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11.会えない半年

アーノルド様とお出掛けしてから半年が経とうとしていた。

この半年間、アーノルド様はカフェに来てくださらない。なのでペンダントも本当にいただいて良いのか悩み、着けられないままでいた。


私もまたこの半年、それなりに忙しくしていた。


アルは配達に来てくれて、帰る時には私が作ったお菓子を持って帰ってくれる。


最近では、王都の流行になってるらしく、大量に作って欲しいとお願いされる。

あれはタルトを作ろうと閃いて、それから数種類のタルトをお店に置いてもらった辺りからだ。

タルトなら運ぶ時に形が崩れないから良いかな?と思ったのがきっかけだ。

今は季節毎にタルトを作っても良いかもと考えている。


そんな日々を送っているので、私の仕事はカフェではなく、スイーツ作りが主になっていた。


そうそうアルの困った所は、配達に来る度に

「付き合わない?」

「お付き合いしてください」

「結婚してください」

「アリサが好き過ぎて困ってるんです」

と嘘か本当か分からないアプローチをしてくる事だ。

正直、日本にいた時は男性を知らないし、お付き合いすらした事ない。その前に異性に対しての恋愛感情すら分からないぐらいなのだ!

アルの事は友達として好きだし、好意は持っている。

でもこれが恋愛感情なのか⁇私にはイマイチ分からない。

それにアル自身、本気か分らないのだから。

変な期待をしてはいけない。


それからたまにお茶をしに来てくれるアポロおじさんが、「アリサちゃん、店を構えたら?」と言ってきたのにはビックリした。

それ程までに繁盛してるらしい。ありがたい。

お陰で私はお金持ちだ!これには泣きたくなる。

もうお金で振り回される日々は送りたくない。

お店に対する返事は待ってもらっている。急なこと過ぎて、何にも考えられないから。


★★★


そんなある日、カフェにたまに寄ってくれるおばあさんが私がペンダントの入った箱を大事にしている事を知って見せて欲しいと言ってきた。


たまにこうやって小さな看板を見つけて入って来てくれるお客様がいる。

でもみんな、なにか私にヒントをくれるのだ。

人生のヒント、魔法のヒント、お菓子のヒントに生活のヒント。

人とのご縁を大切にしなければいけないと思う。


私から箱を大切に受け取ったおばあさんが


「いやいや、いつもその箱を大切そうに扱っているのになぜか中を見ようとしないからね。ずっと何が入っているのか気になっていたんだよ。開けて良いかな?」


「どうぞ。とても綺麗なんです。」


箱を開けたおばあさんは優しい笑顔でこう聞いてきた。


「これはプレゼントかい?」と


「ある方からいただきました。多分、とても高価な物だと思います。でも私には似合いません。こんな素敵な物」


「おやおや、随分と自分を卑下しているんだね。

この石はアパタイトだね。知ってるかい?アパタイトには絆を強める・繋げると言う意味があるんだよ。

それにあんたの言うように高価な物だ。

これは着けてあげないとかわいそうだよ」


「絆を強める・繋げる…」

呟いてしまった。


「送り主は何を思ってこの石を贈ったんだろうね?」


私は思い出す。

王立図書館へ行った日、私のワンピースを見てアーノルド様は自分の目の色と仰った。


「瞳の色…」


「おやおや、これは贈り主の瞳の色なのかい?

随分と粋な事をするね、贈り主は。

まぁ余計に着けてあげないといけないね。相手を嫌いでなければ」


と言われた。


「嫌いでなければ…」


アーノルド様の事は嫌いではない。会えなくて寂しいとも思っている。


「わかりました。着けます。ありがとうございます。」


おばあさんに頭を下げる。


おばあさんに言われた日から、毎日ペンダントを着けている。でも似合わないから服の中に入れて隠している。

アーノルド様に会えなくても、そこにアーノルド様がいるような気持ちになるから不思議だ。

もっと早くからこうしていれば良かった。


★★★


アルが荷物を届けてくれた日、ちょうど王立図書館へ本を返しに行きたくて荷馬車に同乗させてもらって王都へ向かっていた。

たまに荷馬車で送ってもらう事もあったから、今日もお願いした。


「アリサちゃん、今日はちょっと早めに街に戻りたいんだ」


と、配達に来るなりアルは言っていたので、私も早く荷物を持って急いで荷馬車に乗り込む。


「アル、何かあるの?」


「あれ?知らなかった?

隣の国といざこざがあって、半年ぐらい前から騎士団が行っていたんだ。

無事に解決したから、今日の午後から凱旋予定なんだよ。

俺も一応は騎士団に所属してたし、声はかかったんだけど、店があるから行けなくて。たまに王都の見回りの方の仕事をしてたんだ。」


「知らなかった。

普通に騎士様は街を警らしていらっしゃったし。

私、本当に何にも知らないんだな。

アーノルド様は…」


とポロッとアーノルド様の名前が口から出る。

あっ!と口を手で押さえる。

なぜアーノルド様を一番に思い出したのだろう。

カフェに来てくださらない理由が分かったからだわ。


「アーノルド様はもちろん最前線で戦ってるよ。

あの人、すげー強いから、行かない選択肢はないよ。しかも団長だしね」


王都の入口が見えた。


「えっ!マジかよ…

もう騎士団が凱旋だ!アリサちゃん、通り過ぎるまでちょっと待機ね。」


「うんわかった」


端によって騎士団の皆さんが通り過ぎるのを待つ。

街はみんな外に出て、大歓迎ムードだ。


アーノルド様を見つけられるだろうか…


アルが私の気持ちを見通したかのように「団長だ」と教えてくれる。

私の目に映った団長は、馬には跨っているものの、頭にも腕にも足にも包帯が巻かれ、グッタリとしている。

一瞬目があった気がした。気のせいだったのか。

私は無意識に、アーノルド様から頂いたペンダントを服の上からギュッと掴んでいた。


しばらくするとご令嬢方の悲鳴が響いた…

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