治癒魔法を貪欲に学んできたね。
どうだい、アーノルドを助けたくないかい?」
「助けたいです!私が助けられる可能性があるなら、アーノルド様のお側に行きたいです」
「よし分かった。すぐに準備しな!
いや、もういい!一刻を争う!
坊や私たちをカーラの元へ送りな」
「ばあさんが自分でしろよ」
「年寄りに魔力を使わすんじゃないよ!」
「はいはい」
と神様が返事をすると、すごく豪華な部屋に移動していた。




